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秀康が天下を取るにはどうすればよかった

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0001結城秀康2006/10/28(土) 15:50:30ID:b2wp1dVP
教えてくれ
0071名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/11(土) 19:31:23ID:ljvtnMKI
>>70
泳 い で 参 っ た !!!

の人かw
0072名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/11(土) 19:57:40ID:Tx58mTpU
そうだ
「太平洋は我が領土」と豪語する
あのお方だ
0073名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/12(日) 11:17:21ID:91h8Us1j
秀康が天下を取るために

まず基本に戻って
母ちゃんの子宮の中で双子の兄弟を暗殺
これで家康に嫌われないかも…

いや秀康双子説って本当なんかな?
0074名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/12(日) 13:26:41ID:4W7XpsDX
ミッシングツインか
0075名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/14(火) 17:45:17ID:O/ZsoJJD
>>56
面白いですね!!
関ヶ原より楽しめるかも!!
0076名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/17(金) 14:28:14ID:eYgd2AeY
>>73
つうか下女に手を付けて生ませた時点でアウトだろ
自分の子となかなか認めようとしなかったし
0077名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/17(金) 14:48:52ID:GdUa5TPt
本気で将軍なるつもりならなれたんちゃう?
徳川家中でも外様からも秀忠より支持されてたし
徹底的に秀忠追い詰めて失脚させるか
家康暗殺すればいい
まあ、そうなると家中分裂するだろうし
徳川の天下を維持できるかは知らんが
0078名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/17(金) 23:34:17ID:GZ4V4SGH
関が原でも動き見てると、そんなことできなそうだが・・・
0079名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/18(土) 21:28:03ID:dOolfENl
家康が天下を取ったあとなら秀忠をどうにかして天下を取れたかも知れないけど
それ以前だと無理ですね
いくら秀康が秀忠と比較して人気があっても
他の大名からすれば秀康を擁立しようという動機が生まれないから

それに秀康が秀忠に代わって天下人になったとしたら
秀忠のような協力な幕藩体制が作れなくてすぐに倒れた可能性が高いと思う
0080名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/19(日) 00:08:48ID:8Ta9dKfo
秀吉に世継ぎの男児が出来なくて秀秋たち親族があぼ〜んしてて
秀吉が娘ばかり作って(これが一番の難題だがw)れば秀吉の婿養子として
豊臣政権の後継者になれたかも。

ハードル高すぎだな。
0081名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/19(日) 00:27:33ID:OAaOnuXj
もし、秀康が大坂の陣で大阪城入りしていたら、
大名としては無理かもしれないが、豊臣家としては存続できたかも
0082名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/19(日) 00:52:36ID:WNctcFJ1

>>80梅毒うつして殺されるんじゃないかな?
0083名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/19(日) 02:13:43ID:16bXzT9U
良すれ
秀康は家康・半蔵に毒殺された説はホントかな
一番天下取る可能性として高いのはやっぱり関ヶ原だろな
上杉と共に江戸入りして、その影響もあって真田が反撃ズキューン
秀忠正信康政を生け獲り
家康降参
高野山へ

関東は秀康のものに

そして秀頼とごちゃごちゃしたあと対立して…やっぱ無理あるな

てか産まれたときから天下取ることができない悲劇のヒーロー役でドラマ希望
0084名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/19(日) 07:02:01ID:jp/oNaJk
読んだのがだいぶ前でうろ覚えだが
小説だと大島昌宏著の「結城秀康」の方が
天下を取る事への執着があるように書かれてるかな
秀康の心情が豊臣方よりかも

志木沢郁著の「結城秀康」は史実を淡々とって感じで
実戦の経験がない事が秀康の価値を高めてるみたいな話だった気が
まあ両作とも本当の主役は鬼作左なんだけどさ…

他に秀康の小説とかあったら教えておくれやす。
0085名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/19(日) 07:14:58ID:Tx+Hv7Ew
仮想物だが覆関ヶ原は、秀康が主人公で家康と対立する話。
0086名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/20(月) 03:29:29ID:zx7Ck2U7
良スレ。
花の慶次に登場した時から愛してました。
0087名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/20(月) 21:31:50ID:LRVbo0Cs
下手くそな小説を作ったので投下。 今は反省している。

@
江戸冬の陣にて徳川家は滅亡し、豊臣家は再び天下を支配するようになった。
1616年、豊臣秀頼は関白に就任し、天下人としての地位を確固たるものにする。
結城秀康は豊臣家の五大老になる。
これで戦乱は終わり、泰平の世になると、皆が思っていた・・・・
だが、1620年、春。

秀頼「亡き父上の悲願であった朝鮮出兵を再開する」

秀康「ちょwwwwwおまwwww」

秀頼は諸大名に朝鮮出兵を命じた。
もう秀頼はただのピザではない。関白太政大臣である。

諸大名は嫌々ながら出兵の準備を開始した・・・・。
が、お察しの通り日本軍はボコボコにされて追い返された・・・。
0088名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/20(月) 21:32:19ID:LRVbo0Cs
A
秀頼「この愚将どもめ!!」

と、朝鮮出兵に疲れ果て、やっとのことで大坂に帰ってきた武将達に向かってつばを吹いた。
「こうなったらボクも出陣する!!!」
秀頼は出陣の準備を開始した。 秀康はその様子をあきれて見ていた・・・。

(これが太閤様亡き後、命に変えても守らなければと思っていた秀頼君なのか・・・)
秀康は決心した。
「今の豊臣には誰もついてくるはずがない・・・

  わ  し  が  秀  頼  様  に  変  わ  っ  て  天  下  を  治  め  る  」

秀康は計画を立て、手紙を諸大名にそれぞれ送った。  その計画とは
『秀頼を強制隠居させ、かわりに秀頼の息子、国松丸を当主に』というものだった。

宇喜多秀家「もはや、やむをえまい・・・お味方いたそう」
福島正則「お味方いたす!」
真田幸村「お味方いたす!!」
長宗我部盛親「承知した!」

山内忠義「合戦のさいには、わが領地、兵糧、高知城をあけわたしまする!」

秀康「遠慮しておきます」
0089名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/20(月) 21:34:23ID:LRVbo0Cs
B
諸大名はそろって秀康に味方し、大坂城に乗り込む。
秀頼「謀反かっっ!!!!!! おのれ・・・」

抵抗むなしく秀頼はあっけなく取り押さえられた。
秀頼「うぅ・・・ママ・・・助けて・・・」
秀康「あなたのような傍若無人な君主は隠居していただきます」

秀頼は関白太政大臣の地位をとりあげられ、京に屋敷を建て、隠居の身となる。
計画通り、秀頼の子、国松丸を当主に立てることに成功した。
だが、所詮は秀康の傀儡にすぎない・・・・。


こうして秀康は天下の実権を握り、250年も泰平の世がつづくのである・・・・


- 糸冬 -   
0090名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/20(月) 23:23:42ID:OBGwzc/T
なんだよ江戸冬の陣て無双かよ
つまんね妄想書いてんじゃねーよ
脳内で納めとけカス
0091結城秀康異伝  『制外の人』2006/11/21(火) 02:31:08ID:GJTyFLW0

第一話 「父兄」


==========================

武田信玄は、己が父を追放した
斉藤義龍は、己が父を殺害した
戦乱の世、親子の争いはどこにでも転がっている
だからこそ、戦国大名たる者は、たとえ血を分けた肉親でも気を許してはならないのだという

まだ幼かった頃の話だ。秀康は兄が好きだった。松平信康。家康の長男として、将来を渇望された大器だった
三歳まで、父・家康は秀康に会おうとはしなかったが、信康の取り成しによりようやく出会うことがかなった

しかし。家康は、三歳の秀康を一目見るや、立ち去ろうとした
「父上、弟に見参をお許しいただきたく存じます」
その時の信康の声を、秀康は忘れられない。自分にはいつも優しい兄だった
その兄があげた、悲しくて、怒りを含んだ声。そしてなにより、自分のために本気で怒ってくれた声だった

秀康は兄が好きだった。於義丸と呼ばれた頃は、いつも兄について回ったものだ
反面、父は嫌いだった。信康はいつも自分を家康に近づけようとしたが、それは迷惑に思っていた

「すまんな」
秀康五才。いつものように遊んでいると、信康がやってきて声をそう声をかけてきた
「兄上?」
「徳川家を頼むよ、於義丸。それだけが言いたかったんだ」
信康はそれだけを告げると、秀康の前から去った

それから、兄は帰ってこなかった。父が殺したのだ
殺したくて殺したわけではないとわかっている。だが、父が殺したのだ

徳川家を頼むよ。ただ、その言葉だけが秀康の中で今も鳴っている

==========================
0092第一話 「父兄」2006/11/21(火) 02:32:58ID:GJTyFLW0

==========================

―――――時は流れ、1598年

京・伏見の屋敷である。すっかり秋で、庭の紅葉が鮮やかに染まっていた
それを見つめながら、結城秀康はため息をついた。どうも憂鬱な気分が抜けない
そもそも、朝鮮出兵に参陣できなかったのが不満だった。異国を相手にどれだけの戦ができるか
己が武勇を試すこともできぬまま、日本側の歯がゆい戦果を聞くばかりの日々を送り、ついには終戦を迎えてしまった
二十四の若い血潮は、くすぶったまま秀康の中で消えていない

「宇喜多中納言秀家様、お越しになられました」
庭を見つめる秀康へ、近習が告げてくる
「通せ」
宇喜多秀家。備前宰相の異名を取る、最若年の五大老である
年も秀康の一才上で、共に秀吉の近くにいた縁もあり、親しくしている

