この暁に三人様がお越しくださってありがたく思います。
  あれこれ考えましたが、色々お望みされても、樂茶碗を皆様には準備できません。
  私の手元の「大黒(おおぐろ)」は紹安(利休実子の道安)へ譲りたいと思っています。
  「早舟」は松賀嶋殿(蒲生氏郷)にお届けしたく思います。
  茶碗を早く欲しがっている越中様(細川三斎)もその事はご了解頂けないと困ります。
  「大黒」を道安に、「早舟」を松賀嶋殿に与えるという事を古織様(古田織部)とご相談頂き、今日中に済ませてください。
  明日には松殿(氏郷)は伊勢松ヶ嶋に戻られます。
 「早舟」については仕方ありませんし、お届けする事は難しいです。
  越中様もご理解くださいまして、
  右の通りに「早舟」は氏郷殿に、「大黒」は紹安に与える事に致します。
  申し訳ないですが、そのように致します。
 
天正十五年頃、利休が作らせた黒茶碗という名物に
利休の弟子の三人(三斎、織部、他一名不明)が強く魅入られ
唐物とは別の新しい茶の湯の形が出来上がっていく当時の事情が伺える書状である