ドアを開けると、アニメ界の巨匠、宮崎駿監督が笑顔で出迎えてくれた。
スタジオジブリ? いや日田市中本町の飲食店のはずだが…。
ドアを閉め、店名を確認すると、違う。

そう、ここは「おた基地」。
コスプレイベント団体「変身空間」の代表を務める井上真太郎さん(42)が経営するサブカルチャーカフェだ。
宮崎駿監督は実は井上さんの変装姿。
「宮崎監督のまねでは、全国でもトップクラスのクオリティーだと思いますよ、たぶん」と井上さん。
今いち押しの変身という。

鉄腕アトムにウルトラマン、進撃の巨人、ワンピース、エヴァンゲリオン…。
店内には特撮やアニメなどのフィギュア、プラモデル、漫画本など200点以上が所狭しと並ぶ。
壁にもキャラクターのポスター。
カウンターでゲームを楽しむ男性客の前のモニターには、アニメが映し出されている。
漫画やアニメ、コスプレ、ゲーム、アイドルなど、趣味が合う人たちがお酒や食事を楽しみながら語り合う憩いの場だ。
2016年に開店した。

井上さんがコスプレに興味を持ったきっかけは24歳の頃に訪れた北九州市内の同人誌即売会。
当時、漫画の本をたまに見る程度だったが、会場で見たコスプレに衝撃を受けた。
「自分だけど自分じゃなくなる瞬間というのか。言葉では難しいけど“ウォー”という感覚でした」

まねをしてみたいと思ったが、顔を出すのは恥ずかしいのでまずはアニメキャラクターの着ぐるみに挑戦。
布や新聞紙などで手作りしイベントに参加したところ、女性や子どもたちに「かわいい!」と囲まれ写真をねだられた。
「アイドルでもなければこんな経験できないでしょう」。
徐々にのめり込んでいった。

コスプレイベントは各地であるが、集客が見込める都会がほとんど。
だが「わざわざ出掛けることもない。日田でやろう」と思い立ち、仲間たち8人で08年「変身空間」を設立。
同年、市内の山間部にある公園を借りて開いた。

「そんなところに人が集まるの?」。
いぶかる声をよそに「都会にないロケーション」と「軽食サービス」という料理人ならではアイデアが奏功。
初回20人ほどだったコスプレイヤー(レイヤー)の口コミで評判が広がり、
半年後、同地で開いた2回目のイベントには400人が集まった。

13年には人気漫画「進撃の巨人」の作者諫山創さんの出身地、同市大山町にある大山ダムでイベントを開催。
ダム堤を作中の壁に見立てた壮大なスケールに1300人が集まり、県内外に「変身空間」の名をとどろかせた。
現在メンバー11人のほかイベントごとに協力するレイヤーが20人ほどおり、
市内の閉館したホテルを活用したり、公共施設を借りたりして春と秋にイベントを開く。

本職は、日本料理人。
18歳から25歳まで市外のホテルや日本料理店で修業した後、
父剛夫さん(70)が30年ほど前に開いた大衆割烹(かっぽう)「椿亭」で手伝い始め、剛夫さんの引退を受け5年前に店を引き継いだ。
「おた基地」は椿亭の隣にある。

本業の傍ら、イベントの企画と準備、当日の数百食分の軽食の仕込みなど目が回る忙しさ。
でも「仲間と力を合わせてイベントを成功させた喜びは格別だから」と意に介さない。
コスプレイベントは若者を呼び込み、まちの活性化の起爆剤にもなり得る。
「日田の元気にもつながると信じてますから。燃え尽きるまでやりますよ」。
宮崎監督の顔のままほほ笑んだ。

写真:「おた基地」は、趣味が合う人たちの憩いの場になっている。2月末からは店内も広くなり、展示品も充実している
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写真:「変身空間」の名をとどろかせた大山ダムでの「進撃の巨人」をテーマにしたイベント。
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以下ソース:西日本新聞 2017年03月01日09時39分 (更新 03月01日 09時49分)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/oita/article/311394