「やぁ、秀康殿。日ノ本は暖かくていいな」
闊達な足取りで秀家が座る。すぐに秀康は湯を用意させ、勧めた
「朝鮮は寒かったと聞きますが」
「寒いなんてものじゃない。あれはこの世の地獄だ。温暖な備前で育った私にとっては、本当に地獄だったよ」
宇喜多秀家はそう愚痴りつつ、湯を口に運んだ。そういう仕草に、どことなく上品な雰囲気がただよう
さりげない仕草や言葉の一つ一つに、気品のようなものが秀家から見えていた
かといって、文弱な人間ではない。戦場での勇猛さも知られている男である
「それでも俺は朝鮮に行きたかったですよ、秀家殿」

すると秀家は、こっちをじっと見つめてきた
「そんないいものじゃないぞ、異国との戦さは。とにかく私は二度とごめんだ」
「それほど強かったのですか?」
「強いとか、そういう問題じゃない。まぁ、海戦で朝鮮側が強かったのは事実だ。李舜臣という化け物もいたしな
 ただそれよりも補給や民の問題だ。我々が今までつちかってきたやり方では、土地を治めきれなかった
 それが最大の問題だろう。それに朝鮮語を話せる人間も少ない」
「文化の違いですか?」
「一言で言えばそうだな。私は最後まで朝鮮人というものを理解できなかった
 ということは、朝鮮人も私を最後まで理解できなかったということだ
 そんな領主と民がうまく行くわけが無い。それに負け惜しみのように聞こえるかもしれないが、 
 朝鮮の土地は痩せている。北部などひどいものだ。あそこを褒賞としてもらっても、私は嬉しくないな」
「なるほど」
「とはいえ、そんなことは異国に渡って始めて知ったことだ
 太閤殿下を責める気は無いがな」
言いながら、少しだけ秀家は苦い顔になっていた。朝鮮出兵に参陣した諸大名は、軍費をかなり使ったはずだ
いや、軍費だけではない。人もかなりの数、死んでいる。その損害を考えると、秀吉を恨みたくなるのも無理は無い
0093第一話 「父兄」2006/11/21(火) 02:35:53ID:GJTyFLW0

ただ、秀吉はもういない。死んだのだ。そしてその死をもって始めて、朝鮮出兵は終わった
振り返れば、なんの益もない戦さだった。島津など、まだいくつかの大名は朝鮮にいる
世人は秀吉の失策と声に出さずに非難しているようだが、秀康はそうは思わなかった
正直なところ、唐天竺まで攻め取ろうという秀吉の壮大さを褒め称えたい気持ちもある
勝ち戦が褒められ、負け戦は非難される。結局はそんなものだろう

「秀家殿はしばらくこちらに?」
朝鮮の話は苦いものだと思ったので、あえて秀康は話題を変えた
「そのつもりだ。五大老としての政務がある。朝鮮の疲れを有馬の温泉にでも行って癒したいところだが、
 なかなかそうはいかんよ」
「政務ですか」
「……」
すると、秀家は急にきなくさい顔になった。秀康は緊張する。これだろう
秀康がわざわざ自分の屋敷にまでやってきたのは、やはり理由があったのだ

「おぬしの、親父殿のことだが」
しばらく沈黙した後、秀家は切り出した
「どの親父でしょうか」
秀康には三人の父がいる。徳川家康と、養父である豊臣秀吉、結城晴朝である
結城の名跡を継いでいるため、形の上では秀康の父は晴朝になるが、
大した力も無い結城の隠居のことで五大老がやってくるとも思えない
「家康殿だ」
「……」
家康の名前を出されたとき、少しだけ秀康は嫌な気分になった
自分の中にある実父への嫌悪感は、年々大きくなっている

「勝手なことをあまりされては困る。五大老と五奉行の連署では、大名間の勝手な婚姻は禁止だったはずだ
 にも関わらず、内府殿(家康)は伊達家と福島家、蜂須賀家と婚姻を交わした」
秀康もぴんと来た。確か家康は、伊達政宗の娘を弟の忠輝に、そして養女にした娘を福島と蜂須賀に嫁がせたはずだ
当然、秀康に相談など無く、懇意にしていた徳川の家臣から聞いた話だった
事柄からして、それは軽い事件ではない。家康と家臣団はそのことについて何日も議論し、話を詰めただろう
しかしそこに秀康が加わることなどなかった
0094第一話 「父兄」2006/11/21(火) 02:37:20ID:GJTyFLW0

(いつもそうだ)

どうにもやりきれない気分になる。本来なら自分が徳川家を継ぐべきなのに、凡庸な秀忠が嫡子となっている
いや、秀忠が兄ならまだいい。弟なのだ。しかも秀康自身、大した失策を犯したわけでもないのに、
まるでいらないもののように秀吉の養子とされた。
しかも挙句の果てが、名門とはいえさほどの領地を持たない結城の養子である

自分はなぜこうも父に嫌われるのか
母親の身分が低いためと言われるが、それだけではすまない家康の冷たさを秀康は感じていた

ある日、家督は誰が継ぐが良いかと家康は家臣に尋ねたという
重臣本多正信や本多忠勝など即座に自分の名前を挙げ、秀忠を推したのは付家老の大久保忠隣だけだったそうだ
にも関わらず、自分は相変わらず結城秀康だった。徳川秀康ではない

(兄上)
目の奥に蘇るのは、幼い頃共に遊んだ信康の姿である。兄さえ生きていれば
信康のためなら、自分は喜んで冷や飯を食うだろう
例え5000石程度の禄高しかもらえなくとも、兄が家督を継ぐのなら文句はない
幼い頃、自分を愛してくれた優しい兄だった。思うたびに、どうして死んだのかと、やり切れない気持ちになる

「残念ですが。俺はその件に関して、力になれませんよ秀家殿」
思考をやめて、秀康は告げた。その答えを予想していたのか、秀家は軽くため息をつく
「そうか。秀康殿でも駄目か。息子なのになぁ」
「いえ。息子だからこそ、ですよ。俺よりも本多忠勝や正信にでも掛け合ってみたらどうです?
 そっちの方が、内府殿の耳に届くでしょう」
「内府殿、か」
実父をそう呼ぶ秀康の憎しみを感じたのか、秀家は苦笑した

それからいくらか雑談をして、秀家は去って行った。宇喜多家中は今、不穏な空気が流れているようだ
だから秀家自身、本音を言えば一刻も早く岡山に帰りたいらしい
だが緊迫した情勢がそれを許さないでいた

緊迫の元凶は、家康である。秀吉が死んだと同時に、にわかな専横の動きを見せていた
これまで律儀な内府と呼ばれていた家康だが、天下への覇権に向けて動き出したのだ
0095第一話 「父兄」2006/11/21(火) 02:38:26ID:GJTyFLW0

(太閤殿下は)

秀康は庭に出て、弓を構えた。頭を丸めた僧体の武士、佐々道閑が矢を渡してくる

(太閤殿下は、ご運に恵まれなかったな。いや、恵まれないのは豊臣家か)

つがえ、放つ。矢は的からわずかに上へとそれた

せめて秀頼がもっと成長して、それなりに分別のある大人なら
あるいは、弟の豊臣秀長が長生きしたのなら。あるいは、朝鮮出兵をしなければ
あるいは、徳川家康がこの世にいなければ
もっと豊臣家の体制は磐石だったのかもしれない

「迷いがありますな、殿」
道閑が笑いかけてくる。すでに六十を超えている男だが、所作は機敏だった
「道閑。迷いか。なんの迷いだ。俺は迷ってなどおらんぞ」
「豊臣に付くべきか、徳川に付くべきか」
「どういうことだ?」
言うと、道閑はにやりと笑った
「どういうこともなにも。いずれ徳川殿が豊臣家に弓引くは必定。今の内府殿はそういう動きをしておられる」
「めったなことを言うな、道閑」

言いながら、この男は豊臣も徳川も嫌いだったことを思い出した
佐々道閑。出家する前の名は、佐々成政である
織田家鉄砲隊の代名詞とも言える男であり、長篠の合戦における活躍により天下へその名を轟かせた男だった
しかし本能寺の変後、秀吉に破れ、降伏し、紆余曲折を経て九州肥後の領主となった
その後、肥後における失政により、秀吉から切腹を命じられる

だが、秀康が成政の助命を嘆願した
九州征伐において共に過ごし、秀康は成政の能力を高く評価していた。死ぬと聞いて、どうしても欲しくなったのだ
最初は断られたが、しつこくやるうちに、秀吉は息子の言うことだからと聞いてくれた
ただし条件として、表面上は死んだことにしておけと言われ、成政も秀康も承知した

以後、佐々成政は佐々道閑と名を変え、結城家に仕えている
0096第一話 「父兄」2006/11/21(火) 02:40:03ID:GJTyFLW0
「とはいえ、早めになにか手を打つべきでしょう」
道閑は、結城の臣となってからは丁重な言葉遣いになっている
最初は戸惑ったが、今はもうすっかり慣れていた
「手を打つだと? 道閑、おまえの話は飛躍しすぎているぞ」
「いやなに。簡単なことでござるよ。徳川につくならば、徳川のためになることを 
 豊臣につくならば、豊臣のためになることを、今すぐやるべきです」
「道閑。いい加減にしろ。豊臣と徳川が戦さなど、そんなことがあるか
 だいたい、いま内府殿が兵を起こしてみろ。あっという間に徳川は滅びるぞ」
「それはわかりませぬ。徳川家だけで兵を起こすわけではありませんからな」
「豊臣恩顧の大名が、全国にいったいどれだけいると思っている
 福島、加藤、黒田、蜂須賀、浅野、数え上げればきりが無いわ
 そしてなにより、前田利家殿が黙っておらんぞ」

