ロリショタバトルロワイアル24
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
0001創る名無しに見る名無し
2009/06/14(日) 18:17:16ID:lSvAgYo/衝動をぶち撒けろ!
欲望を解き放て!
情熱を、燃やせ!
ここは真性の漢共(女性可)が集まり、
ジャンルを問わないロリショタキャラでバトルロワイアルを行う、
あまりにもCOOLなスレです。
紳士淑女の心を忘れず冷静に逝きましょう。
前スレ
ロリショタバトルロワイアル23
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1230413656/
テンプレ、過去ログは>>2-5辺に
ロリショタロワ避難所(したらば)
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/12693/
LSロワお絵描き掲示板
ttp://oekaki2.basso.to/user11/hisou/
LSロワお絵かき掲示板2
ttp://bbs2.oebit.jp/LoliSyotaRowa/
まとめwiki
ttp://www25.atwiki.jp/loli-syota-rowa
0063代理投下 それはそれは残酷なお話(前編)
2009/07/20(月) 13:57:35ID:18hv90jy待った、と思った。
その発言と共に起きて来た木之本桜を見て、最も思考したのはベルカナだった。
彼女は桜が雛苺を『雛ちゃん』と親しげに呼んだ事に対して、警戒心を抱いたのだ。
ベルカナがこれと思考する時、その思考速度は超越的な物だといえる。
それは人より深く考えられるとかそういう意味とは少し違う。
知性という意味でも極めて明晰な知性を持つが、人間離れした程でもない。
観察し、知識と照らし合わせ、分析し、結果を推測する。
そういった思考が、早いのである。
常人が数時間掛かる程の緻密な作戦を、数瞬の猶予しか許されない遭遇戦で実行する。
それがベルカナの生きる武器だった。
(どうしてそういうニュアンスで雛苺を呼びますの?
梨々による所、雛苺は彼女に残酷な行為を強いた危険人物です。
そして梨々による所、木之本桜はそういった行為に激しい苦痛を感じる人物の筈です。
桜がおかしいのか、梨々の情報がおかしいのか、あるいは数時間で何かが有ったのか。
どういう事か彼女から聞き出すのが最も効果的ですが、一つ障害が有ります)
それはシャナの存在だ。
引き下がりはしたものの、先ほどはイヴを殺すと主張していた彼女の正義感は厄介だ。
もし彼女が雛苺に対して敵意を抱いていた場合、雛苺を擁護するのは危険だろう。
木之本桜がおかしい、桜が危険人物である雛苺を擁護しているのだとすれば、
桜を護るなど百害有って一利無しだが、死んだ梨々の事を想うと見捨てるには早すぎる。
幸い、シャナも理が有れば引き下がる人物のようだ。
ベルカナは丁寧に言葉を選びながら発言した。
「ええ、木之本桜さん。意識を失っていたから、紹介もまだですわね。
私はベルカナ・ライザナーザ。
梨々=ハミルトンと仲間に協力し、あなたを救出すべく行動していました」
「梨々、ちゃん……? 梨々ちゃんが生きてたの!?」
その一言に篭められたあまりにも真摯な愛おしさだけで、ベルカナの迷いは雲散していた。
彼女は、白だ。
どんな理由が有ろうと、仲間の、仲間である事だけは間違い無い。
桜が自らの感情まで全て演じてみせる名優という可能性は、さて置く事にした。
「どういう事? 説明しなさい」
「ええ。雛苺という人形は初め夕方の森に出現した危険人物です。
そこで彼女、木之本桜を拉致して殺人を強要しました。
彼女の仲間だった梨々=ハミルトンもその時に殺されかけています。
つまりは私達の、敵です」
「待って、待ってベルカナさん!」
シャナの問いにベルカナが答え、桜が異を呈した。
木之本桜にとって交わされる言葉は冷たい刃のようだった。
そこに交わされる言葉の殆どは、厳然たる事実だ。
むしろ事実はそれ以上の物とさえ言えるのだろう。
雛苺は多くの命を奪った殺人鬼である。
0064代理投下 それはそれは残酷なお話(前編)
2009/07/20(月) 13:58:52ID:18hv90jy語られた以上の罪を木之本桜は目撃し、体験してきた。
あれだけの罪を誰が赦せるというのだろう。
弱さから罪に走った雛苺にあの罪を背負う事なんて出来はしない。
雛苺は罪を振り返る事も出来ない罪人としてこの島に立っている。
だけど、それでも。
雛苺の瞳に湛えられた恐怖と悲しみは。
彼女が漏らした悲痛な訴えは。
本当のものだと、思う。
(助けてあげたい。絶対だいじょうぶだよって信じさせてあげたい)
この島で雛苺は罪を振り返れないかもしれない。
絶対にいけない事をしたという、その本当の重みを受け止められないかもしれない。
今は、でも何時か。
今日は無理だろう。
明日でも無理かもしれない。
でもずっと一緒に居てあげて、雛苺の心が落ち着きを取り戻せたら。
それから一つ一つ、清算していけば良いじゃないか。
全ての罪を。
全ての過ちを。
例えどれだけ掛かったって、何時の日か。
だから桜は、思うのだ。
「その通りだけど、でも違う。違うの!
雛ちゃんはただ寂しくて、一人になるのを怖がっていただけなの。
それで本当にひどい事を何度もしてしまった。それは本当。
でも、これ以上はさせないから。
わたしが一緒に居れば、大丈夫だから。
雛ちゃんにはもう、人殺しなんて絶対させない!」
彼女に救いと、時間をあげて、と。
こんな残酷な島での時間じゃなくて。
誰かと心を通わせて、なんて事も無い、だけど掛け替えの無い温かな時間を。
立ち上がるのに少しくらい時間が掛かってしまう事は、決していけない事じゃないと思うから。
しかしベルカナは、首を振った。
(どうして?)
桜はベルカナの瞳を見た。
何かしら強い感情を湛えた、冷たい瞳を。
ベルカナは言った。
「私は咎人の罪を裁きなどしません。私達の敵で無いならば。
全てはあなた次第です。
もしもあなたが本当に雛苺を御す事が出来て、
かつ雛苺について最も渦中にいるあなたがあれを赦す事が出来るなら」
「赦……す…………?」
桜が先ほど訴えた言葉では、まだ不足なのだろうか。
戸惑う桜にベルカナは教えた。
雛苺が絡む更なる罪を。
「雛苺に操られるあなたに殴り殺されかけても。
あなたを救う為にかつて敵だった者達に協力を求め。
私達と共にあなたの為に戦った梨々=ハミルトンが。
少し前の雛苺が乱入した戦いで戦死したと聞いても、同じ事を言えますか?」
「…………え……?」
0065代理投下 それはそれは残酷なお話(前編)
2009/07/20(月) 14:01:05ID:18hv90jyついさっき、梨々は生きていたと聞いた。
どうして今この場に居ないのかは判らなかったけれど、すぐに聞こうと思っていた。
何度も謝って、何度もお礼を言って、仲直りしたいと思っていた。
雛苺によって死んだと思っていた梨々は、生きていた。
ずっとずっと、桜の為に戦い続けていた。
そして雛苺が乱入した戦いによって、梨々は命を落とした。
雛苺は木之本桜の親友の梨々=ハミルトンを、二度殺した。
「あなたは雛苺を御せてなどいない」
ベルカナの言葉は鋭く、冷たく、熾烈だった。
そして、優しかった。
「もしかするとあなたは、それでも雛苺を赦せるのかもしれませんわね。
私達よりずっと多くを奪われたあなたが雛苺を赦すなら、私も彼女を赦しましょう」
そう、ベルカナの言うとおり。
木之本桜はそれでも雛苺を、赦せてしまう。
何時か償って欲しいとは思いながらも、それでも慈悲の心が上回る。
桜が傷つけ、救おうとし、逆に桜を救ったプレセアが殺されたというのに。
この島で信じられた数少ない親友の梨々=ハミルトンを二度殺されたというのに。
桜の手を見ず知らずの罪も無い少年の血で汚させたというのに。
大切な人達を何人も殺されて、桜の身も心も鋭い茨で苛んできたというのに。
それでも桜は、雛苺を可哀相だと思ってしまう。
桜にはきっと、誰かを憎み恨む事なんて出来ないのだろう。
「ですが、雛苺が更なる罪を重ねる事は許せません。
あなたに彼女を御す事が出来るかどうか。
私にとって重要な事はそれだけです」
ベルカナは会話を断ち切るように、告げた。
全ては桜次第だと、そう言って。
「待ちなさい。それで結局、雛苺は何処へ行ったの?」
シャナが言葉を差し込んだ。
次は彼女との会話が待っていた。
ベルカナは答える。
「その時に襲撃してきた別口の誰かが連れ去りました。
少女のようでしたが、守りの外套で全身を包んでいましたから顔も名前も不明です。
何か支給品で転移したようですから、何処へ消えたかは判りませんわ」
「そう。それじゃ」
「待ちなさい、こちらが話すだけでは堪りませんわ。
そちらからも聞きたい事は幾つかあります。せめて友好的人物と危険人物について」
シャナは、答えた。
0066代理投下 それはそれは残酷なお話(前編)
2009/07/20(月) 14:03:39ID:18hv90jy吉永双葉、男の子みたいな少女。インデックスに預けた。
妙な短剣を持っていなければ、三宮紫穂。変な服装。双葉と一緒。
野比のび太。気弱そうな眼鏡の少年。
高町なのは。精神が擦切れ掛けてるけど理性的で、行動自体は感情的な少女。
インデックス。スケスケの服を着た銀髪碧眼の少女。北西の森周辺に居る。
ヴィータ。赤い髪を三つ編みお下げにした少女。インデックスの仲間。
明神弥彦。時代がかった和服のツンツン髪の剣術少年。不殺主義。
キルア。姿も不明な仇を捜して南の市街地から中央部に向かった。
ここまでインデックス以外は全部小学校の中〜高学年くらい。
あと私は直接会ってないけど、アラストールがコキュートスから見たのが何人か。
神社にエヴァンジェリン、ニケ、リンク、古手梨花というインデックスの仲間が居るみたい。
全員外見は小学生も下の方くらいだけど、概ね戦えるそうよ。
危険人物。名も知らない銀髪の少女。
インデックスとの見分け方は、よく笑う、明らかに邪悪、胸部に喪服の様なドレス。
キルアに殺害されたらしいのに生きていたから、似た奴が居るのかも。
リリス。南西の町で戦ったけど、逃げられたわ。思ったより狡猾で、純粋だった。
ブルー。青い髪の少女。ただし外見年齢を自在に変えられるみたい。
それと一緒に居たのが、イヴなんだけど……これはさっきの話で、とりあえずは良いわ」
シャナは矢継ぎ早に人物の解説をしていく。
朝までに北東の街へと着いておきたいシャナには時間が無いのだ。
それを差し引いても不親切な所はあるが、こちらはシャナの性格による分が大きかった。
彼女は人に何かを教えたり伝えたりするのが苦手である。
これだけの説明で見た時に判るか、それどころか覚えておけるか怪しいものだが仕方が無い。
それから、トリエラとリルルの事は意図的に伏せていたし、
そうでなくとも高町なのはに頼まれたアリサなど話忘れが存在していた。
むしろ冷静に考えればシャナにこれほどの情報を提供する義理は無いのだが、
急いでいるからこそ逆にあまり考えず片っ端から話していた。
0067創る名無しに見る名無し
2009/07/20(月) 14:05:34ID:dSbNMrmy0068代理投下 それはそれは残酷なお話(前編)
2009/07/20(月) 14:05:40ID:18hv90jyリンクや古手梨花の仲間だった小狼というのも居たみたいだけど神社とは別の方向に……」
「小狼くんが居たの!?」
大切な少年の名に桜が喰らいつく。
「夕方の放送よりも前に聞いた事よ、何処に行ったかは…………判らないわ」
シャナは少し考え、伏せた。
アラストールから聞いた、学校に居た小狼は南へ向かったという話を。
ある可能性に気づいたからだ。
もしかすると、南の市街地から中央に続くトンネルの入り口に転がっていた、
まだ死んで間もない、あの死体こそが季小狼だったのではないだろうか?
生憎小狼はシャナもアラストールも見ていないから、外見はさっぱり知らない。
一方、ベルカナはシャナの話を聞いて少し考えていた。
彼女が出会った人物の数は結構なものだ。
だが、危険人物として伝わっていたのはヤミヤミことイヴだけ。
(案外、中央の森林部がかなりの壁になってくれたのかもしれませんわね。
遭遇数が少ないアルルゥはともかく、レックスの情報が案外広がっていないのは僥倖です。
それから……)
「吉永双葉……梨々の親友でしたわね。貴重な情報をありがとうございます。
もう少しだけ良いですか? イエローやタバサという人物に心当たりは?
