加藤清正がある時、江戸に向かって東山道を上る途中での出来事。
美濃の大井という地を行き過ぎたところ、道端で盲目の女が乞食をしていたが、
大名が通るということを聞いて、清正の行列の先で、歩行の者たちに銭を乞うていた。

清正、これを馬上から見てこの乞食に、「お前は何者か?」と尋ねる。
すると乞食、自分はこうやって乞食をして、年老いた親を一人で支えているのだと、その身の上を
語った。
清正これを聞くと

「さても可哀想なことだ。盲目の女の身として、年をとった親を養うとは立派なことである。
だがそれは金を得るための偽りかも知れぬ。お前たち、そのことを詳しく調べて参れ!」

と、家臣に命じ畑仕事をしている百姓たちに尋ねさせれば、乞食の言うことは確かにその通り、
偽りないことが解った。そこで清正は乞食に金銀の銭を少々与え、さらに供の者たちにも
「少々与えよ」と言う。
すると彼らも一人残らず、この女乞食に百文、二百文づつ与えたため、最終的におびただしい金銭が
女乞食のもとに集まった。

これを見て清正は

「これはいかん!これだけ銭をあの盲目にそのまま渡せば、不埒な者がそれを強盗して
かえって仇になるだろう。」

と、その在所の名主を召し出し、「この金を盗人に取られぬようにして、乞食を保護せよ」と
直に命じ、名主にその銭を渡したという。
これを見た人々は清正を、「まことに慈悲深き御大名である、孝行を感じられて、乞食非人にまで
お情け深いこと、古今稀なる大将だ」と、尊卑老若の区別なく感じ入ったということである。

信長にもよく似た逸話がありますが、当時の大名に求められていた「善行」の内容が
少々見えてくる、加藤清正と女乞食のお話
(續撰清正記)