前田利家は、言うまでも無く豊臣家最大の重鎮である
そして秀吉無二の親友であり、なにがあっても豊臣家の肩を持つような男だ
加えて諸大名の信頼も厚い。家康が兵を起こせば、利家率いる豊臣軍によって押しつぶされるだろう

「利家は長くありますまい」
道閑が、まるでなんでもないことのように言う
「なんだと?」
「手の者がつかんでおります。政務の際は平静を装っておりますが、もう座っておることさえ辛いとか
 当然、徳川殿もつかんでおられましょうなそのことは」
「利家殿の死を見込んでのことか……」
「それに先ほど殿が述べられました、福島、加藤、黒田、蜂須賀、浅野でございますが、
 本当に豊臣家へつくかどうか……」
「それは疑いないだろう。彼らはみな、豊臣の家臣のようなものだぞ」
「石田三成がおりまする」
0097第一話 「父兄」2006/11/21(火) 02:40:43ID:GJTyFLW0

言われ、秀康は自分の顔をぴしゃりと叩き、弓を置いた
石田三成の秀才づらを思い出す。秀吉の養子となった頃から付き合いがあるが、なんとなく不愉快な男だった
頭がいいのがわかるが、その分他人を見下しているようなところがある
正直なところ、あまり関わりたいと思う男ではない

それはともかく、道閑の言うことがわからなかった

「治部少(三成)だと?」
「石田殿は嫌われるを通り越して、憎まれておりますからな。特に豊臣家子飼いの武断派には
 武断派は石田殿を嫌うあまり、豊臣家より離れるかもしれませんな」
「なにを言い出すかと思えば、馬鹿馬鹿しい。石田三成はただの文官だ
 そのために豊臣家を裏切るかよ」
「さて。それはどうですかな」

道閑は言いながら、庭の隅においてあった鉄砲を手に取った
流れるような仕草で、弾込め、火付けを行い、先ほど秀康が射ていた的へと構えた
綺麗な構えだ。火縄銃というのはかなりの重量がある。それを60を超えた老人が、銃口を揺らさず狙いを定めているのである

ぱぁんと、どこか間抜けな音がして、火縄銃が火を吹いた
弾丸は秀康が外した的の中央を、正確に射抜いていた

  つづく

==========================
0098名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/21(火) 15:06:08ID:Yx26X9cB
なんとも秀の字が多いスレですね
0099名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/21(火) 16:37:28ID:F4NFWzEF
なんだ、連載するのか?
まぁ、がんがってくれ
0100名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/21(火) 17:19:31ID:7XFhI6OO
uho!!
0101名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/21(火) 19:03:43ID:EOK/Z/Sz
これはマジで面白いです!!
続きを期待しています!!
がんばって下さいね!!
0102名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/21(火) 20:58:47ID:NQRjwHsA
なんて自演の多いスレ
0103名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/21(火) 21:25:52ID:t+Xs/plw
秀康と成政は九州征伐に出征してる設定なのか
なら島津軍と戦った時のエピも書いて欲しかった
0104名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/21(火) 21:29:41ID:Yx26X9cB
大河かなにかで秀康主人公にならないかな。
0105名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/21(火) 21:37:03ID:vcgstNjr
家康の次男なのに歴オタと鬼武者ユーザーにしか知られてないなんて
0106名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/21(火) 21:40:15ID:u0pvChGy
>>105
花慶世代は知ってるだろ
0107名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/21(火) 21:45:22ID:Yx26X9cB
俺は花慶で知って好きになった。
そのせいで興味なかった鬼武者も買った。
0108名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/21(火) 22:12:40ID:PCwgSEFx
 秀康は五大老の一人になる予定だった。
病床の利家と家康の間で了解されていた様子もある。

慶長四年三月に江戸にいた徳川秀忠が兄の秀康に送った家康と他の大老・奉行衆とが和解したことを祝す書状に、
次の一節がある。

大納言殿(前田利家)煩付 内府様大坂へ御下りなさり候処、御入魂の由、満足に存じ候。随て、六人のうちへ御入なされ候由、御尤もに存じ候

つまり、結城秀康が「六人の者」つまり6番目の大老として新規加入することを記している。
 家康側の思惑とすれば、毛利・小早川、前田・宇喜多という血縁者同士が構成メンバーであることへの対抗措置であろうし
くわえて利家が病気の自分にかわって嫡男利長を大老に加えることを承諾協力する交換条件として、
家康も結城秀康の政権参画を持ち出したんだろう。

 病床の利家が、もう少し存命だったなら秀康が大老に一人に
なっていたろうから違う状況も生み出せたと思う。


 あと秀康が家康に疎まれた理由は秀康が双子であったからという説がある。
0109結城秀康異伝  『制外の人』2006/11/21(火) 22:55:21ID:rjT0KuWd

  第二話  「大老」

==========================

結城秀康は佐々道閑のみを連れ、京の町を歩いていた
わずか一人の供で出歩く。本来ならば大名のすることではないが、秀康はどうも供とかそういうのが苦手だった
大勢の人間を連れなければ歩けないというのは、男としてどうにも見苦しい気がする

「活気があるな」

秀康はなんとなくつぶやいた。ほんの少し前まで、京は見るも無残なほど荒れ果てていたらしい
度重なる戦さが起こした悲劇だった。それを復興させたのは秀吉で、今はその時代を感じさせぬほど栄えている

「殿。それももう終わりかもしれませぬ」
道閑が揶揄するような感じてつぶやく
「まだ言っているのか、道閑」
豊臣家が真っ二つに割れ、それに乗じて徳川家が天下を目指す
道閑はそういう持論を捨てていない。秀康はあまりに馬鹿げた話だと思うので、そのしつこさに閉口していた
「しかし殿は、この道閑を見込んで取り立てられたのでしょう」
「まぁ、な」
佐々成政の才を惜しみ、必死に助命して、結城の臣としたのである。そう言われればその通りだった
「この道閑。一度死して見えぬものも見えて参りました。戦さの才ばかりと思うておられては困りまするぞ
 もっと真面目にそれがしの話を聞いてくだされ」
「大した自信だな、まったく。では仮におまえの話が本当だとして、だ。
 俺はどうすればいいんだね?」
「それは殿がお決めになられませ。それがしが言っておくことは、勝敗はどちらに転ぶかわからぬということです
 家康殿の動きは、ある意味では危ういのですから」
「危ういか?」

秀康は想像する。家康のやっていることは、堂々とした専横だった。厚顔無恥とも言っていい
勝手に諸大名間で婚姻を行ったことを石田三成らに咎められたらしいが、そんな取り決めは忘れたと抜かしたそうだ
そんな家康を見ていると、とても危うい橋を渡っている男には見えない
0110結城秀康異伝  『制外の人』2006/11/21(火) 22:57:06ID:rjT0KuWd

「危のうござるよ。徳川殿とて内心ではびくびくしておられましょう。一つ間違えば、家は潰れるのですから」
「ふん。そんな大ばくちを打っていても、俺は蚊帳の外か」
家康の、秀康に対する冷遇は今に始まったことではないが、それでも腹立たしかった
天下を狙うなら狙うで、なぜ自分に一言も言わないのか。戦さになれば、凡庸な秀忠などよりずっと戦ってみせる自信はある
仮に家康がいない場合、徳川の軍勢を率いる器量を持つのは、この秀康だけだ
そんな自負さえあるし、衆目もそう見ている。だが、家康は秀康をまったく認めようとはしないのだ

秀康と道閑は馬に揺られて淀川まで行くと、船を求めた
渡し舟を借り切って、淀川を下っていく。船の揺れを感じながら、秀康はじっと水面を見つめた
「道閑。朝鮮の戦さでは、水軍の差が明暗を分けたそうだな」
「ほう」
「朝鮮の軍も明の軍も、陸では取り立てて強いわけではない。むしろ陸戦ならば日本に分があろう
 だが海では勝手が違った。あちらの水軍の方が、設備も能力も采配もはるかに上だったそうだよ」
「日ノ本では、海を奪い合う戦さというのはさほどございませぬからな」
「そうだ。(宇喜多)秀家殿からその話を聞いて、俺は思ったな。日ノ本は強い
 だがもっと強くするには、水軍を編成しなければならぬ。それも強い水軍だ」
「水軍にございますか」
「わが国の水軍技術は、他国に比べてはるかに劣っている。俺はそれをどうにかしたいな
 朝鮮での話を聞いて、強くそう思ったよ」
すると道閑が、ほっほと笑った
「殿。その考えは良うござるが、水軍を作ってどうなさるおつもりです
 また朝鮮に攻め入るのでございますか?」
「むっ」
「日ノ本における戦さでは、制海権はさほどの重要性を持っておりませぬ
 陸の戦さが主役でございますからな
 それに結城家の財政では、新たな水軍など無理でござる」
「道閑、おまえは夢が無いな。それにいったいなにが起こるかわからんのだぞ」

暗に、秀康は自分が徳川の家督を継ぐかもしれぬと言った
だがすぐに、むなしいことを言ったことに気づく。家康が自分へと徳川を譲ることなどありえないだろう
そんな可能性は、結城の養子になった時点で綺麗に消えたのだ。秀忠が仮に死んでも、弟の松平忠吉が継ぐはずだ
自分へと徳川の家督が回ってくることなどまずありえない