両方とも金髪の少女、イエローは格好によっては少年に見えるかもしれません」
「金髪は……少し会ったり聞いたけど、全部名前は判ってるから違う」」
「そうですか。どの辺りで行動したか、教えてもらえますか?」
「私は島の西端を北から南、南西の市街地からここ。でも……」
『我がインデックスと共に、島の西端から山岳地帯を経て神社、そこから西だ』
胸元のコキュートスからアラストールの声が響く。
その二つの情報から考えれば、島の西域は概ね網羅されている。
森林部に穴が有るものの、それ以外はほぼ全域を通っている。
(イエローとタバサは島の西域に出没していない……と見て良いのでしょうか)
吉永双葉は気になるが、島の西域を捜してもイエローやタバサは見つからないかもしれない。
0069代理投下 それはそれは残酷なお話(前編)
2009/07/20(月) 14:06:51ID:18hv90jy「本当ですか!?」
おずおずと上げられた桜の手にベルカナが反応する。
「う、うん。森で、雛ちゃんが襲ってきた時、緑髪の人形の子と一緒に現れた子が、
金髪でなんだか男の子みたいな容姿だったから。
凄い爆発が有ってすぐに居なくなっちゃったから、どうなったのかは判らないよ」
「……そうですか。何時頃、どう来たか分かりますか?」
「えっとね、時間は夕焼け空の頃で……」
木之本桜が語る内容にベルカナは内心で少し、焦りを覚えた。
謎の人形と戦場に現れたイエロー。
プレセアの治療に懸かっていた桜の視点からでは状況がよく判らなかったものの、
イエローを囮に、人形が戦場に何か干渉しようとしていた事は確かに思われた。
あのイエローが、どんな理由が有ればそういった行動に出るのだろうか。
ただの考えすぎで、戦いを止めようと割って入ったのかもしれない。
だが目の前に居る木之本桜からの連想で、ベルカナはこんな不安を抱く。
イエローも、桜のように人形に操られているのではないか。
ベルカナが人形全般を危険視するのは当然の帰結だと言えた。
彼女が名前を知る人形の参加者は翠星石のみだが、ベルカナは翠星石が人形である事を知らない。
彼女の仲間だったジーニアスとレベッカは、両方ともが連戦の中で散っていった。
翠星石の事を知る木之本桜は、そんな内情を知る由も無かった。
「それで、その人形も何処へ行ったのか判らないの?」
「うん。凄い爆発が起きて、みんなはぐれちゃったから。
ベルフラウちゃんとも逸れて……そのまま……」
シャナの問いに応じた桜の答えに、ベルカナは一瞬視線を逸らす。
彼女はベルフラウが何処で死体になっていたかを知っている。
この城のバルコニーで、誰とも知らぬ別の少女と並んで死んでいた。
「……あなたが助けようとしていた、プレセアともですね」
話を逸らすように問い返す。
今度は逆に、桜が顔を俯かす。
苦痛から。
「ううん。プレセアさんは………………雛ちゃんに……殺された」
「…………そう、ですか」
ベルカナはまたも少し、惑う。
この少女に、正確に言えば雛苺に関わって失った物が多すぎる。
それは彼女自身が赦す赦さないという問題ではない。
仲間の結束を保てるかどうか、それが問題だった。
だからベルカナは釘を刺しておいた。
「私の仲間にはプレセアの大切な仲間も居ます。その事はあまり話さないように。
恨み憎しみなんて少ないに越した事はありません」
「え…………う、うん。……ごめんなさい」
戸惑いと罪悪感を満面に浮かべた桜の謝罪に、ベルカナは息を吐く。
ひとまずは、これで良い。
ひとまずは。
0070代理投下 それはそれは残酷なお話(前編)
2009/07/20(月) 14:08:19ID:18hv90jy「ええ。申し訳ありません、シャナさん。一応、お聞かせ願えますか?
あなたが自動人形を捜す理由は?」
「その破壊が私の使命だからよ」
ハッと息を呑む桜を、シャナは冷たい目で見つめた。
彼女が何か言い出すのを塞ぐように、宣言する。
「おまえは納得しないかもしれないけど、私には関係無い事だわ。
おまえは理屈が通じる相手じゃないだろうし、それにもう片方は納得している。
そうでしょう? ベルカナ」
「ええ。さくらが雛苺を御せて、且つ私の仲間が彼女を赦せるならば、
私は私と仲間に無理が無い範囲であなたから雛苺を護る立場になるでしょう。
それだけの事ですわ」
それだけの事。
ベルカナ一行が雛苺を取り込んだ所で、シャナと再会しなければ関係の無い話。
この狭くも長生きできない島では、そんな事が十二分に有りえるのだ。
『話しすぎではないか、シャナ?』
「別に隠すような事は無い。……けど、話してばかりか」
シャナはアラストールの危惧に応えて、気づく。
ベルカナばかり話していると思ってこちらからも話したけれど、
まともな情報を得られたわけでもない。
アラストールの警戒は、言外に手玉に取られているのではないかと注意したものだ。
ベルカナは言葉通りにとって、答えた。
「では私も、せめて危険人物についてお話しましょう」
ベルカナは朝の森で見た銀髪の少年、レミリア、イヴと城を襲撃したロングコートの少女について語った。
中でもシャナにとって興味深かったのは銀髪の少年だ。
その存在はシャナに一つの確証を抱かせる。
少年というのは気になるが、やはり銀髪の子供は二人居たのだ。
あの少女は時折、戦いの最中、口調と雰囲気が少年のようなそれに変わっていた。
これは思い切った想像だが。
彼女が男装、あるいは女装をしているとすれば、説明は付く。
「多分その銀髪の少年が、キルアが殺害した方ね」
『待て、シャナ』
そう思いきや、アラストールが疑問を呈した。
『学校において、襲撃を仕掛けてきてなのはが倒したというのも銀髪の少年だった。
恐らくそれがベルカナの見た少年だろう。
少年と少女が別に居たとしても、まだ説明はつかん』
「え? 二人で二度も死んだはずなのに?」
推理は更なる混乱へ迷い込む。
両方とも、桜など聞くだけで顔が青くなる程の死因から考え、生き延びたとは思えない。
学校組か、あるいはキルアが嘘を吐いていたのだろうか。
それともまさか、心臓を抜かれても上半身が消し飛んでも再生したのだろうか。
結局、二度殺された筈の銀髪の少年少女の正体は判らなかった。
0071代理投下 それはそれは残酷なお話(前編)
2009/07/20(月) 14:09:41ID:18hv90jy得られた収穫は半端な物だが、シャナも長居してはいられない。
シャナの目的地はあくまで北東の市街地だ。
双葉やインデックス達が居るかもしれない中央エリアを無視しながらも城に舞い降りたのは、
方向が完全に一致していた通り道で、灯りが見えて、少し寄り道しただけに過ぎない。
結局、シャナが城で費やした時間は三十分足らずでしかない。
シャナは炎の翼を広げ、まだ暗い夜空へと飛び立っていった。
そして。
城を強い揺れと爆音が襲ったのは、それからしばらくした頃の事だった。
◇
巨大なお化け人形の頭部から突き出たランチャーが硝煙を漂わせていた。
ジャック・オー・ランタン。通称、ジャコ。
武器の一つとしてミサイルランチャーをも備えた戦闘用懸糸傀儡。
跨る箒は飛行能力と超高速振動鎌『グリム・リーパー』を兼ね備え、
頭部にはミサイル、口内からは粘着性の泡『バブル・ザ・スカーレット』を射出する。
カラクリの詰め込まれた懸糸傀儡は数有るが、これほどの機能が子供でも扱いやすい
やや小さな縮尺に詰め込まれているのは特筆に値する。
とはいえ今この瞬間のジャコを小さな懸糸傀儡と呼ぶ事は出来ないだろう。
10mを遥かに超えるその巨体では。
「……こんな事もできたのかよ」
「ずっと前に使えてたのが使えなくなってから、さっきまで忘れてたの。
それに……ふぅ〜、とっても疲れるの」
雨音をも掻き消す轟音に呑まれそうな小さな呟き。
ジャコは見る見るうちに元のサイズまで縮小していった。
幾ら自前と合わせて三人分のローザミスティカを備えた雛苺と言えど、
懸糸傀儡としては小さくとも、人形としては大きなそれの巨大化を維持する事は難しい。
ジャコを巨大化させていた時間は僅かなものであり。
その成果は、絶大だった。
城は半壊し、幾つもの大穴が開いていた。
内部にも崩壊が広がっているはずだ。
中に居る人間は無差別に死傷しているかもしれない。
城には、木之本桜が居たはずなのに。
それでも雛苺は、その攻撃を迷う事は無かった。
何故なら。
「よくやった、雛苺。それじゃ私は、こいつに乗って戦果を確かめてくるからな」
「うん、おねがい。さくらの……仇を、とって」
「ああ。城からこれ以外が出てきたら注意しろよ」
雛苺は、木之本桜の死を確信していたのだから。
理由は簡単な事だった。
雛苺は気づいてしまったのだ。
指に嵌っていたはずの、ミーディアムとの契約の指輪が消えている事に。
ドール達との契約はある種の呪いのようなものだ。
それが解けるのはドールの側が望んだ時か、あるいはどちらかが死に別れたその時だ。
雛苺は一度、その前者により契約を手放した事が有った。
だけど今回は、そうではなかった。
それなら答えは一つだ。
木之本桜は城に居る者達に殺されてしまったのだろう。
0072代理投下 それはそれは残酷なお話(前編)
2009/07/20(月) 14:12:48ID:18hv90jyそれは弱く懸命な狡知を秘めた千秋にとって、逃すはずも無い機会である。
千秋は呆然となる雛苺から支給品を掠め取り、一つの案を思いつく。
雛苺には外から城を攻撃させて、その後で自分は支給品で城を攻めよう。
この支給品ならきっとあいつらにも勝てるはずだ。
千秋はそれほどの支給品を引き当てた。
正確には雛苺が引き当てたそれを奪い取った。
千秋はまるでお人よしな協力者とでも云うかのように、持ち掛けた。
おまえの仇討ちを手伝ってやると。
おまえの大切な奴を奪った奴らに復讐してやると。
少し前まで桜の許に行く事を止めていた千秋の優しい言葉は、あっさりと雛苺を絡め取る。
復讐の為とはいえ、結果として支給品が奪われている事にも頓着せず、
雛苺は千秋に言われるがままに動き出す。
千秋も予想だにしなかった凄まじい威力のミサイルを叩き込み、
更に橋を伝って伸びる夥しい茨が城を絡めとろうとしていた。
今の雛苺にはそれだけの力があった。
真紅と翠星石のローザミスティカを取り込み、少し前までミーディアムの潤沢な魔力を得ていた雛苺には。
そして縦横無尽に伸びる茨を踏みしめて。
身の丈5mの鎧巨人が、城へ向けて侵攻を始めた。
◇
「みなさん無事ですか!?」
ベルカナの焦りに満ちた声に、方々からゆっくりと声が返る。
「レックスとヤムィヤムィ、アルルゥまもってくれた」
「こっちも大丈夫! 二人とも怪我は無いよね」
「はい、大丈夫です。よく判らないけど、体を硬く出来ましたから」
丁度宿屋に戻ってきた三人と、桜が対面した矢先だった。
突然の轟音と共に天井が所々崩れて瓦礫が降ってきたのだ。
レックス達三人は、心配するまでもなかった。
慌てて盾を構えたレックスと、体を硬化させたヤミヤミが瓦礫を防いでいたのだ。
「ベ、ベルカナさん、血、血が出てる!」
「……何を今更驚いているのです、このくらい」
「そ、それはそうだけど、でもっ」
「大丈夫ですわ」
むしろ生身で桜を庇ったベルカナの方が危なく、しかし幸運だった。
幸運にも大きな瓦礫はベルカナと桜を避けて落ちた。
流石に無傷とはいかなかったが、ベルカナが衣服を新調していた事も幸運だった。
衣服はベルカナを護り、衝撃を緩和していたのだ。
(今の感じ……この服、いえ、その下の下着の方ですか?
