よし、では始めるか。

おれが富士山村山古道を知ったのはこの記事からだ。

https://backnumber.dailyportalz.jp/2007/09/11/c/

江戸時代中期以前に栄えた村山修験の登山道が復活したという。写真を見るとなかなか
魅力的ではないか。苔蒸した古道、千年にも渡る行者の残した古札や古仏、太古の
息吹をそのままに伝えるような荒々しくも原始的な道ではないか。
当時(2012年)、南米の奥地にヘリコプターで降り立ち、ナイフ一本で一週間
生き抜くといった洋物サバイバル・アドベンチャー番組がはやっていたせいもあり、
ここに行けば、おれっちもそれなりに小規模なサバイバル体験ができるのではないかと思った。

おれは登山経験こそゼロだったが、体力には自信があった。大学時代は極真空手同好会に
属していたし、50歳を超えて再開した空道でも、現役の選手たちとスパーして打ち負けなかった。
しかし何ぶん登山の道具などひとつも持っていない、情報収集にも充分時間を掛けたかったので、
漸く準備が整うころには半年が経過していた。その間にはアメリカからゴアテックスの登山ウェアや
ULザック、革製トレッキングシューズなどを輸入し、新しい登山靴やストックを部屋で手に取っては
にんまりしていた。準備は万端だったといってよい。しかし悲しいかな、山体験のなさゆえに、
大事な点がごっそりと抜け落ちていることに気づきもしなかった。

(続く)