そんな秀康の無念を知っているのか、道閑はなにも言わなかった
0111第一話 「大老」2006/11/21(火) 22:59:28ID:rjT0KuWd

淀川をくだり、大坂までやってきた。渡し舟を降りると、壮大な大坂城の天守閣が見えてくる
あれを見るたびに、秀康は思うのだ。豊臣が滅びることなどありえぬと
大坂城は100万の軍勢すら跳ね返すのではないか。そんな感慨さえわいてくる

大坂にたどり着いて思ったのは、みすぼらしい武士が多いということだった
みすぼらしいは言い過ぎかもしれないが、少し前に比べれば全体的に貧しい感じがする
朝鮮出兵の影響だろう。あれで各大名の財政はかなり悪化した
そのしわ寄せを下級武士が受けたのかもしれない

秀康はすぐに大坂の福島屋敷へ向かった。豊臣家子飼いの猛将、福島正則と秀康は莫逆の友である
福島屋敷の前で秀康が名乗ると、すぐに奥へと通された。道閑は、途中で止められている

正則も朝鮮に渡った男である。家中にはまだ戦さの臭いが残っていた

「おう、よく来てくれた。まぁ自分の屋敷と思ってくつろいでくれ」
言いつつ、正則は飯をほお張っていた
正則はさりげなく飯を勧めてきたので、秀康はそれを受けた
ほどなくして麦飯に汁、焼き味噌と干した川魚の乗った膳が運ばれてくる

だが秀康が見たところ、正則が食っているのは麦飯と焼き味噌だけだ

「俺だけが豪華な食事というのも、困りますよ正則殿」
福島正則は、秀康より13も年上である。言葉遣いには気をつけていた
「いや、わしはこれだけで十分なのだ。今この時ほど、麦飯がうまいと思う時はない
 朝鮮ではあわ飯ばかりだったからな。いや、本当に辛かった……」
言って、正則ははしを動かす。山盛りになっていた彼の膳から、みるみるご飯が消えていった

「秀家殿から朝鮮での話は聞きましたよ」
飯を食い終わった後、秀康はそう切り出した
「ふむ。では、治部少めのことは聞いたか?」

なんのことかわからないので秀康が尋ねると、正則は憤懣とともに語りだした
朝鮮在陣の諸将が引き連れていった兵は、当然ながら大半が農民である
それも働き盛りの百姓だ。それが何年にもわたって異国にいたのだ
当然、畑は荒れて税収が悪化する。しかし費用はかかる
金がないなら、借りるしかない。そのために諸大名は商人から金を借りたが、そのあっせんをしたのが三成ら官僚である
なんでも、三成はそうやって商人と諸大名の間に立つことで莫大な利益をあげたそうだ
0112第二話 「大老」2006/11/21(火) 23:00:47ID:rjT0KuWd

「治部少は、まさに奸臣よ。我らが命がけで戦さをしておった折に、金儲けをしておったのだ
 (加藤)清正なぞ、ヤツの讒言にあって謹慎させられたこともあるしな
 このままでは、豊臣家は三成に食いつぶされるわ」

苦々しげに正則は吐き出した。それが事実なら、確かに許せるものではない
しかし少しだけ秀康はふに落ちなかった。石田三成は、それだけ金を集めていったいなにに使おうというのか

(まさか、な)

ぴんと一つだけ思い当たったことがあった。家康が事を起こした場合に備えての、軍資金ではないかということだ
だが少し行き過ぎた想像でもあった。ただの文官であり、領地もさほど持たぬ三成が、家康に戦さで対抗できるわけが無い

福島屋敷を出て、佐々道閑にそのことを話すと、道閑はさも得たりという感じでにやりと笑った
「三成は、家康が兵を起こすのを見越したのやもしれませぬな」
「またそれか」
「さすがは天下の秀才。豊臣家にとって誰が危険か、ようわかっておられるということで」
「ま、それはともかくだ。こりゃ戦さがあるかもしれんな。とはいえ内府殿と豊臣の戦さじゃないぞ
 三成を始めとした文官連中と、正則ら武断派の戦さだ」
「ほう。戦さの臭いがいたしましたか」
「したな。正則殿は今にも三成の首を取りにいきかねない勢いだった
 あれは危険だ。まったく、秀吉殿が亡くなったとたんにこれでは、豊臣家も危ういな」

秀康とて、若輩ながら戦場を往来してきたいくさ人である。その鼻が、戦さのにおいをかぎつけていた

「そう言いつつ、顔が笑っておりますぞ、殿」
「そうか? いや、嬉しいのかもしれんな。俺は朝鮮で暴れられなかった
 やはりもののふにとって戦さは華よ。どこかで戦さが起こることを、俺は望んでいるのかもしれん」
朝鮮に渡れなかった日々は、やはり辛いものだった。
加藤清正や島津義弘といった連中の華々しい活躍を聞いていると、身が焼かれるように焦ったものだ
次に戦さがあるなら、大功を立ててやる。秀康の全身が、そう叫んでいた
0113名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/21(火) 23:00:53ID:z/hfenmJ
秀康って大坂で事が起これば豊臣方につくとか言ってたんだろ?
かっこいいねえ。家康対秀康とか見てみたかった。
やっぱり殺されたのかな?
0114第二話 「大老」2006/11/21(火) 23:01:45ID:rjT0KuWd

それから馬を借りて、道閑と共に大坂城へ向かった
しかし大手門のところで、門兵に止められた

「なぜわしを止める。結城秀康と知ってのことか!」
秀康が、棒で進路をふさぐ門兵を一喝する。門兵の顔が一気に青ざめた

秀吉の養子時代、秀康は伏見で馬を駆けさせていたことがあった
秀吉の寵臣が戯れに秀康と馬を並べたところ、即座に無礼討ちとしたことがある
仮にも関白の子である自分に、臣が許可無く馬を並べる無礼を許さなかったのだ
これにより秀康の猛気は知れ渡り、以後、人々は秀康が怒ることをひどく恐れるようになった
この門兵も、その話を知っているのだろう

だが門兵は秀康の進路を開けない。いらだった秀康は、刀の鞘を払った
「まぁまぁ、殿」道閑が秀康の猛気を察して、さりげなく自分と門兵の間に入った「なぜ、結城秀康の入城を許可せぬ?
 返答次第では、許さぬぞ」
穏やかだが、有無を言わせぬ調子で道閑が告げた

「……ご、ご母堂様の指示にございまする」
「ご母堂様?」
門兵の声に、秀康は不信を感じだ。大坂城のご母堂と言えば、豊臣秀頼の母、淀の方か
だがそれがなぜに、こんな命令を行っているのか。さらに言えば、なぜ女がこんな命令が『できる』のか

「と、徳川の人間は大坂城に入れてはならぬと」
「馬鹿な!」秀康はあっけに取られた「おまえたちはそんね馬鹿げた命を、本気で受けているのか?」
「それは……」
「もういい。入るぞ、どけ! おまえたちでは話にならん
 わしは羽柴秀康、秀頼が兄ぞ!」

秀康が強引に押し通ろうとした。門兵がそれは困ると、人を呼び始めた
もしもこの時、かごの一行が通らねば、間違いなく秀康は門兵を斬り捨てていただろう
0115第二話 「大老」2006/11/21(火) 23:03:04ID:rjT0KuWd

大手門をかごが通る。かごの周囲には大勢の供がいて、ちょっとした人だかりだった
「結城殿ではないか。城中で無いとはいえ抜刀とは、穏やかではないな」
白髪頭の男が、かごから顔を出した。老人の癖に大柄な男だ

「これは前田様」
すぐに秀康は刀を納めた。かごの老人は誰あろう、豊臣家の重鎮、前田利家である
道閑が言うにはかなり体が悪いらしいが、そうは見えなかった
かごに乗っているとはいえ、血色はよく、声もしっかりとしている
「お若いな結城殿は。それがわしのような年寄りにはうらやましくもあるが」
「いや、恥ずかしいところをお見せしました」
「ちょうど良い。わしの方から、結城殿のところへ出向こうと思っておったのだ
 少し付き合ってくれぬか?」
「それは、もう」

秀康は馬を降り、利家の一行へ馬を預けた
それからかごと並んで、大坂城から離れていく
道閑は己が佐々成政と知られることを恐れたのか、前田一行からは離れていた

「俺になにか用ですか?」

利家はかごを開けっ放しにしているので、歩きながら秀康は告げた

「いや、先ほどのことは許してやってくれ。門兵とてやりとうてやったわけではないのだ」
「それはもういいのですが、なぜあんなことを?」
「石田三成よ。三成めが、淀の方に吹き込んだのだ 
 徳川は豊臣に仇なす敵であるとな」
「しかし女ですよ。いくら秀頼君のご母堂とはいえ、なぜ彼女が城主のような振る舞いをしているのです」
「そこよ。今の大坂城は、淀の方の権勢が強くなっておる。男衆とて、淀にはよぅモノを言えん
 太閤殿下子飼いの中で大物たちは、ほとんどが大名として独立しておるからな
 大坂城は、淀の方のための国になっておるのだ」
「そんな馬鹿げたことがありますか。五大老はなにをしているのです」

言って、秀康は利家が五大老の筆頭であったことを思い出した
かごに揺られながら利家は、少しだけ寂しそうに笑う
0116第二話 「大老」2006/11/21(火) 23:04:36ID:rjT0KuWd


