ある時、里見義堯は家中の者たちを集めて宴を行ったが、その中で古今の豪傑の話となった。
義堯が

「昔、異国の孟賁という豪傑は、牛の角を握って捻り潰したというが、本朝には未だ、
そのような武者はおらんなあ。」

と言うと、そこに正木大膳亮(信茂)が進み出て

「私がやってみます」

と言い出した。里見義堯は宴会の良い余興だと面白く思い、庭に出て大きな牛を連れてこさせた。

すると、大膳亮は牛の角を左右の手に握り、まるで五月雨の頃に草を抜くように、
いともたやすく牛から二本の角を引き抜いた。

これには里見義堯以下、驚き肝をつぶさぬものはいなかったという。
(関八州古戦録)