確かに古代王国であれば衣服も何もかも防護魔法が掛かっていたと聞きますが……
ああ、別世界なら同じ魔法でも技術体系は全く違うなら、古代王国同等は有り得ますわね。
例えば高級な織物全般が普通に魔法的な効果を帯びているという世界も……。
…………って、何を考えていますの私。それどころではないでしょうに)
思考が暴走する。
論理的だがその実、方向性が無意味に走っている。
息を吸い、履いて、吐いて、状況を把握。
城に向けて、外部から攻城兵器のような一撃が炸裂した。
それにより綻んだ建材が部分的に崩落しあちこちで瓦礫の山を作った。
しかし幸運にも、被害は無し。
0073代理投下 それはそれは残酷なお話(前編)
2009/07/20(月) 14:14:06ID:18hv90jy「それは……」
「後回しです! 今は逃げるのが先決ですわ」
レックスとアルルゥを見て何か言い出そうとした桜を止める。
今はそれどころでは無いのだ。
「あなたの親友はかつての敵に助けを求めてでもあなたを助けようとした。
それだけは先程に言いました。それだけで今は十分でしょう。
彼女達は仲間です。
私の、そしてあなたの」
急き立てる勢いで言葉を並べる。
そしてベルカナは、即座に、状況の把握を続行した。
外部からの攻撃は有ったが、これで仕留めたと思ったにせよしないにせよ、確認は有る。
もしも生きていたらトドメを刺すというおまけ付で。
ベルカナ達は幸運にも軽微な被害で初撃を耐え抜いた。
だが先程の攻撃を何度も、とは言わないまでもあと何回か出来るならば、
ベルカナ達にとって最も効果的な戦術は結局逃亡となる。
更にその決断を後押しする事態が発生した。
「っ! 隠れて!」
宿屋の入り口近くにいたレックス達を引き込み、城の入り口の方を見る。
この城は屋内に店舗や宿屋までも収納した、巨大で強固な石の箱だ。
その性質も幸運して初撃による瓦礫はそれほど致命的ではなかった。
ベルカナは知らないが、レックスに聞けば推測なら得られただろう。
グランバニアはかなり魔物が強い勢力圏に存在するからじゃないかな、といったような。
とにかくこの城は、強固だった。
その屋内と屋外を隔てる強固な門戸から、騒音が響き、ひび割れが走ったのだ。
一回、二回。
たったそれだけで、門が砕け散った。
「あれは……なんです?」
ベルカナは慄然となりながら、呟いた。
誰もが首を振った。
0074代理投下 それはそれは残酷なお話(前編)
2009/07/20(月) 14:15:15ID:18hv90jyアヴ・カムゥと呼ばれる、一種の巨大ロボットの姿だった。
それを目撃した直後、ベルカナは首を引っ込めて仲間達に相談した。
その第一声は。
「逃げましょう。あれと戦うと、確実に被害が出ますわ」
逃亡の確認だった。
「倒さなくていいの?」
「あなたはあれが後衛を狙いだした時、抑え込めますか?」
「……ごめん。多分、すぐに突破される」
ベルカナはレックスと戦力を確認する。
ベルカナは巨人を打倒不可能な強敵と見ているわけでは、ない。
確かにあの巨大さとそこから予想される攻撃力は脅威だ。
防御面も、概ねベルカナの知るゴーレムと同等の性能を持つとすれば、
ベルカナの攻撃魔法は殆ど全て通用しないと言っても良い。
だがベルカナの持つ最大の武器は搦め手の魔法だ。
あれも支給品、挙動からして中に人が乗っているとすれば、
ベルカナの魔法による撹乱効果は十二分に大きいし、
レックスの戦闘力とアルルゥのサモナイト石を攻撃の主軸として、
バランスの取れたヤミヤミの能力、更に桜にマジックアイテムを持たせて攻撃に参加させれば、
あの巨人を打倒する事は可能な事だろうと思えた。
0075代理投下 それはそれは残酷なお話(前編)
2009/07/20(月) 14:16:37ID:18hv90jyあの攻撃力と巨体による侵攻力、更に味方側の耐久力分析して考えた。
レックスに勇気ある者の盾を持たせて前に立たせれば、かなり耐えられるはずだ。
あの盾には敵の攻撃を惹きつける効果が有る。
攻撃が全てレックスに集中し続けるならば、彼をサポートすれば死者も出さずに勝てるはずだ。
だが勇気ある者の盾が持つ、呪いとも言える敵の目を惹きつける効果は完全ではない。
一度か二度、理性的な判断により後衛の者を狙った場合。
その巨体により前衛の足止めを突っ切って後衛に攻撃してきた場合。
(一撃でも死亡の可能性は十分。二撃なら確実に一人殺されますわね)
レックスがまず倒そうと考えた事は、万全の戦闘体制なら間違っていないのだろう。
ベルカナの推測するところ、レックスの本来の能力を生かせるチームメンバーは、
個々がある程度の総合戦闘能力を有したパーティである。
それぞれ分野に限定されたプロフェッショナルが役割を分担し一つとして動くというよりも、
十分な単独戦闘能力を持った個々が協力する、安定性の高い戦略だと言える。
条件は最前線に居ても足手まといにはならない程度の身体能力。
ヤミヤミは該当するが、ベルカナはもう厳しい。
それなりにお嬢様だが傭兵の子、冒険も初めの何回かは戦士と並んで武器を振るっていた。
それでもあの巨人の攻撃が飛んできたら凌げるかどうか。
アルルゥと桜、特に桜は尚更だ。
かなり回復したとはいえ、病み上がりの少女を後衛まで攻撃が届きうる戦場には出せない。
ベルカナは少ないデータで分析した。
それぞれの確率を考慮し、どの程度まで戦えるかを深慮した。
練磨され加速していく思考の末に算出した分析結果が。
「あれを倒そうと思えば誰か一人、悪くすると二人ほどは殺されるかもしれません。
そんな相手と戦う事はありませんわ。
やり過ごして逃げましょう、その方が生存確率も高くなるでしょう」
逃亡だった。
このバトルロワイアルにおいて、強敵を倒す事は必ずしも必須ではない。
恐るべき強者であろうとも何処かで何かの拍子に死ぬ可能性は十分高い。
強敵同士が共倒れしてくれるかもしれないし、レックスやアルルゥのように改心するかもしれない。
後で倒さなければいけなくなる危険も有るには有るが、そう高い確率とは言えなかった。
だから、逃げる。
0076それはそれは残酷なお話(前編)
2009/07/20(月) 15:21:36ID:XHd6LKrO「いえ、あの霧はダメです。それでは生きていると報せてしまう。
そうなれば最初の攻撃で霧ごと吹き飛ばされてしまうかもしれませんわ」
「じゃあ、どうするの?」
ベルカナは言葉で答えず、杖を手に握ってみせた。
呟くように、唱える。
「万物の根源、万能なる力……まやかしの光となりて、偽りの形を造り出せ」
幻影の魔法。
ベルカナの使う古代語魔法には姿を偽り、幻を作り出す魔法が幾つも存在している。
精神を集中し続ける必要があるが、簡易で消耗も少ない風景擬態魔法カメレオンや、
同じ制約を持つが音や臭いまで消し去る高度な透明化魔法コンシール・セルフ、
声や体型の変化までは出来ないが完璧な変装を行うディスガイズといった自己を隠す魔法もそうだし、
朝方にイエローと城戸丈を助けた音までも伴う高度な幻覚魔法イリュージョンもそうだ。
この場面でベルカナが使ったのはイリュージョンの簡易魔法、音の無い幻を生み出すクリエイト・イメージ。
それだけで十分だと判断したのだ。
城内に侵入したアヴ・カムゥは城の通路を突き進む。
砕け散った門扉から見て、彼女達の隠れる場所は十字路のような場所だった。
そこを右から左へと、傷ついた少年がよろめきながら歩いて行った。
巨人はまだ生きている獲物の存在を知って走り出す。
そして十字路に辿り着き、左を覗いて。
……何かに気づいて、背後を振り返った。
そこに有ったのは崩れた宿屋の瓦礫だけだ。
しかしアヴ・カムゥの視線は瓦礫を見つめている。
まるで困惑しているかのように、そっと瓦礫へと手を伸ばす。
巨大な手が、迷うように瓦礫に触れて。
「走りなさい!」
脱兎の如く、幻影の瓦礫の中から少女達が駆け出した。
◇
「な、なんだ!? どういう事だ!」
事態は両方にとって、予想外だった。
幻影に気づかれたベルカナにとってはもちろん、
アヴ・カムゥを駆る南千秋にとっても状況は予想外だった。
千秋は最初、十字路を右から左に逃げたレックスを追いかけようとした。
だが十字路を左に曲がったところで、その姿が見当たらない。
早くも別の曲がり角や物陰に逃げ込んだのかもしれない。
前回のように、奇妙な霧は出ていない。
千秋は懐の首輪探知機を、見下ろした。
光点は全て、千秋の背後に有った。
動揺と共に振り向いた先に見えたのは、困惑。
瓦礫と化した城の宿屋。
恐らく表示される首輪の参加者達は瓦礫に押し潰されて死んだのだろう。
……本当に?
0077代理投下 それはそれは残酷なお話(前編)
2009/07/20(月) 15:24:26ID:XHd6LKrO確信は無く、困惑だけだった。
それでも、迷いながらも、千秋は手を伸ばした。
5mの巨人は中に搭乗した千秋の望むとおり、手を伸ばした。
その指先は何の抵抗も無く、瓦礫の中に突き立った。
そこから4人の少女と1人の少年が飛び出した。
「どういう事なんだよ!?」
瓦礫は幻だった。
城に居た者達は最初の攻撃を掻い潜り、幻で作った瓦礫に隠れて千秋をやり過ごそうとした。
それは理解した。
最初だって首輪探知機を使えなくしたのだ、今度は視界の方を騙したっておかしくない。
だけど。
「なんで!」
叫びと共に追いかけ振り下ろした巨大な拳を、少年の盾が受け止める。
ずしりとした堅さ。
止められた。
巨大な拳を、その三割にも満たない小さな体で。
「なんで生きているんだ!」
疑問の一つ目は、少女の一人へ。
木之本桜。
雛苺を動かす理由になった、殺されたはずの少女。
その少女が何故か生きていた事は驚きだった。
「なんで“そこ”に居られるんだよ!?」
そしてそれ以上に重い、二つ目の疑問。
死んだと思っていた。
生きていたとしても、生かし続けられる理由が無いと思っていた。
そのはずだったのに、生きていた矛盾。
「イヴ!!」
全てを忘れる為に殺人機械である事を選んだ筈の少女は。
決して認め合えない、千秋と鏡写しの心を持っている筈の、イヴは。
明確な決別の言葉を、告げた。
「私はヤミヤミ。そう名づけられて、そう生きていく」
【F-3から北東の町へ/一日目/黎明】
【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:しろがね化、消耗(小)
[装備]:楼観剣(鞘なし)@東方Project、コキュートス@灼眼のシャナ、あるるかん@からくりサーカス
[道具]:支給品一式(水少量、パン一個消費)、包帯
[思考]:急がなきゃ。
第一行動方針:北東の市街地に向かい居るはずの自動人形(トリエラ・リルル)を破壊する
第二行動方針:要件が済んだら、インデックスや双葉たちと合流。
基本行動方針:ジェダを討滅する。自動人形(と認識した相手)は、全て破壊する。
[備考]:義体のトリエラ、及びロボットのリルルを自動人形の一種だと認識しました。
[備考]:これまでのインデックスの行動の全てを知っています。
神社を拠点にする計画も知っています。
弥彦、キルア、アラストールと情報交換しました(どの程度かは次の書き手任せ)
0078代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 15:27:21ID:XHd6LKrOアヴ・カムゥから発せられた叫びに、イヴであった少女ははっきりと答えた。
表情に幾らかの戸惑いと苦悩を浮かべて。
だけどどうしてか無垢な表情と、若返った体で、答えた。
「私はヤミヤミ。そう名づけられて、そう生きていく」
千秋は直感的に理解した。
背筋を寒気が駆け上がった。
苛烈な熱を惨烈な現実が襲うように、激情を凍えが塗り潰す。
「私を、覚えているか」
直感を確信に変えるため、問いかけを投げかける。
その予測通り。
「……ごめんなさい」
イヴは千秋の事も、何もかもを忘れていた。
ある意味で好都合な事だ。
千秋は自分が殺人者側に立っている事を、出来るだけ誰にも知られたくなかった。
幾ら好都合な状況が揃っていても、この城に攻め込んだ理由には焦りが有る。
何処からかこの城に飛んできて、羽を休めるように降り立った炎の翼の少女。
この城に居る者達がより多くの者達と情報を交換する可能性。
自分の情報が拡散する危険性。
それらの先に有るのは、南千秋がひとごろしである事を広く知られてしまう未来予想図。
シルバースキンを纏っていたのだから、顔は殆ど見られていないだろう。
名前も知られてはいないはずだ。
それでも、嫌だった。
あの同盟の相手に知られるのはまだしも、それ以外の相手に知られたくはなかった。
思いの外に早く炎翼の少女が飛び立っていくのを見て、千秋は決心した。
少しでも自分の情報を得た、城に居た奴らをこの強力な支給品で殺そうと。
千秋は、南千秋がひとごろしである事を知られたくなかった。
ましてや千秋の顔も名前も知っているイヴが敵に付いたなら、
記憶を失ってくれている事は好都合のはずだった。
でも。
だけど。
「………………ズルすんな、バカ野郎」
それ以上に、許せなかった。
「おまえと私は同じだったんだぞ!
私もおまえも、ご褒美を貰えるくらいに人を殺してしまって。
立ち止まれるはずもなくって。
ひとごろしの居場所なんて何処にも有るわけなくって。
ぜんぶ無かった事にしようと思ってひとごろしを続けてたんじゃないのか!?
最後にはそんなお互い殺し合ってでもこんな夢から逃げ出したくって!!
それなのにもう忘れられたのか!?
もう、居場所を手に入れたっていうのかよ!?
私達がもっともっと何人も殺して行こうとしてた場所だぞ!!
ふざけんな!
ズルいぞこのバカ野郎!