「わしは、今の騒動を治めるのに精一杯よ。わしがおらねば、加藤や福島といった連中は三成と戦さをやりかねん
 そんなことをすればどうなる。徳川や伊達といった外様連中が喜ぶだけだ
 加えて、朝鮮在陣の将をきちんと引き上げてやらねばならんのだ。それだけで五大老は手一杯よ」
「……申し訳ございませぬ。無礼を申しました」
「いや。ただせめてわしが生きておる間に、どうにかしておきたい
 もう戦乱の世は終わりにしたいのだよわしはな。この年になると、戦さがいかに無駄なことかというのがわかる
 戦さは人を殺す。物を壊す。犠牲が大きすぎるのだ。戦さは、避けられぬなら避けた方がよい」
「……」
「のう、秀康殿」

さりげない、利家の言葉遣いに、なぜか秀康は兄・信康を思い出した
いや、信康を思い出したのではない。信康が持っていた、死の影を思い出したのだ
ならば利家も、やはり長くないのだろうか

「はい」
「大老になってくれんかね?」

あまりにもさりげない言葉だったので、秀康はなにを言われたのか一瞬理解できなかった


 つづく

==========================
0117名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/21(火) 23:15:32ID:NQRjwHsA
大事が起これば秀康の味方する方に味方しますby福島
じゃなかったけ?
0118名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/21(火) 23:17:15ID:1/6kiVsu
これは面白いな
応援するから頑張れ
0119名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/21(火) 23:49:28ID:PCwgSEFx
漏れが秀康の大老就任の話を振ったら
即、このような面白い話を作るとは・・
学研の某関が原小説シリーズよりよほど
面白い。ぜひ連載おねがいしますです。
0120名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/21(火) 23:58:52ID:whMrw1lP
秀康はお高が小さ過ぎるよ。
0121名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/22(水) 00:07:59ID:WP0caE+h
石高の多寡でいうなら三成VS家康という関が原の実例があるわな。
はっきりいって
無視できない求心力ある気がする。回りの補佐する奴ら次第だが
秀秋の動向も微妙になると思う。三成と違い恨みのあるわけでなし
養子仲間なうえ徳川サイドとも関係ある香具師だし
福島の動向も・・当然宇喜多とかの動向も

すくなくとも十人衆の列に加われば公式な政権の閣僚だから
隠居して封じられてしまう三成よりもさらに有利
0122名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/22(水) 00:30:31ID:H/XDs3YL
これは面白いな
書き方がいかにも歴史小説風の書き方だわ
0123名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/22(水) 00:33:08ID:Y5xNDPad
>>121
まぁ奉行ならありかも知れないが、
やっぱり大老というには小さいよ。
0124中野区民憲章 ◆ORWyV99u2Y 2006/11/22(水) 00:36:56ID:5HbL+S1J
目上を諱+様で呼ぶのを変更すれば、これは面白いね
0125名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/22(水) 14:07:54ID:TyCYrz5W
連載続けるなら、鳥つけたほうがいいぞ
0126名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/22(水) 16:24:01ID:1O/nSoZ0
出版汁
0127名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/22(水) 17:44:10ID:/oAeVS5q
>>114
続き楽しみにしてます。

できれば隠居した結城晴朝爺にも出番をあたえてやっておくれ〜
上の方にあった小説「結城秀康」の2作はもちろん、学研の「覆関ヶ原」にも
まったくもって出番がありませんでした。・゚・(ノд`)・゚・。
秀康死後に越前で余生を送る晴朝爺にはいろいろと思ふところがあったのではと…

あ、晴朝爺には申し訳ないけど、秀康が天下をとるために
結城家じゃなくてもっと違う家に養子にいってたら…なんてのもありえるね。
0128名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/22(水) 17:46:14ID:hFkLWV8b
>>127

小早川家?
0129名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/22(水) 19:57:05ID:Dc3jq763
たしかに晴朝はかわいそうだねえ
結城の家名は消えちゃったし、秀康にも先立たれるし
旧領で余生を過ごしたいとの帰郷の願いさえ無視されたしね
0130名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/22(水) 20:34:49ID:/oAeVS5q
>>129
やっぱりあれかな?結城家埋蔵金を徳川家は信じてたんかね?
暴れん坊将軍も探索させたっていうし…

>>128
できれば八丈島のあの方とトレードでここはひとつ…
0131名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/22(水) 21:10:32ID:w3GDTbMp
大河ドラマ板でも秀康の大河化希望を
望む声は結構ある
父は家康、養父は秀吉っていうのが
いかにもNHKが好みそうだし
兄弟の確執もドラマ的に面白い
あとは恋人とかのエピがあればいいんだけど
0132名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/22(水) 21:25:48ID:ikpGK5jP
ハイライトをどこに持っていくんだ?
朝鮮出兵も描いたとしても2時間ドラマがせいぜいのような
0133名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/22(水) 22:39:16ID:Dc3jq763
>>132
慶次と決闘させるかw
0134名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/22(水) 22:48:52ID:gR6mD+Y6
秀康は戦争してないからきついと思う
0135奇矯屋onぷらっと ◆O.K.H.I.T. 2006/11/22(水) 23:33:06ID:WtFx4mj0
なんだこの良展開。
0136第二話 「大老」2006/11/22(水) 23:51:53ID:qqImr2EC

空気読まずに投下してたけど、このまま続けていいかな?
どこまでやれるかわかんないけど、やってみようかなって気になってる

しかし歴史ってややこしいねぇ。(´・ω・`)
結城が五万石か十万石かどうかさえはっきりしないや

>>124
ごめん。それって、目上の人を例えば「利家様」って呼ぶんじゃなくて、
「前田殿」って呼んだ方がいいってことかな?
0137奇矯屋onぷらっと ◆O.K.H.I.T. 2006/11/23(木) 00:00:14ID:3w1CMhW2
>>136
「内府殿」とか「加賀様」とか「治部少」のことだろうね。
推敲はみんなでやればいいから、ストーリーを投下してくれると嬉しい。
0138名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/23(木) 01:05:56ID:O1NJJ3jb
>>136
是非続けて下さい!続編楽しみです!
0139結城秀康異伝  『制外の人』   X運命 ◆UO9SM5XUx. 2006/11/23(木) 01:48:44ID:fu1IoQ4R

    結城秀康異伝  『制外の人』

 第三話 「天才」


==========================
            ツイ
日ノ本の軍、ここに潰えるか
                 ロリョウ
島津義弘は寒風吹きすさぶ露梁沖で、迫り来る明・朝鮮連合海軍を見つめた
軍船が揺れ、海が鳴いている。海戦などしたくないが、やむをえなかった

日本軍へは朝鮮半島からの撤退が命令されており、ほとんどの軍が最後まで撤退したが、
島津軍と、立花宗茂(当時はまだ宗茂と名乗ってないが、ここでは宗茂で統一)、小西行長などが半島に残っていた
いわば日本にとってのしんがりを引き受けた形だ

だが秀吉の死が明・朝鮮に漏れたがために、彼らは猛攻撃をかけてきたのだ
陸戦ではどうにか撃退したものの、小西行長が朝鮮水軍に海路を封鎖されたため撤退が困難となった

朝鮮水軍を率いるのは、李舜臣である
島津義弘は、異国に渡って明・朝鮮がさほどに強くないことを知ったが、李舜臣だけは別格だった
彼はこと海戦において、化け物じみた男である。天才と言っていい
現に、南北から明・朝鮮軍は挟撃をかけてきたのだ。戦う前から日本軍は窮地に追い込まれている

「日ノ本の軍、ここに潰えるか」

義弘は、言葉に出した。李舜臣が天才ならばどうするか。戦わぬが良い
戦わなければ、負けることもありえぬ。当然の帰結だった。だがその禁を破ってまで、自分は李舜臣と対峙している
なぜか。包囲された小西行長を見捨てていくというのも選択肢になかったわけではない
このまま戦えば、負ける公算は大きいのだ。だがそれでも、仲間を見捨てて逃げたとなれば、島津の恥である

「なぁに、負けはしませんよ」
島津義弘の後ろから、声がかかった。振り返ると、一人の青年が甲板の上に立っている
義弘が緊張に包まれているというのに、青年はひどく気楽そうな顔をしていた
みなりは軽く、雑兵とほとんど変わりが無い
0140X運命 ◆UO9SM5XUx. 2006/11/23(木) 01:50:04ID:fu1IoQ4R

「負けはせんと。そう申すか」
かすかな薩摩なまりと共に、義弘は青年へ尋ねた
「やるからには勝つべきでしょう?」
「……気楽にゆってくう」
義弘は青年から顔をそむけた

青年の名は立花宗茂。義弘は認めたくないが、この男もまた天才だった
李舜臣を唯一打ち破れるとすれば、立花宗茂しかないと、心のどこかで認めている
だが、立花宗茂は島津の宿敵である。この男さえいなければ、島津は九州を統一できたかもしれないのだ
そして九州最強である島津の軍を食い止めた時、宗茂はわずか19才だった
19の小童に、島津が敗退したのである。

それにしてもとんでもない男だと思って、義弘は宗茂を見た
島津は、立花宗茂の実父・高橋紹運を殺害しているのである。それ以外にも、戦さを数え切れぬほどやってきた
そんな島津の船に、わずかな供回りと共に軽装で乗り込んできたのだ
この珍客を義弘は放っておいたが、気になって仕方がなかった。ある意味では敵軍より気になる存在だ

