信玄の謀略

今川義元の跡を継いだ今川氏真は、愚将では無かったが、
国主としては今ひとつ精彩を欠いていた。家臣の中には氏真に不満を持つ者もいた。
そこで武田信玄は不満を持つ家臣達に目星を着け、彼らに密書を送った。

「もし今川を攻めた際、武田側に寝返れば
 恩賞は望むままに与える。」

すると家臣達は我先にと武田側に寝返りを約束し、
信玄も「誰々に何千貫、誰々に何万貫を与える。」と気前良く応じた。
ほどなくして信玄は今川領駿河へ進軍。
武田の猛攻と次々に寝返る家臣団に成すすべなく、氏真は駿河から放逐された。

寝返った今川家臣達はさっそく、信玄の元に集まった。約束の領地を貰うためである。
だが待っていたのは、信玄の怒号であった。

「主であった氏真を簡単に見限り、期に乗じて
 敵に内通する者を我が家臣に出来るものか!
 貴様達に領地を与えるくらいなら、我が甥氏真に与えた方がましだ。
 不忠者の最期がいかなるものか、後世の者の戒めにしてくれる!」

そう宣言した信玄は寝返った者たちを一人残らず処刑した。


利で寝返るものは、また必ず利で自分の敵と成る。
信玄の厳しく、容赦の無い戦国哲学であった。