この……バカ野郎!!」
0079代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 15:28:31ID:XHd6LKrO千秋はただ、イヴが許せなかった。
悔しくて、羨ましくて。
憎かった。
だからアヴ・カムゥの巨体を操り、走り出そうとする。
慄くイヴに、その巨大な拳を叩きつけようとする。
「ライデイン!!」
瞬時に走った稲妻が、アヴ・カムゥの体を突き抜けた。
一瞬その動きがピタリと止まり、拳は獲物を見失う。
レックスの叫びが響いた。
「走って! ボクは大丈夫! 後から合流できるから!」
イヴは。
いや、ヤミヤミは動揺から立ち直りその言葉に従う。
アルルゥと、ベルカナと、木之本桜と共に。
彼女達は、城の外に向けて走り出した。
仲間を護る勇者と、ただただ殺意に満ちた少女が睨みあう。
レックスは、アヴ・カムゥの中の少女に向けて言葉を発した。
「ボクはキミの事を知らない。
キミがヤミヤミとどういう仲間だったのか、どういう理由で殺し合いに乗ったのかも。
でも、今やヤミヤミはボク達の仲間だ。
ボクは、仲間を護る」
「……おまえって油みたいな奴だな」
「油……?」
「夏の虫と一緒に飛び込みやがれだ、バカ野郎!」
振り下ろされた怒りと哀切の巨拳。
掲げられる勇気ある者の盾。
戦いの幕は切って落とされた。
0080代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 15:29:20ID:XHd6LKrO「ね、ねえほんとうに良いの!? さっきの子、置いて来て」
「大丈夫です。レックスは一度だけ仲間と合流する転移アイテムを持っています。
自力であのゴーレムの攻撃に耐えられない私達など彼の足を引っ張るだけ。
私達の今すべき事は、彼が転移アイテムで合流した時に安全な場所まで逃げ切ることですっ」
桜の躊躇いに答えつつ、仲間達を連れて走るベルカナ。
ベルカナはそれが自身の役目だと認識していた。
子供達を引率する年長者として。
元の世界で重要な司令塔の一人として動いていた者の役目だ。
だからベルカナはアルルゥ、木之本桜、ヤミヤミの三人を護る。
その生き死にに責任を感じている。
ベルカナの最優先目的は、彼女達を連れて城から離れる事だった。
「出ますよ、注意を……!」
そして城から出た彼女達は、息を呑んだ。
0081代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 15:30:02ID:XHd6LKrO太い茨が橋を伝って繁茂し、橋も城も覆いつくしていたのである。
まるで生きているように茨がうねり瓦礫を叩く。
煉瓦壁の残骸を締め付けて、へしゃげ砕けるまで圧し潰す。
そこは正に踏み込めば破滅へと繋がる死地であった。
「……雛ちゃん? この茨、もしかして雛ちゃんのなの!?」
「あの人形の? ではこの茨の先に雛苺が……いけません、止まって!」
「え……」
他より幾らか踏み出した木之本桜を、茨が感知したわけではない。
茨の操り手は冷たい雨に煙る世闇の向こう。
城門付近に居る者の姿など識別できない。
ただ単に、橋と城を伝って無作為に蠢く茨の射線上に桜が居ただけ。
アヴ・カムゥならば容易く引き千切れるから頓着する必要の無い、
しかし生身の人間にとっては致命的な破壊の渦が、たまたま桜を巻き込んだだけだった。
「きゃああ!?」
悲鳴は短く、驚愕と恐怖だけで出来ていた。
痛みの無い悲鳴。
バラバラと切り裂かれた茨が地に落ちる。
巨大な刃に変形したヤミヤミの右手が、襲い来る無数の茨を断ち切ったのだ。
「させない……」
桜を背に立つ、ヤミヤミ。
だが茨が断ち切られた事は流石に判る。
茨を断ち切る誰か、巨大なアヴ・カムゥではない、遠目では見えない小さな人間がそこに居る事は。
茨がうねる。
のたうち踊り襲い掛かる。
それは正に緑の洪水で、今度こそヤミヤミに防ぎきれる量では無かった。
已む無しとベルカナは判断し、指示を放つ。
「アルルゥ、橋を!」
「ん。ンアヴィワ!」
アルルゥはサモナイト石を掲げる。
空間が歪み、現れたのは召還獣ワイバーン。
その顎は、無数の火球を橋に向けて射出した。
劫。
分厚い木製の橋が、焼ける。
砕け、弾け、燃え尽きる。
激しい雨の中でも苛烈に燃え上がる炎が、城へと続く橋を破壊した。
それを伝う茨諸共、橋板が川へと墜ちていく。
豪雨により増水していた川は鈍い音と共に橋板を呑み込み、押し流していく。
茨を伝う橋は最早無い。
走って逃げる橋は最早無い。
しかしベルカナは、即座に次の指示を下していた。
「あそこへ走りなさい!」
今彼女達の居る橋の袂からなら、はっきりと見える。
増水した川の流れに揺られて今にも押し流されそうな、一隻の船。
ヤミヤミがイヴだった時に、南千秋と乗ってきた船。
ラグーン号である。
0082代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 15:30:50ID:XHd6LKrOベルカナは一度だけ、川に流され藻屑と消えた橋の残骸を振り返り。
「ベルカナ?」
「……いえ、なんでもありません。行きましょう」
そこに転がっていた──城へと侵攻する途中のアヴ・カムゥに踏み潰され、
人目に晒せないほど無惨に拉げていた梨々=ハミルトンの遺体が、
仲間達の目に触れる事無く水葬にされた事を確認してから。
ほんの数瞬だけ、冥福を祈り。
アルルゥ達を連れて、船に向けて駆け出した。
◇
五メートルを超える巨体。
それは、ただそれだけで、圧倒的な暴力を示すステータスとなる。
成人男性の三倍以上、この島に連れて来られた者にとっては四倍前後の巨大な体躯。
鎧に覆われた強固な外殻。
そこから繰り出される拳は云うに及ばず強力無比な破壊力を持つ。
直撃すれば人間が生き残る術は無い。
ならば、まず思いつくのは避ける事だろう。
一撃たりとももらわないよう回避に徹し、
ヒット・アンド・アウェイで戦う戦術だ。
確かにこれは有効な戦術だと言える。
そして同時に、極めて不安定な戦術だとも言える。
一度でも当たれば、死ぬのだ。
例えそれが万に一つの可能性であろうとも、安心などできない。
どれほど有利であっても、どれだけ力が有ろうとも、どこまで行っても綱渡りでしかない。
だが、恐るべき脅威、巨人アヴ・カムゥを前にして。
レックスには、余裕が有った。
拳を盾が受け止める。
衝撃が全身を伝わり、骨が軋みを上げて、肉が痛みを訴える。
流れ落ちた衝撃は足を石畳にめりこませる。
レックスはアヴ・カムゥの巨拳を無理に避けるのではなく、盾で受け止めていた。
盾での防御は身を躱すよりも遥かに容易である。
直線的で巨大な攻撃であるほど、その広い面積に当てるのは容易い事だ。
しかしこれは、普通に考えれば自殺行為である。
盾で止めた所で、衝撃は伝わる。
アヴ・カムゥほどの巨体の攻撃を子供の体で受け止められるはずがない。
例えばアヴ・カムゥの中に居る南千秋が同じ事をしたならば、
盾などまるで意味が無く叩き潰されて即死していただろう。
それが当然の答えである。
答えが違うというならば、式と解法が間違っているのだ。
0083代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 15:32:17ID:XHd6LKrOレックスは口の中で呟く。
目の前の相手は、そう恐れるほどの敵ではないと。
元居た世界では、高く聳える塔よりも巨大な山のような怪物を倒した事だって有る。
それに比べれば、目の前の敵は、弱い。
確かに、その時に居た父親達仲間は居ない。
身を纏っていた強固な鎧も無い。
制限によって呪文などの能力に弱体化も起きている。
しかし目の前の敵はかつて倒した怪物よりも、遥かに弱い。
体は小さく、雷を呼んだり特殊な攻撃をしてくる事もない。
獣の本能じみた戦闘技術さえなく、力任せに殴りかかってくるだけだ。
レックスも、その頃より更に強くなっている。
そして、鎧は無くとも自分の戦いをするため最低限の装備が有った。
少々防御面は心許なかったが、スクルトを重ねがけすればそれなりにはなった。
レックスは反撃に出る。
振り下ろした杖が巨拳を叩く。
鉄の装甲にヒビを入れる。
鎧を穿つ。
「舐めるなこの野郎!」
アヴ・カムゥが初めて拳ではなく、蹴りを放った。
不意を突かれ、それでも盾で防御する。
レックスは宙に浮き、壁に叩き付けられる。
緩和されても尚常人なら十二分に即死する衝撃に、強固な肉体が悲鳴を上げる。
神経にガタが来て、骨にヒビが走り、皮膚が裂けて血が溢れ出す。
まだまだ死にはしない、だが動きを阻害されるだけの傷。
それは次の一撃二撃で敗北するのと同義である。
これが攻撃を受け止めて戦う時のリスク。
幾ら衝撃だけでもダメージは蓄積してしまう。
1%の即死は無くとも、積み重なれば死ぬ攻撃を100%で受け続けてしまう。
動きは鈍り、徐々に死へと転がり落ちる。
だが。
「ベホマっ」
軽快な動きを取り戻したレックスは、更なる追撃を盾で受け止める。
一撃で確実に1/10ずつ削られるならば、計画を立てられる。
一撃必殺の攻撃を撃ち合う戦い方ではなく、
強固な守りでリスクヘッジを行い、自身がどこまで攻撃に耐え切れるかを判断し、
戦術と戦略を融和する。
それらを感覚的に行いながらレックスは切り口を模索する。
(やっぱり、盾で受け止めるならしばらくは耐えきれる。
盾だけだとやっぱり辛いな。鎧と兜が無いとあまりもたないや。
でも……負けない!)
アヴ・カムゥが再び殴りかかってくる前に、レックスはそれを放った。
自分の持つ、最強の攻撃呪文。
「ギガデイン!」
勇者だけに許された強力無比な破壊の雷撃を。
迸る暴力的な閃光と轟音がアヴ・カムゥを貫き、炸裂した。
0084代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 15:34:26ID:XHd6LKrOデイン系の呪文はレックスの世界においても特別な呪文である。
まず何より、その圧倒的な性能が上げられる。
この島においては制限により範囲を縮小されているが、
ライデインは本来四方八方から群がる魔物をも悉く撃ち果たせる上に、
ベギラマより広域高威力でありながら同程度の魔法力しか使わない。
正に破格である。
デイン系自体が、注ぎ込む魔法力以上の破壊力を叩き出せる効率の良い術式なのだ。
レックスが未だにベギラマとライデインを使い分けている理由の大半は、
ライデインより遥かに容易に習得できたベギラマの技術的使い易さによる物が大きい。
自分の手より放つ事から狙いを付けやすく、消耗は同じでも感覚的に使いやすい。
この島ではライデインより制限の影響が薄く、普段通りの感覚で使えるのも大きかった。
何より、ギガデイン。
これは最早特権とさえ言えた。
ただでさえ効率の良いデイン系でありながら大きな魔法力を必要とするギガデインは、
それに見合うだけの圧倒的な破壊力を持っているのだ。
幾ら他系統の呪文を極めようとも、ギガデインに比する威力まで到達する事はできない。
その上、デイン系の呪文は防ぎにくい。
炎の通用しない魔物は少なくない。
冷気の通用しない魔物も少なくない。
しかしデイン系の呪文、雷撃という特性は極めて防ぎにくいのだ。
その、ギガデインが。
高効率な術式に注ぎ込まれた膨大な魔法力が、
防御困難且つ圧倒的破壊力を持つ雷撃と化して炸裂した。
閃光が収まった後には。
全身からは焦げ臭い煙を燻らせ、所々から体液を漏らすアヴ・カムゥの姿が有った。
◇
「ツー」
「カ、カーっ」
「ツー」
未だツーカー錠の残るベルカナとヤミヤミが言葉を交わす。
交わされた内容は単純明快。
《さっきの説明書でこの船の操縦法は判りましたか?》
《まだ判っていないなら見ながら、動かしながらでも覚えてください》
《急いでください、この船で逃げますよ》
《ごめんなさい、まだ覚えてないんです。》
《はい、判りました。急いで覚えて、ううん、見ながらでも動かします》
《ええ、急いでください》
《レックスがあのゴーレムのような物を足止めしている内に》
ヤミヤミはランドセルからマニュアルを取り出し明かりで照らしながら読み始める。
今、最も早く操縦法を理解できるのはヤミヤミなのだ。
操縦席を任せたベルカナは夜闇を睨む。
その先の何処かには雛苺が居る。
膨大な茨を這わせて城全体への攻撃を仕掛けてきた、雛苺が。
木之本桜に言わせれば絆を結べていたというが、ならどうしてそんな事をしたのか。
(致命的なまでに判断能力が無いか、死生観が特殊で死体でも居れば良いのか、
本当はさくらの事をどうでも良いと思っているのか、それ以外の理由か。
何にせよ交渉の余地が有るとは思いにくいですわね)
0085代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 15:43:46ID:18hv90jyアルルゥと木之本桜の姿がそこにある。
不安そうな、アルルゥの表情。ベルカナはまずそちらに話しかけた。
「どうしました、アルルゥ」
「さくらが、『ひなちゃんをせっとくにいく』って」
「……何を考えていますの、木之本桜」
ベルカナは僅かな怒りすら滲ませて問うた。
行かせるわけにはいかない。
逝かせるわけにはいかない。
ベルカナの当面の目的は彼女達を護る事だ。
あれほどの死地に向かわせるなど言語道断だ。
「あの茨を張っていたのは雛苺なのでしょう?
城にはあなたが居るのにあんな事をした。
つまり今の彼女に近づけば、あなたも攻撃される危険は高いんです」
「で、でもあの茨は雛ちゃんのだもん、止めなきゃ!
一緒に居てあげるって、もう殺し合いなんてさせないって決めたんだもん!
きっと雛ちゃんはわたしが居るって気づいてないだけだよ!」
同じ局面を見てベルカナと桜は全くの逆を思ったのだ。
危険だから近寄ってはいけない。
危険だから止めなくてはいけない。
自分と仲間のために。
仲間と何処かの誰かのために。
「それで止められる根拠は何処にあるのですか?
あなたは雛苺を御しきれてなどいない」
「近づけば。声が届くところまで行ければ止められるよ。
だって……ツー」
ベルカナは小さく息を呑み、理解した。
「……ツーカー錠を飲んでいるのですか、あなたと雛苺は」
「うん。雛ちゃんが、城の下の方に降りていく前に飲ませてくれたの」
恐らく、切れるのはこの雨が止んだほんの少しだけ後。
もうすぐだが、少しだけの時間は有る。
0086代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 15:45:40ID:18hv90jy雛苺が何かの『勘違い』をしているのなら、それで止まる。
雛苺を取り込む事による危険な不確定要素は大きいが、実を言えばメリットも大きい。
橋が落ちたとはいえ、雛苺がそれで止まるかは判らない。
逃げても追いかけてくる危険性は有る。
先手を打って抑え込むメリットは大きいのだ。
危険人物とはいえ、雛苺を引き込めるメリットも大きい。
あの広域に張り巡らした茨を見ても判る通り、雛苺の能力は強力である。
そも危険人物と言うならベルカナ達だって同じようなものだ。
桜が本当に雛苺を抑え込めるなら、それも良い。
桜が、本当に雛苺を御す事が出来るならば。
「分かりました」
ぱぁっと桜の表情が明るくなる。
ベルカナの小さな溜息。
「では、その隅に置いてある私のランドセルを開けてもらえますか。
必要な物が入っていますから」
「うん。わかった」
0087代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 15:46:45ID:18hv90jyベルカナは、小さく、呟くように、唱えた。
「…………眠りをもたらす安らかなる空気よ」
とさっと、小さな音を立てて。
桜の体は、ランドセルをクッションにして、突っ伏した。
静かな寝息を立てて、桜は眠っていた。
効果範囲を必要最低限まで縮小した眠りの雲の魔法が桜の意識を奪ったのだ。
目を丸くして見つめるアルルゥに、シーッと指を立てて秘密を求める。
囁くように言った。
「しばらくは起こさないように。ないしょですよ。
起きたら病み上がりの疲れで寝てしまった事にしましょう」
「ん。わかった」
「あとカードとリインフォースIIは彼女の荷物に入れておいたと伝えてください」
「ん」
ベルカナは雛苺を放って行く事にした。
理由は簡単だ。
雛苺は桜にツーカー錠を飲ませてから、階下へと襲ってきたのだという。
それが意味するのはつまり、こういう事だ。
心の底から想いが通じ合う状態でも、桜は雛苺を止める事ができない。
例え御しきれたように見えてもそれは桜の思い込みに過ぎない。
ふとした原因で暴走してしまう不安定な物でしかない。
それがベルカナの桜と雛苺に対する評価だった。
「ツー《ベルカナさん、動かせそうです》」
操縦室からヤミヤミの声がした。
ベルカナはホッと安堵の息を吐いた。
どうやら脱出は無事成功したらしい。
ベルカナは一度だけ、まだレックスが足止めを続けているはずの城を見つめてから。
答えた。
「カー」
降りしきる雨の中、舫綱を外したラグーン号はゆっくりと岸を離れ、
徐々に、やがて見る間に加速して、夜の闇へと消えていった。
◇
0088代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 15:48:12ID:18hv90jyアヴ・カムゥがゆっくりと立ち上がり、再び拳を構える。
中の操縦者も、アヴ・カムゥも壊れてはいない。
そしてそれは、レックスもある程度は予測していた事だった。
幾らギガデインの圧倒的破壊力をもってしても、目の前のこれを一撃で倒せるかは分からない。
何よりレックスの呪文の威力も普段よりは落ちているのだ。
アヴ・カムゥを倒しきるには不足だった。
伝わる電流の余波で乗っている相手は倒せるかと思ったが、それも甘かったらしい。
中に居る操縦者がシルバースキンを身に着けていた少女だとすれば、考えてみれば当然だ。
しかしレックスは確かな手応えを感じていた。
(いける。こいつにはボクの戦い方が通用する。
このまま隙を見つけてもう一撃直撃させれば、勝てる!