「島津殿。我らに勝ち目はありますよ」
宗茂が相変わらず気楽そうな声で、義弘の隣にやってきた
軍船の揺れはひどく、甲板は立っているのさえ困難だ
「勝ち目?」
「李舜臣の首さえ取れば勝ちでしょう」
「なに?」
「いやぁ、真面目に戦う理由があるのは朝鮮軍だけですよね
 明軍はしょせん援軍、それほど戦意はありません。朝鮮軍の李舜臣さえ潰せば、勝てますよこの戦さ」
「おまんは……」

危うく義弘はわめきそうになった。それができれば苦労しないのだ
すると宗茂はまた笑った。不思議な笑いであり、義弘の殺気が引いた
この男には、人をひきつける愛嬌がある

「なぁに、勝ちなれした将軍ってのはえてしてくみしやすいものですよ
 さらに言えば、自分の命がいらないって男ならさらにやりようがある
 相手は南北から挟撃に成功して、勝った気になっているならもっといい」
「……」
「このまま負けっぱなしじゃ目覚めが悪い。島津殿、あなたは明にまで『鬼島津』の名をとどろかせた
 俺もそれぐらいのことをやってのけたいものです。俺は『鬼道雪』、立花道雪の息子ですからね」
「策が、あっとか?」
「策ってほどじゃありませんけどね。ま、なんとか。島津軍は敵をひきつけてください
 後は俺がなんとかしてみせますから」
0141X運命 ◆UO9SM5XUx. 2006/11/23(木) 01:51:43ID:fu1IoQ4R

ひらひらと手を振って、宗茂は義弘の前から去った。彼は接舷していた立花軍の旗艦に乗り込み、離れていく
若造が。かすかに義弘は不快な気分になった。これからやる戦さは、絶望的な戦さである
こちらが率いている船のほとんどが、軍船ではなく、輸送船なのだ
正規の日本水軍はほとんどいない。小西行長が包囲されたことさえ、急な出来事だったのだ
陸戦が得意な人間ばかりの、急造水軍で、あの李舜臣とやりあわねばならぬのだ

義弘は空を見た。曇天が広がっている。ここは愛しき薩摩の地まで届いているだろうか
海で死にたくない。死ぬならば、陸が良い。だがいくさ人のとしての意地、貫かねば義弘の名が死ぬ
ここで果てれば、どうか海よ、我がなきがらを祖国まで届けたまえ

「旗」

義弘がよく通る声で叫んだ。旗艦に、島津の家紋『丸十字』が掲げられる
太鼓が打ち鳴らされ、島津全軍へ突撃が命ぜられた
迎え撃つ、明・朝鮮軍の艦隊。数は五分五分か
だが相手は日本よりも技術的に進んだ軍船を持っており、なおかつ将兵も海に慣れている
戦力で換算すれば、あちらはこちらの四倍以上だ

(負けても良い)

敵を打ち破るのが目的ではない。敵艦隊の向こうにある、小西行長を救出できればそれでいいのだ

「わき目もふらず前進じゃ、鉄砲隊、構え」

敵艦隊が見えてきて、大砲が放たれてくる。まだ距離があるせいで、命中率が悪いが、それで先鋒の船が一隻沈んだ
もろい。こちらはほとんどが輸送船、つまり装甲などほとんどないということだ。大砲からの攻撃は無力に近い
しかも大砲は、鉄砲の射程外から攻撃できる

「総櫓。力の限り漕げ」

水夫たちへの伝令を下した。一直線に進めば、かえって大砲の命中率は落ちるはずだ
敵を引き付けろと言った、宗茂の言葉は無視している。勝利に対して、下手な色気を出せば、こちらが死ぬ

だが。抜けきれない。朝鮮水軍は流れるような動きで、こちらの動きを封じ込めてくる
覚悟していたことだが、水軍の練度がまるで違う。一気に抜けるどころか、徐々に包囲されてきた
さらに敵は、大砲だけでなく火薬壷や火矢を射込んでくる。装甲のない輸送船は、たちまち炎上を始めた
0142X運命 ◆UO9SM5XUx. 2006/11/23(木) 01:52:53ID:fu1IoQ4R

「申し上げます! 樺山久高様の一隊が船、観音浦に押し込められ、座礁しました!」
「……ッ」

次々と入ってくる凶報に、義弘は軍船の上で歯噛みする。李舜臣に、いいようにやられている
これでは小西行長を救出する前に、魚のえさとなってしまいそうだ
島津本隊も一方的に押し込まれている。やはり海戦で、鉄砲のよさはほとんど生かせない
こちらもやられた分はやりかえしているつもりだが、沈んでいる船の数はこちらが上だ

せめて挟撃をどうにかすることができれば。義弘がそう思った時、船がぐらりと揺れた
なにかと思って見回すと、敵の大砲で船の横に穴が開いたらしい

「流れ弾にごわす」
近習が叫びながら、義弘の周囲についた。ついに旗艦まで敵の砲が届くようになったか
朝鮮水軍が近づいてくる。中央にある大型船が、敵の旗艦か
見たところきちんと鉄の装甲がはられており、とても沈みそうに無い大型船だ
そこの中央で、男が一人、剣を抜いて前進を命じている

―――――李舜臣

義弘はその顔を知らなかったが、すぐにわかった。雰囲気がまるで違う
気が、義弘を打ってくるのだ。なるほど、これは強敵だ。離れていてもなお、強さを感じる
来い、来い、と、義弘は李舜臣へ語りかけた。おまえは極上の女だ
おまえほどの女となら、鬼島津も心中できる。わしに最後の武功を立てさせよ

島津軍が義弘のいる旗艦に近寄らせまいと、朝鮮水軍に立ちふさがる
だがそれは砲の斉射を受け、たちまち沈んだ。なるほど。これは年貢の納め時かね

「あいったけの火薬を出せ。船が近づけば、ぶつけぃ」

義弘が命ずる。すぐに近習たちはその意味を悟った
船を李舜臣の旗艦に近づけ、自爆しようというのだ。すぐに火薬の入った樽が並べられる
思ったより少ない。これで殺れるかどうか、微妙なところだ
0143X運命 ◆UO9SM5XUx. 2006/11/23(木) 01:54:09ID:fu1IoQ4R

その時である。一隻の中型船が、突出した。しかも帆を掲げている
馬鹿なと、義弘は思った。帆船の扱いは難しく、小船でなければ操縦はほとんど不可能なのだ
中型船に帆を張れば、たちまち行動不能になる
どこの馬鹿がやったのだと思ったら、船には『祇園守紋』が掲げられている。立花の家紋だ

軍船は義弘の想像と違い、凄まじい速度で李舜臣の軍船へ向かっていった
明らかに敵艦の船より、立花の船は早い。大砲が放たれたが、立花の船はそれを跳ね返した
なんとその船は、わずかではあるが、鉄甲を船体に装備していた

立花の船が、李舜臣の旗艦に並ぶ。同時に、伏せていたのか、甲板にぬっと鉄砲足軽が立ち上がった
放て。誰かがそう叫んだ気がした

ぱたん

信じられないことが起こった。李舜臣が撃たれたのである
大型船の上にいた李舜臣は、まるで踊るように動いて、周囲にいた兵たちに支えられながら倒れた

(死んだ?)
義弘が口の中でつぶやく。そうであってほしいが、武功をさらわれた気分になった
立花の船が、朝鮮水軍の反撃を受ける
すると彼らは帆を切り離し、海へ捨てると、一目散に島津の艦隊へ逃げ込んだ
朝鮮水軍は、総大将を撃たれたことにより、混乱しつつある。今が、機か

義弘は突撃を命じた
立花の中型船で、のんきに手を振っている男がいる
誰あろう、立花宗茂だった

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0144X運命 ◆UO9SM5XUx. 2006/11/23(木) 01:56:27ID:fu1IoQ4R

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生きていることが信じられぬと、島津義弘は思った
夜、日本へ向かう船に揺られながら、月を見上げる。こうして月を見ることなどもうないと思っていた

「ほら、勝ったでしょう?」

立花宗茂が、月を見上げる義弘の隣にやってきて、誇らしげに告げた

「勝った。確かに、勝った」
「急ごしらえで、一隻だけ装甲船を造ったんですよ
 こちらはは輸送船ばかりだから、相手もいきなり出てきたら戸惑うかと思ってね
 まぁ、帆をあげたのは賭けですが、うまく行ってよかった」

あれから小西行長は脱出に成功し、日本軍は優位に戦さを進めることができた
損害も大きかったが、小西行長を救出することが勝ちであると考えるなら、これは日本の勝利である
あちらは李舜臣を始め主だった軍官がいくらか死んだらしいが、こちらは主将で死んだ人間は皆無である
すべて李舜臣を討った、立花宗茂のおかげだった
              ワン
義弘は黙って、宗茂に椀を渡した。そこへ、酒をなみなみと注ぐ

「なるほど、おはんは鎮西一よ」
西日本一の剛勇と、秀吉に評された。敵であれば恐ろしいが、味方であるとこれほど頼もしい男ではない
いつの間にか義弘は、宗茂に感じていた不快さを忘れた。世に天才はいるものだと思っただけだ
0145X運命 ◆UO9SM5XUx. 2006/11/23(木) 01:57:27ID:fu1IoQ4R
「ありがたく」
宗茂が一礼して、酒を呑んだ。本当にうまそうに、この男は酒を呑む
「ほんにそれでよかのか?」
「なにがですか?」
「李舜臣は、流れ弾で死んだと、本国に報告したのじゃっろ?」
義弘が言うと、宗茂は照れくさそうに笑った。それから椀に注がれた酒を見つめて、ぽつりとつぶやく

