ある日、将軍徳川秀忠の御前で、僧天海がこのような事を申し上げた

「今、諸侯は従順となり、天下には事もありません。
もし皇居を伊勢に遷し、公卿百官には太廟の祭祀を行うことを職とさせれば、
則ち天子は神祇伯(律令官制における神祇官の長官)と変わりません
そうなれば、幕府の尊さは、おのずから今の天朝と等しいものとなるでしょう。」

藤堂高虎はこれを聞くや
「それは不可なる事である!

諸藩、諸将が尽く幕府に屈するのは、それが能く皇室を尊び、名分を重んじ、
それを以って萬姓の心を得ているからです。
もし天子をして神祇伯のようにしてしまえば、諸侯諸将はこれを以って名分とし、
争って兵を起し、以って天朝を侮蔑するの罪を問わんとするでしょう。

これは大乱の基であります!」

徳川秀忠は、この高虎の発言を深く然りとした。

(昭代記)