幾ら力が強いっていっても、あの剣を持ったレミリアの方が強かった。
レミリアの攻撃は重い上に速くて、鋭くて、ものすごく上手かった。
こいつも力は強いけど、防げないほどじゃない。
ボロボロのレミリアと違って当てても一撃じゃ倒せないけど、代わりに避けられる事も無い。
それなら、勝てる。
ボクはこいつに勝てる。
ううん、こんな奴に負けてちゃいけないんだ。だって)
「おまえなんかに負けるようじゃ、あんなに強いレミリアに勝てるわけがないもの」
アヴ・カムゥが、ピクリと震えたような気がした。
それはきっと錯覚なのだろう。
だけど中から響いた声は、確かに震えていた。
「レミリア? おまえ以上の化け物が居るのかよ、ちくしょう。
ふざけんなバカ野郎。
なんでこんなに化け物ばかりなんだよ。
なんの力も無い奴はどうやっても死ぬしかないとでもゆーのかよ。
弱いからどうにもならないのか。
弱いから死ねってゆーのか。
ふざけんな。
ふざけんなこのバカ野郎!」
0089代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 15:50:37ID:18hv90jyそこに掛けてあった何かを掴む。
(杖……?)
南千秋の操縦するアヴ・カムゥは背中から掴み取った杖を振り上げて。
レックスに向けて投げつけた。
(大丈夫、あの軌道じゃ当たらない! この隙にもう一度ギガデインを……)
野球のボールを投げる事をイメージすれば良い。
十mやそれ以上も離れたストライクゾーンにボールを放り込む。
それは思いの外に難しくて、咄嗟に、それも渾身の力で投げた場合は尚更だ。
ましてや投げる為に作られたわけではない杖など。
たかが小学生でしかない南千秋にはこの場面でそれを成功させる事さえ出来なかった。
杖は見当外れの方向に飛んでいって。
突如、急カーブしてレックスに向けて襲い掛かった。
0090代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 15:52:07ID:18hv90jy咄嗟にドラゴンの杖の方で叩き落す。
少し焦げて脆くなっていたその杖は、一撃で粉砕されて砕け散った。
砕け散った破片を見下ろして、足元に転がる丸の書かれた紙が目に映った。
レックスは、それが投げた杖の軌道を捻じ曲げた事までは理解できなかった。
(一体何のつもり──!?)
そう、レックスは叫ぼうとして。
声が出なくなっている事に気がついた。
千秋が投擲した杖の名を、ルーンの杖という。
使う事により相手の声を封じ込む事の出来る、魔術師殺しの杖。
かつて南千秋が護ろうとした小岩井よつばを、無言の中に封じて殴り殺した杖だった。
「弱いからって。
ど素人だからって舐めんなよ、バカ野郎。
私だって、生きて帰りたいんだ。
おまえみたいな化け物共もぶっ殺して生きて帰るんだ!
このアヴ・カムゥで!」
千秋の絶叫と共に。
レックスは形勢が逆転した事を思い知った。
(不味い! もう足止めは十分だ、同行のカードで逃げて──!?)
磁力のカードの使い方はカードを掲げて、
『「磁力」使用(マグネスティックフォースオン)、仲間の名前』と“唱える”こと。
今のレックスに声は出せない。
(まずい! まずい、まずい、まずい! どうしよう、どうすれば──っ)
レックスは振り下ろされる巨拳を盾で受け止める。
焦りで体制を崩した。
衝撃を殺すために盾を手放して吹き飛ばされる。
転がる途中でランドセルの肩紐が千切れる。
支給品などを入れたランドセル。
この中に入っている爆弾石なら? ダメだ、火力が足りない。
しかし気づいた。
0091代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 15:54:41ID:18hv90jy(お父さん! ボクに力を貸して!)
レックスは強く念じながら、ドラゴンの杖を掲げた。
閃光がレックスを包み込み、その姿を一頭の竜へと変えていく。
目の前に居るアヴ・カムゥにも対抗できる力を持ったドラゴンに。
だがしかし。
この判断こそが、レックスの最大の過ちだった。
ドラゴラムを唱えても衣服は魔力の体に取り込まれ、破ける事は無い。
前回ドラゴンの杖を使った時もそうだ。
衣服も、ランドセルまでもが竜の体に取り込まれていた。
今回は少しだけ状況が違った。
肩紐の切れたランドセルは取り込まれず、膨れ上がる竜の体によって引き裂かれた。
零れ出る。
その中に入っていた全ての物が。
0092代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 15:56:42ID:18hv90jyドラゴンへと変身したレックスは、その顎から激しい業火を吐き出した。
朝方には一人の少年を黒焦げにした凄まじい火力のブレス。
しかしその炎が、割れる。
アヴ・カムゥの左手がレックスの手放した盾を拾い上げ、握り締めている。
大きな盾もアヴ・カムゥの手にあっては小さな盾に過ぎない。
その小さな盾が、巨大な炎を割っていた。
勇気有る者の盾。
そのエメラルドの輝きは所有者を敵の標的にしやすくする。
特にそれはドラゴンなどのブレスを吐く生き物を相手にした時、顕著となる。
同時にこの盾は、そういった炎のブレスなどに対し高い抵抗力を持つ盾でもあるのだ。
更にアヴ・カムゥの右手が、ランドセルから零れ落ちたそれを、握り締めていた。
巨大な鉄の塊。
もし巨大なドラゴンが実在していたと仮定して。
それを殺すためにはどれほどの大きさの剣が必要かを算出して鍛えられた、剣。
ドラゴンころし。
千秋の目には巨大な竜の姿が映っていた。
竜は千秋自身の心理によるものか、とてつもなく大きく見えていた。
すなわちそれは、千秋にとっての悪夢の象徴なのだろう。
千秋は、アヴ・カムゥの手の中にあってようやく標準的なサイズに映る剣を振り上げて。
「化け物め!」
振り下ろした。
千秋はアヴ・カムゥの中で、安堵の息を吐いて、呟いた。
「…………なんだ。思ったより簡単じゃないか。……竜退治」
それで、戦いは決着していた。
◇
0093代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 15:58:39ID:18hv90jyそれまでの豪雨が嘘のように晴れ渡っていく星空の下で。
雛苺は、次にどうするかを考えていた。
城に向かった、名前も聞き忘れた長外套の少女は帰ってこない。
橋が壊れてしまったのだから当然だろう。
迎えに行ってやるのがいいだろうか。
それとも、逃げるように川を下って行った船を追いかけるのがいいだろうか。
あの中に居るのが“城に居た者達”だとすれば、桜の仇も居るはずだ。
“自分がしていたように”桜の死体も連れて行かれたかもしれない。
雛苺の結論は明快だった。
「……雛、さくらの仇、討つの。飛んで、ジャコ」
雛苺はジャコに跨ると、空へ向けて飛び立った。
その速度はラグーン号よりも遅かったが、問題は無いだろう。
雛苺には執念が有る。
この人形の心に残っているのは、木之本桜の事だけなのだから。
息を潜めてそれを見送った“彼女”は、囁くように唱えた。
「……万物の根源たるマナよ……かのものに……宿りし力を──打ち砕け!」
息を殺すように。
しかし常々より力強く。
彼女の世界の魔法は魔力を多く注ぎ込む事により、魔法の確実性などを上げる事ができる。
今回彼女が行ったのは、それだった。
この解呪は、万が一にも失敗するわけにはいかなかったからだ。
「しっかりなさい。傷はあなたが自分で塞ぐしかないのですもの。
──レックス」
ベルカナの腕の中で、レックスは苦しげな呻きと共に、呟くように“唱えた”。
「ベ……ベホマっ」
腕から噴出していた膨大な量の血が、止まっていく。
「ベホマっ」
青ざめていた顔色が徐々に赤みを取り戻していく。
「…………ベホマ」
三度目の全快呪文で、傷は塞がっていた。
出血は、止まっていた。
0094代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 15:59:46ID:18hv90jyさあ、掴まってください。私の飛行魔法の時間内、一時間以内に合流したい所です。
磁力のカードは失くして……ああ、それだけポケットに入れていたのですか。
どちらにせよそれでは一人しか合流出来ませんわね。
ヤミヤミには外海を北から時計回りで移動するよう指示がしてあります。
北西は禁止エリアが有って回れませんからね。
東へ抜けて、そこから反時計回りに海沿いを飛んで合流しましょう」
「うん。……ごめん」
「一応、聞いておきましょうか。何を謝っていますの?」
「だってボクは、負けて……これからもみんなを護れるか、分からなくなったから」
少しの沈黙。
ベルカナはレックスを抱きしめて、城を後にして飛び立った。
優しく、言う。
「二つとも、間違っていますわ。レックス」
「二つとも……?」
「ええ」
ベルカナは、頷いた。
「一つ目。背負いすぎです、『勇者様』。
それ以上を長々説明する気はありませんけど。
もう一つ。私達は、決して負けてなどいません」
戦果は良い物とはいえない。
レックスは多くを失い、ベルカナも精神力を消耗し仲間と分断された。
アルルゥ、ヤミヤミ、木之本桜の事も不安が無いといえば大嘘も嘘になる。
襲ってきた敵はまるで倒せていない。
だがしかし。
「今度は、全員生き延びましたもの。前の襲撃のように、誰かを失う事なく」
「……うん」
「私達は幸運でしたわ。少しだけですけど」
「…………うん」
生き延びれば、機会はある。
生きている限りは。
例えレックスが魔法力の大半を使いきり、片腕と支給品の大半を失ったとしても。
彼女達は幸運にも、生き延びた。
◇
0095代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 16:00:40ID:18hv90jy南千秋は、呆然となりながらそれを見つめていた。
目の前にある、頭部をカチ割られた竜の死体。
不自然に消えず漂い続けている粉塵。
その両方には、実体が無かった。
不安になりフライトの魔法で城に戻ったベルカナは、
レックスがドラゴンに変身し、アヴ・カムゥに炎を吐いた瞬間を目撃した。
そこから即座に機転を利かせてクリエイト・イメージの魔法を唱えたのだ。
城から逃げ出す時に使った、光学情報だけの幻影魔法。
幻影の内容は、レックスのドラゴンを包み込む二周りほど巨大なドラゴンの幻と粉塵。
それと重なった幸運により、剣の狙いは逸れて。
ドラゴンに変身しているレックスの右腕をごっそり切り落とすだけに留まった。
千秋はどこか感触がおかしい気もしたが、人を切るのは今回が初めてで、
その上にアヴ・カムゥに乗っていたのだから、完全に気のせいだと思い込んだ。
その間に、粉塵に紛れて音もなく飛び寄ったベルカナはレックスを担いで飛び去ったのである。
千秋がその齟齬に気づいたのは、消えない粉塵を訝しみ竜の死体を蹴りつけた時だった。
レーダーを見てみると、城の外を遠ざかる二つ重なった光点が有った。
千秋はアヴ・カムゥから降りて、幻影の前にいた。
巨大な竜の幻影。
自分が仕留めたと思い込まされた幻。
「……なんだよ、それ」
転がっている、右腕。
あの少年は片腕を失い、だけど仲間に助けられたのだ。
千秋はまんまと幻影に騙されそれを見逃してしまったのだ。
あいつは、仲間に助けられたのだ。
「ふざけんな、バカ野郎」
呟くように呻く目の前を、粉塵が舞った。
幻影の一部だと思い。
一瞬後に、そうでない事に気がついた。
「え……?」
頭上を見上げた千秋の目には。
崩落してきた、天井の石が映っていた。
0096代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 16:02:22ID:18hv90jy【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:魔力消費(中)、右腕の手首から先が動かない。眠たい。
[装備]:タマヒポ(サモナイト石・獣)、ワイヴァーン(サモナイト石・獣)@サモンナイト3
[道具]:基本支給品×2、クロウカード『泡』『駆』@カードキャプターさくら、
海底探検セット(深海クリーム、エア・チューブ、ヘッドランプ、ま水ストロー、深海クリームの残り、快速シューズ)@ドラえもん
スタンガン@ひぐらしのなく頃に、アタッシュ・ウェポン・ケース@BLACK CAT
[服装]:普段着である民族衣装風の着物(背中の部分が破れ、血で濡れている)
[思考]:レックスとベルカナ、だいじょうぶかな。
第一行動方針:眠たい。もう寝ようかな。
第二行動方針:レミリアやイエローを捜したい。
基本行動方針:優勝以外の脱出の手段を捜す。敵は容赦しない。
参戦時期:ナ・トゥンク攻略直後
[備考]:アルルゥは獣属性の召喚術に限りAランクまで使用できます。
ゲームに乗らなくてもみんなで協力すれば脱出可能だと信じました。
サモナイト石で召喚された魔獣は、必ず攻撃動作を一回行ってから消えます。攻撃を止めることは不可能。
アリス・イン・ワンダーランドに対して嫌悪を覚えています。
ベッキーは死亡したと考えています。
【ヤミヤミ(イヴ)@BLACK CAT】
[状態]:疲労(大) 、10歳前後の容姿、ツーカー(→ベルカナ)切れかけ
[装備]:レミリアの服、エッチな下着@DQ5、返響器@ヴァンパイアセイヴァー、ラグーン号
[道具]:基本支給品×2、光子朗のノートパソコン@デジモンアドベンチャー、
フック付きロープ@DQ5、神楽の傘(弾0)@銀魂、エーテライト×1@MELTY BLOOD、
胡蝶夢丸セット@東方Project、ラグーン号操船マニュアル、病院服、ただの布切れ
[服装]:レミリアの服、その下はエッチな下着
[思考]:………………。
第一行動方針:ラグーン号を操縦し、北端から時計回りに移動してベルカナと合流する。
第二行動方針:桜の世話をする。
第三行動方針:自分の過去を知りたい。そのために、ブルーや千秋から話を聞きたい。
基本行動方針:自分の過去を知りたい。そして罪と向き合いたい。
[備考]:記憶をすべて消し去りました。 元世界の記憶、この島での記憶、共にありません。
ヤムィヤムィと名づけられました。ヤミヤミという呼称が使われます。
【木之本桜@カードキャプターさくら】
[状態]:魔力消費(中) 、疲労(中)、発熱、睡眠、核鉄二つで回復中
[装備]:核鉄『シルバースキン・アナザータイプ』@武装錬金、核鉄LXX70(アリス・イン・ワンダーランド)@武装練金、
[道具]:基本支給品×2、リインフォースII@魔法少女リリカルなのはA's、クロウカード『水』『風』
[服装]:梨々の普段着
[思考]:………………。
第一行動方針:雛苺を止めたい。
第二行動方針:雛苺との約束を守りながら、彼女にこれ以上殺人を起こさせないようにしたい。
基本行動方針:雛苺のそばにいてあげる?