「李舜臣は見事でしたよ。あの人、文禄の役(第一次朝鮮出兵)で華々しい武功を立てたのに、
 無実の罪で将軍の位を追われ、拷問までされたそうですよ。それでも国に忠を尽くし、自分の身を削って日本と戦った
 どれだけ辛かったんでしょうね」
「そか」
「でも俺は、そこに途方も無い誇り高さを感じました
 そう思った時、なんとなく李舜臣の命を武功に変えるのはもったいない気がしましてね
 気がついたら、流れ弾で死んだと報告書をまとめてましたよ。いやぁ、もったいないな
 加増があったかもしれないのに」
言って、宗茂はつるりと自分の頭をなでた

本当にもったいないことをしたと、義弘は思う。今回の件でも宗茂は、功のほとんどを島津に譲っている
そういう寡欲を義弘は理解できないが、宗茂を好きになり始めている自分に気づいた

「日本は遠かな」
ぽつりと、義弘はつぶやく
「そうですね。でも、やっと帰れます。少しは休めるといいんですが」
宗茂はそう言って、一気に酒を飲み干した


  つづく

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0146名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/23(木) 02:47:08ID:BjcopOaJ
GJ
宗茂カッコヨス
秀秋にも期待
0147名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/23(木) 02:51:31ID:BjcopOaJ
ところで鎮西一って九州一って意味じゃ?
0148X運命 ◆UO9SM5XUx. 2006/11/23(木) 02:57:32ID:xlqnUrR2
うわ、本当だ。鎮西一=九州一みたいだ
ミス、ごみん
0149名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/23(木) 13:02:05ID:IlSHRrdF
まぁ気にせず次も頑張ってくれ
0150名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/23(木) 19:35:45ID:IU6vln+j
私も期待しています!!
がんばって下さいね!!
01512006/11/23(木) 20:00:58ID:hUfPiOIx
このスレたてたの俺だけど、こういう展開になって
なんかうれしいス
0152名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/24(金) 12:08:09ID:G3j0SUmu
IF物なら、関ヶ原で秀忠のかわりに秀康が別働隊を率いる話がみたいな。
本多平八郎なんか大喜びしそうだ。
0153名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/24(金) 16:59:00ID:okD1C+Hs
それはIFすぎじゃね?
0154名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/24(金) 20:37:07ID:77RwE2E7
>>153
>>152はIFものとしては改変してない方だと思うぞ
ぶっちゃけ、これをIFすぎると言ってたんじゃ、某歴史IFシリーズなんか読めん
0155名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/24(金) 21:08:01ID:ULxXKeIk
そうなのか。現実的に何とか秀忠に箔を付けたい家康が秀康に大群を任せるとは思えないんだよな。
それで大活躍なんかしちゃったら家中がますます秀康擁立に動くだろうし。
IFとはいえちょっとは現実っぽさがないとダメじゃね?
0156名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/24(金) 21:12:13ID:FCs+2qLL
いやー、それよりも最大の問題があるんだと思うんだよね



秀康が秀忠の代わりに別働隊率いたら、東軍圧勝しちゃ(ry
まぁ、そうなると景勝誰が抑えるんだってことになるけど
0157名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/24(金) 21:16:05ID:Zzo94FsP
秀康&政宗VS景勝&兼継でガチバトル
させるか
「天下分け目は関が原のみにあらず!」
とか言って欲しい
0158名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/24(金) 21:23:11ID:FCs+2qLL
つか、なんで景勝は秀康とぶつからんかったんだろうなぁ
関ヶ原前だし、家康追撃しとけば戦果あがったと思うんだが
0159名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/24(金) 21:37:40ID:Zzo94FsP
しんがりの秀康軍を討てば家康と正面から
戦わなければならなくなる
黙っていれば家康は三成と潰し合いを
してくれるわけだから、手を出さない
ほうが無難と考えたのかね

一方で秀康が上杉に隙を与えないだけの
立派な大将だったって解釈も
一応成り立つんだけど、何とも言えないな
0160名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/24(金) 21:41:00ID:mWqWNeyx
っつーか
X運命氏の新連載をよめてうれしい
0161名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/24(金) 21:43:34ID:MfN/p3D7
花の慶次にだったかなぁ秀康みたいな小物を相手にするのは景勝のプライドが許さないから後を兼続に任せて会津に帰ったって書いてなかったっけ?
0162名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/24(金) 21:58:26ID:QNIZ+pzv
そりゃ伊達が気になってたんだろう
秀康軍を潰すだけならわけもないことだし
0163名無しさん@お腹いっぱい。2006/11/24(金) 22:18:59ID:ULxXKeIk
>>160
他にもあるのか
0164結城秀康異伝  『制外の人』   X運命 ◆UO9SM5XUx. 2006/11/24(金) 22:49:52ID:WdThSc+l


    結城秀康異伝  『制外の人』

第四話 「勘兵衛」

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京都、二条柳町には遊郭がある。遊郭とは遊女屋を集めた地域のことで、今日で言う歓楽街のようなものだった
客は金を払って女を抱くわけだが、失礼ながらこれは今日の風俗嬢とは一線を画した存在だった
遊女たち、特に太夫と称される高級な遊女たちは高度な教養と気品を持っていた
それはつまり、遊郭に通う=女を抱く、なかったということだ。だから遊郭では、女をあげる、という言葉が使われる

結城秀康も遊郭通いが好きだった。自分でも悪い癖だと思うが、女には目が無い
時には若い近習たちを連れて、共に遊ぶこともある
今日もひとしきり遊んだ後、馴染みの傾城屋から外へ出た
陽は、暮れ始めている。当時、武士の遊びは昼遊びがほとんどで、浪人でもない男が夜まで過ごすというのはあまりない

陽気な遊郭の雰囲気とは裏腹に、秀康の心は鬱々としていた
女を思う様抱きつくしても、どこか心が晴れない
朝鮮在陣の、島津義弘が華々しい戦果をあげて撤収したということを、他人事のように聞いただけだ
秀吉の死からもう年は明けて、慶長四年(1599年)になっている

秀康は遊郭に置いてある、めし屋に入った。五人の近習たちもついてくる。今日は、佐々道閑を連れていない
道閑は女をもう抱けないそうだ。秀康は飯屋で部屋を一室借り切り、湯漬けを頼んだ

秀康の憂鬱は、前田利家のせいである。いきなり、突拍子も無いことを言われたせいだ
(大老になってくれんか)
いきなりなにを言いだすのかと、秀康は不信だった
大老とは、言わば政権の中枢にある大大名たちのことで、日本でいざということがあれば彼らが対応することになる
要職中の要職と言っていい。その地位へ、どこをどうすればたかが下総結城五万石の大名が就けるというのか

しかし本当に気に入らないなら、その話を断ればいいだけのことだった
実を言えば乗り気になっている自分もいる。大老の一人として、家康と同等の席に就く
魅力的なことではあった
0165X運命 ◆UO9SM5XUx. 2006/11/24(金) 22:53:32ID:WdThSc+l


ふと、がやがやと騒がしい声が聞こえた
不快を感じて秀康が個室から店内をのぞくと、かぶき者たちがなにやら飯屋の主人にを難癖つけている
かぶき者とは、ばさらのことであり、奇をてらった格好や行いを好み、些細なことに命をかける者たちのことである
ある意味では織田信長や伊達政宗といった大物大名たちもかぶき者であり、
奇をてらい既存の権力に反抗する下克上の精神を持つ者のことを、かぶき者と呼ぶこともあった
秀康もその精神を持っているところがある
とはいえかぶき者の大半が、徒党を組んだただのごろつきであるのもまた事実であった

「うるさい。少し黙らんか」
秀康が顔だけかぶき者たちに向けて、告げた
「なんだと?」
かぶき者たちがこちらをにらんでくる。秀康は急速に不愉快な気分になった
かぶき者は総じて若く、合戦など出たことの無いようなただのごろつきに見えたからだ
秀康は、戦さ場に立たぬかぶき者は認めない。それが自分の美意識だった
「わしは結城秀康だ。文句があるなら相手になるぞ」
かぶき者たちをにらみ返す。途端にかぶき者たちはうろたえを見せた
結城秀康の名は、かぶき者たちの間でも有名である
馬を並べたというだけで、秀吉の寵臣を切り捨てたという逸話が、京・大坂中に広まっているのだ
そういう男と喧嘩をすればどうなるか、子供でもわかる

たちまちかぶき者たちは意気を無くし、飯屋から出て行った
情けないと秀康はため息をつく。かぶき者は、喧嘩に命をかけてこそかぶき者である
そんな意気地のない根性でかぶくなど百年早いと思った

家路につくために秀康が近習たちを連れて外へ出ると、先ほどのかぶき者が待ち伏せていた
心中で舌打ちする。先ほどとは違い、大勢の仲間を連れていた
ざっと二十人ほどか。秀康は、近習と自分を入れて六人だけだ
近習も屈強な武者をそろえているため、ごろつきごときに遅れを取るつもりはないが、数の差は大きい

かぶき者たちの中から、一際大柄な男が出てきた。屈強な秀康とどっこいどっこいの体つきである
年も、三十ぐらいだろうか。雰囲気からして、彼がかぶき者たちの頭のようだった
0166X運命 ◆UO9SM5XUx. 2006/11/24(金) 22:57:02ID:WdThSc+l

