曾呂利新左衛門さん話

肥前名護屋の陣営でのこと。
ある日、曾呂利新左衛門が外から秀吉の本陣に入ってくると、突然語ることには

「殿下!世にも不思議なるものがあるものですね!
臣はただいま陣の手前でとても奇妙なものを見ました!」

秀吉、これに興味を持ったか
「新左衛門は慌ただしいのう。奇妙なものとは一体、何を見たのだ?」

「さればでございます。『キウリ』が胡瓜を食っておりました!」

「なにっ?胡瓜が胡瓜を食っておったと?新左衛門、たわけたことを申すな。
口のない胡瓜がどうして胡瓜の共食いをするものか。たわけにも程があるわ!
まあ、これもお前のいつもの戯れだろうが。」

しかし曾呂利引き下がらない
「いや、確かに食っておりました!これは相違ございません!」

秀吉と曾呂利は食わない食ったと言い争ったが、これでは埒が明かぬと秀吉、
傍らに居た家臣に「誰ぞある!?まこと、果たして胡瓜が胡瓜を食っておるか、急いで行って
見て参れ!」

家臣の一人、「ははっ」と答え陣の外まで出て、あたりを見回す。当然のことだが
胡瓜が胡瓜を食っている様子は、ない。それでも、何事も見落としてはならぬと
キョロキョロと見回す。
「しかし胡瓜が胡瓜を喰うなどとあるわけが…、 はっ!?」


この家臣が戻ってくると、秀吉は急かすように尋ねた

「どうじゃ!?胡瓜が胡瓜を食っておったか!?」

「それがでございます。胡瓜が胡瓜を食っている様子は見えませんでした。」

秀吉、そら見たものかという顔を曾呂利に向ける。が、家臣続けて

「それは無かったのですが…」

「ですが?」

「ははっ、陣営の外では、背中に薪を背負っている薪売り(きうり)が胡瓜を食って
おりました。」

秀吉あきれ返って
「なんじゃと!?薪売り(きうり)が胡瓜を食っておったと!?
さては新左衛門めにたぶらかされたか!なるほど、胡瓜が胡瓜ではなく
薪売りが胡瓜か!」

曾呂利、澄ました顔で
「仰せの通りにございます」

これに秀吉
「おのれ、また誑かしおったな!」
と笑って叱りつけたという。

『太閤之腰巾着曾呂利新左衛門』より、曽呂利頓知話の一席