[リインフォースIIの思考・状態]:
※永沢、レックスを危険人物と認識。梨々の知り合いの情報を聞いている
※魔力不足により休止中。
0097代理投下 それはそれは残酷なお話(後編)
2009/07/20(月) 16:03:51ID:18hv90jy【レックス@ドラゴンクエスト5】
[状態]:魔力殆ど消費、右腕損失
[装備]:ドラゴンの杖@DQ5 (ドラゴラム使用回数残り1回)
[道具]:GIのスペルカード『磁力』@HUNTER×HUNTER
[服装]:普段着
[思考]:………………。
第一行動方針:ベルカナと共に仲間と合流する。
第二行動方針:仲間を守りつつ、レミリアとタバサを捜す。
第三行動方針:魔力が回復して余裕が出来たら、不明アイテムや水中の調査
基本行動方針:勇者としてタバサの兄として誇れるよう生きる。でも敵には容赦しない。
[備考]:エンディング後なので、呪文は一通り習得済み
アルルゥや真紅はモンスターの一種だと思っています。
ベッキーは死亡したと考えています。
お城の地下に迷宮があるのを確認しましたが、重要なことだと思っていません
【ベルカナ=ライザナーザ@新ソードワールドリプレイ集NEXT】
[状態]:精神力消耗極限、ツーカー(→イヴ)切れかけ、フライト
[装備]:ネギの杖、果物ナイフ@DQ5、ゴロンの服@ゼルダの伝説、レースのビスチェ@DQ5、
[道具]:支給品一式×4、懐中時計型航時機『カシオペア』@魔法先生ネギま!、黙陣の戦弓@サモンナイト3
テーザー銃@ひぐらしのなく頃に、爆弾石×2@ドラゴンクエスト5、魔晶石(8点分)、
消毒薬や包帯等、ツーカー錠x3@ドラえもん、マジカントバット@MOTHER2、
パワフルグラブ@ゼルダの伝説、GIのスペルカード『交信』@HUNTER×HUNTER
[服装]:ゴロンの服。その下にレースのビスチェ
[思考]:生き延びた……。
第一行動方針:東進しそこから海沿いに移動してヤミヤミ達と合流する。
第二行動方針:四時間以上眠り、精神力を全開させたい。
第三行動方針:朝の放送でイエローが無事だった場合、『交信』でイエローと連絡したい。
第四行動方針:イエローと合流し、丈からの依頼を果たせるよう努力はする(無理はしない)
第五行動方針:まともな服が欲しい。仲間も集めたい(イエローの友人の捜索。簡単には信用はしない)
基本行動方針:ジェダを倒してミッションクリア
[備考]:葵が死んだことを知りません。
レベッカ宮本を『フォーセリアのレッサー・バンパイア』だと考えている?
※レックスの装備品の大半は城に埋もれました。
また、城はかなりの崩落が起き、橋も落ちています。
【F-3/空中/二日目/早朝】
【雛苺@ローゼンメイデン】
[状態]:真紅と翠星石のローザミスティカ継承。さくらが死んだと思い込んでやや不安定。
落下により僅かな損傷、全身火傷、消耗(中)
[服装]:普段通りのベビードール風の衣装。お腹を中心に焼け焦げている。
[装備]:ジャック・オー・ランタン(頭部が割れ、ミサイル残弾は0)@からくりサーカス
[道具]:なし
[思考]:さくら、さくら、さくら、さくら、さくら…………
第一行動方針:さくらの仇を討つ。さくらの遺体を捜す。
第二行動方針:さくらと一緒にいたい。
[備考]:真紅と翠星石のローザミスティカを獲得したため、それぞれの能力を使用できます。
さくらが殺されたと思っています。
0098代理投下 それはそれは残酷なお話(終編)
2009/07/20(月) 16:05:06ID:18hv90jy私は確か、ニセモノのドラゴンの前に居て。
あのずるいくらい強い奴は、ニセモノを使って逃げ出して。
片腕は切り落としてやったけど、逃げ延びて。
それから。
それから…………。
うぐっ!?
い、痛い! 右腕がすごくいたい!
なんで!?
見えない、暗い! 動けない!?
何か上に重いのがのってる!?
何だよ、何が起きたんだよ!!
ああ、そうだ確か城が崩落してきて……いぎぃっ!?
今、腕がミシって、痛い、いやだ指が、ゆびが潰れる!
じわじわ重みが載ってておもい、いやだ、痛いいた、いたいイタイ痛いいたい!
なんでわたしがこんな目に遭うんだ!
ひっ痛い、いたいよ、くらい痛い足が、いやだつぶさないでつぶさないでつぶさっ
いやだいたいいたいいたいいたいいだいいだいだあああいあああああああああああ
ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああぁっ
ぐちゃって、ぐちゃっていだいいたい痛い痛いいたいイタイいたイ痛イいたいやあ
イヤだつぶれてるのにまだ痛いいたくなるいぎゃああああああやめ、だれか、だ、
だれかたすけやだやだやだもうぐちゃってなるのいやだぐちゃってなるのいやいや
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいああああああああああああああああ
痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイいたい痛いいたいいたいいたい痛い痛い
あああもうやだイヤだつぶれてるのにいたい痛くなるまたいたくまだ痛くいやだっ
いや、ぎゃああいだああイダイイタイいややだやあああああああああああああああ
あああああぎゃああ あああああああぎいいいい いいぎいぃぃぃいいいぃいい
ああああ ああああぁあぁあぁ あああああああああ あああああああああ
ああ あああ あぁあぁあ あぁああがががが があああああ がが
あ
0099代理投下 それはそれは残酷なお話(終編)
2009/07/20(月) 16:06:05ID:18hv90jy…………なん…………だっけ……
ああ……そうだ……
瓦礫……に……潰さ…………れ……
…………なんで……生きて……?
そっか…………シルバー……スキン……着て…………
…………うぐ……
ひ……また……痛くなって……きて…………
いやだ……ヤダ…………いたいのはイヤ、いや、いたい、いや、痛い、嫌、痛い……!
なんでこんなに痛い、痛い、いたい、いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいた
イタイ痛いいた痛いいたいたいイタイやだいやああいぎゃあああああああああああああ
そうかシルバースキンが核鉄に戻ったから体を治して痛いいたいいたいいやあああああ
あぎゃああああああいやだもうやめやあああああああ痛いのいやだもういやいやあああ
ぺきぺきって音してるきしんでるおとがおとが真っ暗でなにもみえないのに音がしてる
ほねがいたいいたいくらいいたいくらいだれか誰か誰かだれか誰かだれかあだれえええ
いたいまだ痛いいやだおれる折れるこわれるいたいいたい死にたくないいやだだれかっ
だれかたすけてタスケテたすけてたすけてタスケテタスケテたすけてタスケテタスケテ
暗い寒いくらいこわい痛い冷たいいたいこわいこわいこわい痛いいたい怖いいやだいや
いやいやいやいやいいやいやいやいや誰かだれか助けくらいこわい痛い音がおとが音が
ぐちゃっていやだ痛いだれかいたいいやだれかこわいくい痛い死なせてたすけていやだ
しにたくないしにたくしなせてしにたくしなせいやだ怖いいたいいたいいたい暗い怖い
音がおとがおとが音が音が音がする音がするするするこわれ死ねない痛いくらいこわい
くるしいいたい苦しい重いいきが、いきができな、くるし、いたいたいたいたああああ
0100代理投下 それはそれは残酷なお話(終編)
2009/07/20(月) 16:06:59ID:18hv90jy……………………なん………………だっけ……………………?
いたいのいやだこわいのいやだくるしいのいやだくらいのいやだおとはいやだ
しぬのいやだいきるのいやだいやいいやだいやだいやだやだやだやだやだやだ
こんなの…………なんで……わたしだけ……?
あいつも……あいつらも…………みんな……みんなひとごろしで……
ひとごろしがいやなのにひとごろししなくちゃひとごろしじゃなくなれなくて
いやなのにこわいのにひとごろししてひとごろししてひとごろししてそれでも
どうやってもころせないのもいてそれじゃひとごろしじゃなくなれなくてそれ
がいやでばけものをころすほうほうがほしくってばけものころしはひとごろし
じゃないからいいことだからばけものをころそうとがんばってがんばってたら
なんでどうしていやだひとごろしはいやだころすのはいやころされるのはいや
どうしてたすけにきてくれないのどうしてたすけてくれないのだれかだれでも
いいからたすけてだれかたすけにきてハルカねえさまでもカナでもそれがだめ
ならパタリロでもだれでもいいからたすけてたすけてたすけてたすけてたすけ
たすけたすけたすけここはくらいよこわいよさむいよつらいよいたいよだれか
たすけてタスケテたすけてタスケテたすけてタスケテたすけてたすけてタスケ
いやだ
なにもかもいたいからいやだ
なにもかもくらいからいやだ
なにもかもこわいからいやだ
なにもかもさむいからいやだ
なにもかもつらいからいやだ
なにもかもわたしをきずつけるからいやだ
いやだいやだいやだいやだいやだいたいいたいいたいいやださむいいたいくる
しいこわいさびしいこわいだれもいたいおとがいたいくらいのがこわいさむい
つらいいたいくるしいいたいいたいいたいいたいたいたああああああああああ
あああああぁあああああああぎゃあああああぁあああああああぁあぁあぁあぁ
おもいのが目に、目にささっていたいゆっくりくいこんで目がずぶずぶうって
おされて刺さってきてこわいこわいこわいなにも見えなくなる目がつぶれたら
見えなくなったらずっと暗いままになっていつまでたっても暗いままでこわい
ままでさびしくて痛くてつらくて苦しくてまっくらで怖くていたくて寂しくて
辛いままでいやだいやだいやだいやだいやだいやいやいやいや刺さってくるの
いやだ嫌だイヤだいや目が目がめが目が眼が潰れ──て──────────
0101代理投下 それはそれは残酷なお話(終編)
2009/07/20(月) 16:08:18ID:18hv90jyいやだ
なにもかも
だれもかも
すべて
ぜんぶ
ひっくるめて
「みんなみんな死んじまえ」
ぐちゅっ。
【南千秋@みなみけ 死亡】
0102代理投下 それはそれは残酷なお話(終編)
2009/07/20(月) 16:09:18ID:18hv90jy南千秋が無惨な死を遂げ、レックスなど別の例が現時点生き延びている事に、
何かしら理由が有ったのだろうか。
解答一。
因果応報。彼女の罪の報いである。
不正解。
もしそうであれば彼女と同じ人殺し達全てが同じように死ななければならない。
解答二。
判断ミス。城に攻め込むべきではなかった。
ほぼ不正解。
確かにその結果として南千秋は死亡したが、
例えばレックスは複数の判断ミスをしながらも生き延びており、決定的理由とは言えない。
解答三。
仲間の欠如。例えばレックスを助けに来たベルカナのような。
ほぼ不正解。
確かにそれによってレックスが生き延びたのは事実だが、
例えばパタリロは未だ千秋の事を心に留めている。
にもかかわらずよつばが殺された時も今もパタリロが現れる事は無かった。
0103代理投下 それはそれは残酷なお話(終編)
2009/07/20(月) 16:10:31ID:18hv90jyやはり因果応報。命を軽視した報い。
不正解。
南千秋は命を重く感じすぎたために道を踏み外したというのが正しい。
奇しくも同じ世界から来て殺し合いに乗っていた少年、
それぞれ藤木と永沢を殺害した南千秋とレックスだが、
千秋が完全に正当防衛である殺害への負い目から道を踏み外したのに対して、
レックスはその事で誰かに恨まれるかもとは思いながらも敵の殺害という認識は崩していない。
むしろ死の重みについては南千秋にとってのそれの方が遥かに重い。
補足。
これはそれぞれの世界で命の価値が違う事を意味しているわけではない。
命の重み及び絆の重みについては世界共通であるが、死の重みは環境によって変化する。
レックスの世界における死の重みが相対的に軽いだけである。
また、その原因は復活魔法などによる物ではない。
厳密に言えば現代医学は過去ならば当の昔に死亡判定された者達を蘇生させており、
復活魔法は極めて進んだ医学でしかない。
レックスの世界における死の重みが相対的に軽いのは進んだ医学が存在しながらも
寿命以外の要因で蘇生すら不可能な死を遂げる者があまりに多い過酷な紛争環境が原因である。
解答五。
逆に命の重さにひきずられすぎた為。
不正解。
それでも破滅していない者は居る。
0104代理投下 それはそれは残酷なお話(終編)
2009/07/20(月) 16:11:30ID:18hv90jy南千秋が無惨な死を遂げ、レックスなど別の例が現時点生き延びている事に、
何かしら理由が有ったのだろうか。
に対する正答一。
一切の理由は存在しない。
南千秋が死んだ事に特別な要因を見出す事はできない。
彼女は他の者と同程度に判断ミスをし、機転を利かせ、
絆を結び、離別し、道を踏み外し、戻ろうとした。
これらの点に、南千秋だけに特筆できる理由は存在しない。
つまり理由を付けるなら『不運であった』だけとなる。
たまたま。
何の理由も無く。
肝心な場面で。
外れクジを引いただけ。
南千秋の苦痛も絶望も恐怖も悲劇も惨状も全てはその一言に集約される。
単に運が悪かったために、真っ暗で一人っきりで自分が壊れていく音だけが聞こえる
激痛だけの地獄の底で悶え苦しみ時間を掛けて死んでいった。
直接誰かに殺されたわけでもないから憎しみの捌け口が向かう先も無く、、
結局最後に抱いていた僅かな全てにさえ憎しみを向けるしかなくなってしまった。
絆も否定され、夢も見失った。
0105代理投下 それはそれは残酷なお話(終編)
2009/07/20(月) 16:32:37ID:XHd6LKrOこの島に連れて来られ殺し合いを強要された時点で、全ての幼子達は不運である。
南千秋はその中でほんの少し運が悪かっただけと言える。
つまり当然の事である。
よって、問──
南千秋が無惨な死を遂げ、レックスなど別の例が現時点生き延びている事に、
何かしら理由が有ったのだろうか。
に対する正答二は。
この島において無惨な死を遂げるのは当然の事である。
となる。
以上で南千秋の死に関する問題を終える。
0106創る名無しに見る名無し
2009/07/20(月) 17:05:23ID:XHd6LKrO0107創る名無しに見る名無し
2009/07/20(月) 18:03:23ID:FG+xEpzTうわ、きつい話だな。でも各人見せ場があってよかったと思うけぞ
長編お疲れ様です
投下前に疑問と修正要請が来てるけど破棄するのはもったいないよ
後続次第の部分もあるからそんなに重箱突く様なマネは止めて欲しいな
ある程度納得出来る理由があれば通しでもいいような気がするが?
