「原発も安全と言われながら事故が起きた。精神障害者は本当に安全なのか」 「社会的地位の高い住民が多い地域に来ないで」
激しく畳みかける住民の言葉に、ホームの青野真美子所長(55)の顔はこわ張った。

 同じ町内の老朽化した一軒家から1キロ離れた新築アパートへ移る予定で、工事は終わりかけていた。だが、話し合いからまもなく、
さらに大きなショックが待っていた。工事業者から連絡を受け、駆けつけた青野さんの目に飛び込んだのは、10本近いのぼりと横断幕だった。
「精神障害者 大量入居 絶対反対」。夕闇の中、赤い文字が揺らめいていた。

 炎を拡大させたのは近くに住む女性医師だ。経営する医院のブログに書き込んだ。
「精神障害者にも幸せに暮らしてほしいが、まともに働いて税金を納めている人の生活を阻害してはいけない」。
医院の受付に反対の署名用紙を置いた。共感は近隣住民から地区内の子供を持つ親へ広がり、署名は1カ月で1000人を超えた。(中略)

 予定より半年近く遅れ、秋からホームでは男女8人が生活を始めていた。周辺に家を構えていたのは、
過熱した反対運動とは無縁に見える還暦を過ぎた住民だった。戦後の社会や経済をけん引した世代で、30年ほど前にマイホームを求めた。
今は子供も独立し、仕事も一線を退いた。それぞれ口にしたのは静かな老後へのこだわりだ。
「今の生活は我慢して作った財産。壊されたくなかった」。だが、心配の根拠は「問題が起きるかもしれない」といった漠然としたもので、
障害への深い知識があるわけではなかった。
 女性医師の家で玄関先に出てきたのは、医師らとともに運動の中心とされた70代の夫だった。大手企業の元役員だという。(中略)

 年末、ホームの前で、青野さんと入居者たちが白い息を吐き、落ち葉を掃いていた。住民のわだかまりは消えたわけではない。
だが引っ越しのあいさつの時は、手作りのお菓子を受け取ってくれた。「一歩ずつですよね」。青野さんが言った。

http://mainichi.jp/graph/2015/01/01/20150101ddm041040040000c/image/001.jpg
http://mainichi.jp/shimen/news/m20150101ddm041040040000c.html

https://goo.gl/maps/uhvHm

いらい13