「おまえが結城秀康か?」
「尋ねる前に名乗れ、馬鹿」
秀康は言いながら、自分の鼻毛をぴっと抜いた
「わしは、御宿勘兵衛政友、武田信玄公の旗本だ」
「ふん。信玄公の旗本が、そんなに若いわけないだろうが
 武田の名を出すあたり、はったりも下手なかぶき者だな」
言いながら、秀康は勘兵衛と名乗った男には坂東なまりがあることに気づいた
この男、武田というより、北条家の出身かもしれない。それならある程度つじつまがあう
「喧嘩を売っているのか、結城秀康?」
「売ってきたのはおまえのほうだろうが、勘兵衛とやら。問答がしたいのか喧嘩がしたいのかどっちだ」

そんなやりとりをしていると、見物人が集まってきた
遊郭におけるかぶき者たちの喧嘩は、一種の見世物である
見世物結構、ここのところ頭の痛いことばかりだったから、暴れてやろう
秀康はそんな気になっていた

「ほう。一つ聞くが、大名が本気で喧嘩を買う気かね?」
「大名もくそもあるか。俺は男だ。おまえは男か、ごちゃごちゃと」
言いながら、無造作に勘兵衛へ詰め寄ると、渾身の力でその顔をぶん殴った
大柄な勘兵衛が二歩、よろりと後退した。見物人たちがわぁっと、歓声をあげる

「やりやがったな!」
かぶき者たちが色めきたち、刀を抜き始める
「俺の喧嘩だ、手を出すな」
意外なことに、勘兵衛がそれを制した。それから同じように秀康へ詰め寄り、顔面をぶん殴ってくる
鼻がつぶれ、じんとした痛みが秀康を貫いた

「避けんのか」
勘兵衛が意外そうな顔で聞いてくる
「最初に不意打ちで殴ったのは俺だ。一発だけはもらってやる」
「ふっ。はっはっは、結構結構!」
勘兵衛は大笑いに笑い、腰に差していた刀を部下に預けた。秀康も同じように刀を預け、着物を脱ぎ捨てる
冬だが、ふんどし姿になっても寒さを感じなかった。
0167X運命 ◆UO9SM5XUx. 2006/11/24(金) 22:59:34ID:WdThSc+l

「いざ」
「おう、いざ」
お互いにふんどし姿になって、殴りあった。見物人たちがはやし立てる
近習が一度、止めようとしてきたが、秀康はそれを殴り倒した
久しぶりに楽しい喧嘩をしている。止めるな。そんな気分だった

殴り合っていると、勘兵衛の顔が徐々に家康の顔になった
しかも笑っている。なにがおかしい。なにがおかしい
なぜ俺を徳川の跡継ぎにしない。なぜ兄を殺したのだ。なぜ俺を憎む

「もうだめだ」
どちらともなくそう言って、勘兵衛と秀康は倒れた
あわてて近習たちが駆け寄ってくる。血止めをしようとする近習を、秀康は制した
「強いな、勘兵衛。かぶき者にしておくのは惜しい」
「ふん。おまえは本当に大名か?」
「こういう大名がいてもいいさ」
秀康が言うと、勘兵衛は大笑いに笑った

久しぶりに、秀康の心からもやもやが消えた

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0168X運命 ◆UO9SM5XUx. 2006/11/24(金) 23:03:12ID:WdThSc+l

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その喧嘩を、遊郭の二階から見下ろしている男がいる
小早川秀秋。豊臣秀吉の縁戚であり、毛利両川の名将・小早川隆景の養子である

秀秋はぐぃっと酒を呑み、喧嘩から目をそらした
結城秀康とは、秀吉の養子仲間だったが、さほどに仲が良かったわけでもない
それにしてもかぶき者と喧嘩とは、なにを考えているのだと思った

遊郭の窓を閉め、秀秋は遊女から酌を受ける
(ひひ親父め。やっと死におった)
心中で、秀吉をそうののしりつつ、祝杯をあげた。もはや何度目になるかわからぬ祝杯だ
秀秋は秀吉が嫌いだった

朝鮮で、秀秋は加藤清正を救出し、敵将を生け捕るという戦功を立てたが、それが軽率な行動だととがめられ、
一時は領地を没収されそうになったことがある。秀秋にとってはそれはどうしても許せぬことだった
秀秋は朝鮮が初陣である。そこで功を立てたというのに、なぜ罪とされねばならぬのか

秀秋は、自分が優秀であるがゆえに秀吉に嫌われたことを知っている
おそらく、そのままにしておけば豊臣家を乗っ取られると思ったのだろう
事実、秀秋の能力は、豊臣家血縁の仲ではずば抜けていた

(天下は俺のものだ。俺こそが継ぐにふさわしいのだ)
目を閉じ、秀吉に語りかけた。徳川家康や、前田利家といった顔が思い浮かぶ
この中をどう泳ぎ、天下を己がものとするか。秀秋の関心事は、それだった

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0169X運命 ◆UO9SM5XUx. 2006/11/24(金) 23:07:22ID:WdThSc+l

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「つつ……」
「動かないでくださいまし、おまえさま」           コウ
喧嘩で真っ赤に晴れ上がった秀康の顔に、妻の鶴子が膏薬を塗りつけてくる
結城屋敷の一室である。すでにとっぷりと陽は暮れていた
「鶴子。もっと優しくしてくれ」
「優しくしてますよ。それにしてもどこでなにをしてらしたのです、結城の長ともあろうお方が」
「……」
「また遊郭ですね?」
きゅっと、鶴子が秀康の頬をつねった
「いたたた……やめんか」
「終わりましたよ」
最後に秀康の顔を撫でて、鶴子は離れた

鶴子は、秀康の正室である。養父結城晴朝の姪であり、彼女と婚姻することで秀康は結城を名乗ることになったのだ
結城の家を継いで、もう九年にもなる。それなりに長い夫婦生活を彼女と送ってきた

「相変わらず、遊郭とかが嫌いだな鶴子は」
秀康は言いながら、用意していた酒を呑もうとした。その手を、ぴしゃりとたたかれる
「酒はおやめください。傷にさわったらどうなさるのです」
「こんなもの。戦さでの傷に比べたらかわいいものだ」
「おまえさま。鶴子は、遊郭が嫌いです。ですが、男の方ですからそういうものも仕方ないと思います
 なので、側室を増やすなどなさいませ。もしもおかしな病気を移されたらどうするのです」
「大げさだな……」
「鶴子は、真剣に心配しているのですよ」
言いつつ、秀康の手から酒が没収される。
秀康は舌打ちして、ごろりと畳に寝転がった。そうするとまた、頭の中を『大老』の文字が埋め尽くしてくる
魅惑的だが、うかつに触れてはいけないような言葉でもあった。だからこそ秀康は悩む

「婿殿、おるかね?」
不意に障子が開き、養父の結城晴朝が顔を見せた
髪の毛すべて白髪で、かつては戦場を駆け回ったであろう体躯も背が曲がりはじめている
好々爺の面影を見せている、かつての結城の主がそこにいた
0170X運命 ◆UO9SM5XUx. 2006/11/24(金) 23:09:09ID:WdThSc+l

「養父上」
「月が綺麗だ。どうかね、一献」
言って、秀康は酒の入った器を見せてくる
「とと様。おやめください。うちの人は喧嘩をしてこの通りです」
「なぁに、鶴子よ。男はこれぐらいの方が良いのだ。さっ、参れ」
晴朝は強引に押し切ると、秀康を連れて庭に出た。

庭はかなり冷える。晴朝はまず、庭の置石に腰をかけた

「養父上、なにか御用ですか?」
外に連れ出した時点で、秀康は晴朝の意図を悟っていた
なにか聞かせたくないことがあるのだろう
「いや、な。近頃は天下が殺伐としておるなと思ってな」
晴朝の言葉には、裏がある。このところ、前田利家と徳川家康の間で緊張が高まっているのだ
理由は、例の家康が勝手に行った婚姻のせいである
これのせいで京も大坂も、すわ合戦かという空気が流れていた

ただ、秀康の見たところ、利家は合戦を避けようとしている風に見えた
普通に戦えば、間違いなく前田利家が勝つと思う。利家にはそれだけの人望があり、誰もが豊臣家の代理人と認めていた
だが、利家の命は長くない。だからこそ、利家はどこかで強く出れずにいる

晴朝は、手酌で己が口に杯を運ぶ
「天下の動乱は近い。悲しいかな、わしは無駄に年を重ねてきた
 それだけに、戦さのにおいはわかる。それも古今未曾有のおお戦さだ
 わしがかつて北条と共に、上杉謙信とやりあった頃の戦さとは比べ物にならぬほどの大戦となろう」
酒を飲み干し、晴朝はつぶやく
「は……」
「わしにとって、結城家はすべてだ。たかが五万石とはいえ、その五万石には計り知れぬほどの血が宿っておる
 ゆえに、わしはそれを裏切ることはできん。そしてな、できれば婿殿にも、結城を守って欲しいと思うのだよ」
「……」
「だが、な。……わしは子を成せぬ男だった。そんな男が、結城秀康という俊英を子とすることができた
 これはとてつもない幸運だと思う。それを想うとき、結城にそなたを閉じ込めるのはどうかとも、思ってしまうのだ」
言って、晴朝が秀康を見つめてきた。奇妙に澄んだ目で、なにもかも見透かされているのかという瞳だ
秀康は、徳川家正嫡への未練を、見抜かれたような気がした
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