0108創る名無しに見る名無し
2009/07/20(月) 18:59:41ID:o1eDacPJ理由は>>62と大体同じ。
この話の中核の千秋に支給されたアヴ・カムゥがそもそも、
前の◆VE1vtHVvswさんが投下した時も強すぎで却下くらってる。
この話で出して、この話で壊したからいいという問題でもないし。
それに千秋の操縦技術にも難点がな。
レックスに対抗できるほど器用に動かせてるのがさらに違和感。
出典のうたわれはしらないけど、あれって戦略兵器だろ?
ただの小学生の千秋に腕や足を振りまわすならともかく、
人間用の盾や剣をつかませて振るわせることができるのかと言われたら無理だと思うし。
似たようなものとして参號夷腕坊があるけど、
これを操縦していた鈴木みかは、単純な動き以外はできていないし、
千秋が器用すぎる。
それにベルカナがあまりにも状況に的確に行動しすぎてるし、
千秋が運がよすぎる。まあこっちは最後に死んでるからチャラか。
あとQ-Beeがロワ会場をご褒美以外の為に徘徊するようになったから、
彼の時間もある程度時系列順に合わせないといけない。
これがQ-Beeの側が進みすぎた場合は問題ないけど、
Q-Bee側が遅れている場合はご褒美のある話の投下は自重したほうがいいね。
それに一部分だけの時間の進みすぎも問題視されてなかったっけ?
今回もまだ放送越えしてないところもあるのに、この場所だけ夜明けにするのもな。
かといって黎明にすればいいかと言われたら、それにしてはイベントが入りすぎてるし。
あとシャナが何で城が崩壊するほどの
まあこれに関しては次の話で気付いたとか、雨で気付かなかったとか、
いくらでも理由は作れるんだろうけど。
>>107
話がいいから破棄するのはもったいない、っていうのはいいけど、
「矛盾がなければ何をやってもいい」ってわけじゃないよ。
その結果がどうなったかはここの住民なら知ってると思うけど。
0109創る名無しに見る名無し
2009/07/20(月) 19:16:11ID:pI8U/Rglあとデイン系に耐性のある魔物ってそれなりにいるんだが。
キラーマシンとかデイン系効かないし、何で同じ機械相手に迷いなく使ってんだろうな。
燃費面でも場合によってはイオナズン・メラゾーマに劣るのに
>幾ら他系統の呪文を極めようとも、ギガデインに比する威力まで到達することはできない。
って母親と妹を馬鹿にし過ぎ。
0110創る名無しに見る名無し
2009/07/20(月) 19:57:27ID:psBc0Aze勇者というより僧侶、しかもシリーズ最強の僧侶と言えるだろう。
べホマくらいは妹に譲ってやれよって感じ
家族パーティー組んでるとレックスばっかりさせたい仕事が増えていって妹と妻は役にたたねーw
賢者の石とかで回復してろって感じになる。
0111創る名無しに見る名無し
2009/07/20(月) 20:36:08ID:HwI/jRrqいい感じに涌いてるね、書き手の人はご愁傷様
0112創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 05:06:02ID:jJXywgTNレックスとの戦闘もどうなるんだこれと最後まで楽しませてもらいました。
ラストのくだりも色々考えされられたな、読者に対する謎かけは好物なものでw
>アヴ・カムゥ
前回はむしろローザミスティカのほうに支給の是非が集まっててこちらは有耶無耶な感じだったか。
個人的には今回の支給に関しては許容してもいいと思っているのでその上で意見を。
アニメのアブ・カムゥの箇所見直したけどどう操縦しているのかよく分からない。
少なくともコンソールやレバーみたいなものは使わず、搭乗者の動きをトレース、
もしくは意思に反応して動かしているように見える。これならモノを掴んで振り回すこともできる
と解釈するのもあり……なんだがうたわれ原作未プレイなので詳しい人に補足してもらいたい。
あと夷腕坊は主にエスパー帽子で擬似的に動かしていただけだから今回のと同列にしなくてもいいと思う。
神視点の行動もいくつか気になったけど、とくに勇気あるものの盾を千秋が使ったこに違和感あり。
刀身2mのドラゴンころしをアヴ・カムゥに持たせて攻撃は充分納得できるけど、
盾のほうは巨体に対してあまりにも小さすぎる。「この盾なら絶対に炎を防げる」という
確信がなければ人間サイズの盾を一瞬のうちに回収なんてことはしないはず。
>>62
アヴ・カムゥの投げる力で物理法則無視した軌道で飛んでくるんだから
虚をつかれてルーンの杖があたってもいいんじゃない?
0113創る名無しに見る名無し
2009/07/21(火) 10:13:42ID:BuxIp9820114創る名無しに見る名無し
2009/07/22(水) 02:25:14ID:DR1s/pKn予約破棄すれば良いだけなのに。
下手な言い訳すんなよ…
0115創る名無しに見る名無し
2009/07/23(木) 00:34:25ID:/kFY6KsO0116創る名無しに見る名無し
2009/07/26(日) 22:19:17ID:5Et9I3D30117創る名無しに見る名無し
2009/07/27(月) 23:53:14ID:mnapRxUh0118創る名無しに見る名無し
2009/07/29(水) 20:30:32ID:FmndzMC+GJ!
久々に来たけど読み応えのあるものを読ましてもらいました。
各人複雑の心情やら因縁がおありのようで。
0119創る名無しに見る名無し
2009/07/29(水) 20:43:07ID:ZCAeXoYAそれ没になってるよ
0120創る名無しに見る名無し
2009/07/29(水) 20:59:36ID:FmndzMC+ナヌゥ!?
残念…
0122川音が喧しく響いていた ◆tcG47Obeas
2009/07/29(水) 22:23:35ID:LP95xCMx長いようで短かった夜も終わりに近づき、地平の空が白く滲んでいる。
もうじき、朝が訪れる。
陰鬱な夜が去り、きっとそれ以上に凄惨な、目を覆いたくなるような一日が顕れる。
それがこの島で起きる繰り返し。
「………………」
南千秋は声も無く見上げていた。
川の向こうに聳え立つ城を。
たくさん呑み込んでしまった城を見上げて、思い、再認識する。
この島で多くを殺す事がどれだけ価値の有る事かを噛み締める。
人の死体の上の寝床。
犠牲の上に繋がれる絆の身勝手な優しさを、想って。
千秋は、少し前の事を思い出していた。
* * *
「やっぱり、雛、行く。城に行って、さくらを取り戻す」
「……バカ野郎。ムリだ」
それは追加支給品の配達が終わって少しした頃の事だった。
追加支給品は、決してハズレというわけではなかった。
ただ、あの城に居る者達と再び戦う気になれるほどの物でもなかった。
それだけの事だ。
城に向かったところで、あの連中を殺すなんてこと絶対無理だ。勝てっこない。
それなら、今はあの城から離れたい。
「ヤなの。もう、離れたくないの。さくらから離れたくないの!」
なのに雛苺は聞く耳を持たない。
千秋にも、その心を全く想像出来ないわけじゃなかった。
こんなに冷たくて、寂しくて、こわい、殺し合いの島で。
誰か、寄り添ってくれる温もりが在るならば。
それはきっと、二度と手放したくない物に違いないのだから。
「今はガマンしろよ。大体、さくらって奴も生きてるかすらわからないんだろ」
「ううん、生きてるの! さくらはきっと生きてるの!」
「どうしてそんな事がわかるんだ?」
「だって雛とミーディアムの契約をしたの! この指輪が有る、かぎ……り…………」
だけど掲げられた人形の小さな指には。
「……何も無いじゃないか」
指輪などはまっていなかった。
……言葉が、途切れる。
すぐ側を流れる、増水した川の水音だけが聞こえている。
雨上がりの月光が夜の地面を照らしている。
雛苺がゆっくりと、唇を震わせた。
「………………」
音の無い、声。
千秋は、いけないと思った。
雛苺の掲げた、何も嵌められていない指は、きっとそういう事なのだ。
千秋にとって罪の無い温かい日常みたいな、何時か帰りたい場所を示していた物なのだ。
その喪失を示す物なのだ。
だから、いけない。
その場所に帰る事が最後の希望だったのに、もしもそれが無くなってしまったら、どうなるか。
雛苺を止めなければならない。
例えば彼女が城に突撃して敗北する事は、千秋にとっても危険なことだ。
千秋の情報が漏れるかもしれないのだから。
雛苺を城に向かわせるわけにはいかない。
千秋は、言った。
「私が一緒に居てやる」
と。
0123川音が喧しく響いていた ◆tcG47Obeas
2009/07/29(水) 22:24:57ID:LP95xCMxさくらって奴はもう居ないのかもしれないけど、さ」
「………………」
「無理に城へ突っ込んで殺されたって何の意味も無い。
さくらって奴もきっと、おまえが生きてる方がいいさ」
「………………」
「だから……」
「それでも……」
雛苺は、言った。
「雛は、さくらが良いの。さくらじゃなきゃヤなの。
ひどい事をしたのに、雛を赦してくれたさくらだから。
さくらはずっと離れないで居てくれるって思えたから。
雛は、さくらが居てくれるならそれで良いって思えたの。
もう真紅も翠星石も居ないけど、さくらが居ればきっと良い事になる。
それがどんな事なのかも雛にはもう判らないけど、それでも、きっと。
さくらが死んでいても、さくらに会いたいの。
さくらと居たいの」
「…………そうか」
轟々濁々と音を立て、川の水が流れていく。
想いも、絆も、選択も。
全てを荒々しい水の流れで呑み込む様に。
川の水が流れてゆく。
何もかもを呑み込んで。
幾つもの死を奥底に沈めて。
* * *
皮肉なくらいに綺麗な、満月の夜だった。
降り注ぐ清廉な光は何もかもを浄化するようで、
それに照らし出される湖上の城は、神秘的ですらあった。
世界はそんなにも美しい。
こんなにも醜い世界なのに。
「……感傷に浸ってても仕方ないよ、バカ野郎」
千秋は呟きと共に、核鉄を握り締める。
核鉄を再び武装錬金に、シルバースキンへと展開し、小さな体を包み込む。
千秋の身と姿を護る、大切な外套だ。
ただの少女が傷つかない為の鎧だ。
そして、ただの少女が誰かを殺すための武器だ。
(ああ、もうこいつも捨てておくか。不気味だし、私じゃ使えないからな)
千秋はランドセルからジャック・オー・ランタンを取り出した。
頭部が割れ、人形の首が二つも括り付けられたそれは、えも言われぬ不気味さを醸し出している。
雛苺の力で操られていたそれは、今でも不気味で、怖い人形だった。
要らなくなった、というよりも怖いというのが本音だ。
到底千秋には使えそうにもなかったけれど、誰か仲間を得れば使わせられる、かもしれない。
かもしれないでこんな物を持ち続けたくなかった。
それを持ち上げ、投げ捨てようとした所で思い直して。
投げ込む前に、テーブルクロスで包み込んだ。
雛苺の遺骸と一緒に。
0124川音が喧しく響いていた ◆tcG47Obeas
2009/07/29(水) 22:25:52ID:LP95xCMx雛苺が突撃しても、誰も殺せず一方的に負ける事なんて目に見えていた。
川音は喧しくて、ちょっとやそっとの物音は届かなかった。
夜の木陰は視界が悪く、見えにくかった。
第一、雛苺は千秋に対して全くの無警戒で、その意識は城にだけ向いていた。
南千秋には裏返し当てる事さえ出来れば相手の抵抗を悉く封じられるシルバースキンが有り、
ランドセルの中には弾切れした銃だとか、人を殴り殺すには十分な物が色々入っていた。
悲鳴は上がった。千秋以外の誰にも聞こえない悲鳴が。
他にも様々な叫びが聞こえた。誰の心にも届かない叫びが。
雛苺はその喉から様々な音を響かせながら、砕けて、壊れた。
それだけだった。
千秋はそれっきり、雛苺の遺骸から目を逸らした。
雛苺の遺骸とジャック・オー・ランタンを大きなテーブルクロスで包み込み、川へと放り込んだ。
「……一丁あがり、だ」
片は付いていた。
千秋がここで出来る事は何もない。
城から離れて、別の場所で人を殺すだけだ。
最後の一人まで生き残る為に。
それをまた、たった一人でやらねばならない事を思い、暗鬱な気持ちになった。
「ちくしょう」
一人じゃ睡眠を取るだけでも怖ろしい。
寝ている間に誰かが忍び寄ってきたら、どうしよう。
何処かの物陰から誰かが襲い掛かってきたら、どうしよう。
誰かに襲われたら。
どれだけ武器が有ったって、正面からの殺し合いでただの子供が勝てるわけはないのに。
もう一度城を見上げて、湧き上がる嫉ましさに歯噛みした。
「なんて奴らだ。みんなみんな死んでしまった」
南千秋にとっての殺害カウントは、梨々=ハミルトンと雛苺の二人になる。
だけど本当の意味で殺せたと意識しているのは、梨々の方だけだった。
雛苺は城から逃げ出した時、もう殺されていたようなものだ。
木之本桜という少女を殺す事によって。
千秋がしたのは、既にどうしようもなくなっていた雛苺が城に出戻って殺されるよりも、
自分にとって都合の良い形で引導を渡したに過ぎない。
「イヴに、さくらに、雛苺。二人も殺して、一人生きていけなくして。
私よりもずっとずっと人殺しじゃないか。
だから、そんなに温かい場所にいるのかよ。
何人も集まって、強い力を持って、朝を待てるのかよ。
狡いぞ。バカ野郎」
その現実が千秋の思想を歪ませる。
やっぱり、殺すのが正しい事なのだ。
この島においては一滴の希望も、誰かとの絆も、温かい居場所も、命も。
全ては人を殺す事によって手に入れられる物なのだと。
そう、強く感じた。
「…………くそぅ」
千秋は、踵を返す。
城に背を向けて、歩き出す。
船は取り返せなくて、イヴと幾つかの支給品を失い、雛苺は手に入れた時既に終わっていた。
雛苺から奪った追加支給品だけが収穫だった。
打ちのめされたひとごろしは月明かりの下、逃げ延びる。
何処かで誰かを殺す為に。
ひとごろしである事を否定するために。
矛盾を踏み締め、歩み去る。
全てを押し流すような川が流れる、その横を。
川音が喧しく響いていた。
0125川音が喧しく響いていた ◆tcG47Obeas
2009/07/29(水) 22:26:50ID:LP95xCMx【雛苺@ローゼンメイデン 死亡】
【F-4/城から移動中/2日目/早朝】
【南千秋@みなみけ】
[状態]:健康、疲労(小)、人間不信&精神衰弱。
[装備]:ロングフックショット@ゼルダの伝説/時のオカリナ、祝福の杖(ベホイミ残1回)@ドラゴンクエスト5、
首輪探知機、シルバースキン(展開中)@武装錬金
[道具]:基本支給品×5(食糧、水のみ四人分)、ルーンの杖(焼け焦げている)@ファイナルファンタジー4、
コンチュー丹(容器なし)@ドラえもん、青酸カリ(半分消費)@名探偵コナン、
的の書かれた紙×5枚@パタリロ!、太一のゴーグル(血がついている)、替えのパンツ×2枚、
ころばし屋@ドラえもん、小銭入れ(10円玉×4、100円玉×3) インデックスのメモ、ご褒美ランドセル
F2000R(残弾12/30)@とある魔術の禁書目録、FNブローニングM1910(残弾0)、飛翔の蝙也の翼@るろうに剣心、
グラス×5、爆弾石×2@ドラゴンクエスト5、確認済み追加支給品1〜3(外れではないが城に攻め込める程でもない)
[思考]:何処か、別の場所に。
第一行動方針:協定通りシェルターへ向かう? それとも……
第二行動方針:グレーテルの消耗を待ちつつ、グレーテルを倒せる戦力を掻き集める。
第三行動方針:他者を利用しつつ、殺し合いを促進させる。危険因子はその都度排除。
第四行動方針:全て終わったら、八神ヒカリに形見のゴーグルを渡したい(自分が殺した事実は隠す)?
基本行動方針:優勝狙い。優勝のご褒美で“殺し合いに参加していた自分”を消してもらい、元の世界に戻る。
もう正面から戦ったりしない。
[備考]:グレーテルに対し、シルバースキン以外の手の内をほとんど明かしていません。
グレーテルを拳銃で撃っても死なない化け物だと思っています。
イヴと木之本桜はレックス達に殺されたと思っています。
頭が割れた、真紅と翠星石の首付きジャック・オー・ランタンは、
雛苺の遺骸と共にテーブルクロスで包まれ、川へと流されました。
雛苺、真紅、翠星石のローザミスティカも時間差で雛苺の体から遊離します。
北の海に流れ出ると思われますが、その後は不明です。
0127創る名無しに見る名無し
2009/07/29(水) 23:16:43ID:l7txnBrg無難な終わりになったか。
確かに雛苺はどう考えてもお城に向かうだろうし、
千秋が城組に勝つ姿は想像できないw
というか一般人がどうがんばっても正面じゃ勝てないだろww
0128創る名無しに見る名無し
2009/07/30(木) 01:00:07ID:izCzYK9f最近こういう雰囲気の話は読まなかったから尚更。
敢えて描写しないことで死亡時の無常感とかが引き立っているのがうまい。
雛苺は手に入れた時既に終わっていた、か。
そんなことが判断できるほど賢しくなければもう少し幸せになれただろうに。
0129創る名無しに見る名無し
2009/07/30(木) 11:59:16ID:0DIMgr6y文章が短いというのに千秋の無情さがでてうまいと思った
しかし千秋よ、イヴも桜も生きてるぞ?
放送のときどういう反応するのか非常に楽しみだ
ところで早朝というのは少し全体的に見て早すぎないか?
まだ放送前の人もいるし城組ほど時間が経過したとも思えないし
黎明でいいと思うんだが
0130創る名無しに見る名無し
2009/07/30(木) 12:36:21ID:Ll9qvEN7しばらく感傷に浸ってたみたいだし
0131創る名無しに見る名無し
2009/07/30(木) 15:26:10ID:nL+4WHkV後半にしたがって話は何故か長くなるのに、
この話はいがいとあっさりしてるな。
短いってわけじゃないし良いと思う。
>>130
特定の場所の時間の進みすぎが悪いって言ってるんじゃないかな?
放送前も北西だけ時間が進みすぎて扱いにくかったりしたし。
0132創る名無しに見る名無し
2009/07/30(木) 18:26:22ID:KBMJTg9l千秋はこのまま取り返しのつかないとこまで行ってしまうのか…
ええい、パタリロは何をやっているんだ
0133創る名無しに見る名無し
2009/07/30(木) 22:13:02ID:ddxFzdVW諸行無常の響きあり(意味分かってない
なんか夜中に読むと切なくなったよ。
0134創る名無しに見る名無し
2009/07/31(金) 14:12:06ID:4vROigFo無常感がよく出てるな
そして千秋はもう戻れないかもな
0135創る名無しに見る名無し
2009/08/01(土) 17:02:05ID:vbgQZaFGイヴのように記憶が消去できるわけではないし、
パタリロは今にも殺されそうだしw
しかし考えてみれば、城組との戦いが千秋にとっての初めての超人との戦いなわけか。
ニケとグレーテルの戦いは見てたけどあれは他人事なわけだし。
0136創る名無しに見る名無し
2009/08/03(月) 22:31:54ID:rucnK3MF◆tcG47Obeas氏は返答をお願いします。
零時の放送が終わった後、城組が二時間(明記有り)の睡眠を取り、千秋達の侵入で城組が起床。
この時点で黎明に突入しやや経過しています。
城組が態勢を整えて迎撃し、千秋が撤退。以降城と時間共有せず。
気絶していた雛苺が目を覚まし、ご褒美を要求。
消耗したQBが遅れて支給品を配達し、雛苺を千秋が殺害、死体を始末する。
ここら辺を見ると、次の時間に進んでいないとおかしいと考えました。
イベントが一繋がりで起きた為に進んでしまったのでしょう。
城組に比べるなら、二つ進んでしまったわけではないので許容範囲かと。
確かに全体を見ると、一箇所遅い所が気にはなるのですが。
0138創る名無しに見る名無し
2009/08/05(水) 04:22:21ID:JIzgQHec・リリスとの会話
・死体の確認
・黎明中に雛苺のご褒美(ジェダの命令ではご褒美を優先)
・早朝までに帰還
って結構ハードだし。
0139創る名無しに見る名無し
2009/08/05(水) 13:37:17ID:NpdQMTqeリリスの所にいる時点ですでに黎明直前だしな。
あと2時間で6人はかなり無謀なスケジュールだよな……w
まあグリーンの死体はリリスが確認してるし、
梨花以外の4人はみんな北西部だから大丈夫かもしれないが。
しっかし北西部には起こることが確定しているイベントが盛りだくさんだな
ヴィータと志穂がやってくるしシャナがトリエラを殺しに来るし、
Q-Beeは下手したらリリスと一緒にやってくるし、現時点最強のレミリアはいるし、
トリエラとヴィクトリアは電話中だし……
0140創る名無しに見る名無し
2009/08/05(水) 18:00:19ID:NpdQMTqe0141創る名無しに見る名無し
2009/08/07(金) 18:15:24ID:qIkj1s5w0142創る名無しに見る名無し
2009/08/08(土) 17:06:39ID:LqlTtwrz0143創る名無しに見る名無し
2009/08/09(日) 14:24:33ID:Ow/ql+TG0144創る名無しに見る名無し
2009/08/09(日) 21:03:46ID:3OuMX1UL0145創る名無しに見る名無し
2009/08/10(月) 13:01:50ID:aE6AgBphまだまだ余裕あるらしいよ
0146創る名無しに見る名無し
2009/08/11(火) 23:57:39ID:2ebdumy6ってことだろ…
0147創る名無しに見る名無し
2009/08/14(金) 14:28:48ID:7i3taaJ3ていうか気になるキャラっている?
0148創る名無しに見る名無し
2009/08/14(金) 22:07:17ID:s+Aq7Jvj0149創る名無しに見る名無し
2009/08/14(金) 23:07:51ID:7i3taaJ3唯一救援に行ける位置にいるのはエヴァだけという。
自分はさくらが気になるな。状況じゃなくて、原作的に。
ツバサのさくらが異次元同位体とかじゃなくさくらの関係者みたいだし、
どうにかうまい具合に次元の巫女とか使えないかと考えてる。
0150創る名無しに見る名無し
2009/08/15(土) 03:06:14ID:2vsp/TNMでも参加してない作品のキャラが出張ってくるのはどうかと思うな
0151創る名無しに見る名無し
2009/08/15(土) 23:02:40ID:DMF7ixSa最近遠隔制御霊装なんかがでたから。
0152創る名無しに見る名無し
2009/08/16(日) 17:24:04ID:U0XCUGlbククリも逝っちまったし
仲間がマーダー、グレーテル組が神社にいるし。
0153創る名無しに見る名無し
2009/08/16(日) 23:32:59ID:J1UxksPEだがそれを行うであろう終盤まで生き残れるのか……?
目の前の死亡フラグがまずいかしてはくれないだろう。
0154創る名無しに見る名無し
2009/08/17(月) 11:41:46ID:OtuFSUv7天空の剣はいてつくはどうだし、マスターソードは退魔の剣だし
どっちも結界破壊とか出来そうだ
0155創る名無しに見る名無し
2009/08/17(月) 16:02:48ID:SDH6fD370156創る名無しに見る名無し
2009/08/17(月) 22:53:33ID:h0Z3Yv/Nでもできれば3人で一斉にとかみたいな。
0157創る名無しに見る名無し
2009/08/18(火) 10:55:40ID:ME12E83T0158創る名無しに見る名無し
2009/08/22(土) 00:54:04ID:aaOs1D638月は投下なしかな……
文章力皆無で書けないのが悔しい。
0159創る名無しに見る名無し
2009/08/23(日) 18:53:31ID:7G3X8I7o最近はどこ行っても上手くないといけないという強迫観念ガガガガ
0160創る名無しに見る名無し
2009/08/24(月) 16:57:41ID:mHc2tRy/0161創る名無しに見る名無し
2009/08/25(火) 18:06:29ID:CRIYoR3I夏風邪は辛いし。インフルエンザだったら大変だ。
0162創る名無しに見る名無し
2009/08/25(火) 19:33:13ID:+bn886S4■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています