ロリショタバトルロワイアル24
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0001創る名無しに見る名無し
2009/06/14(日) 18:17:16ID:lSvAgYo/衝動をぶち撒けろ!
欲望を解き放て!
情熱を、燃やせ!
ここは真性の漢共(女性可)が集まり、
ジャンルを問わないロリショタキャラでバトルロワイアルを行う、
あまりにもCOOLなスレです。
紳士淑女の心を忘れず冷静に逝きましょう。
前スレ
ロリショタバトルロワイアル23
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1230413656/
テンプレ、過去ログは>>2-5辺に
ロリショタロワ避難所(したらば)
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/12693/
LSロワお絵描き掲示板
ttp://oekaki2.basso.to/user11/hisou/
LSロワお絵かき掲示板2
ttp://bbs2.oebit.jp/LoliSyotaRowa/
まとめwiki
ttp://www25.atwiki.jp/loli-syota-rowa
0460高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX.
2009/12/10(木) 21:11:05ID:rB1bb3hK「……貴様にだけは教えておいてやろう。私は殺し合いには乗っていない。
だが、仲良しごっこをするつもりもない」
エヴァちゃんの言葉が。
「ジェダを見つけ出し、そこまでの道筋を付けるのが私の当面の目的だ。
誰とも馴れ合わず、何者も恃まず、私の好きなようにやらせてもらう。
善良な連中に手を出す気はないが、邪魔な輩は実力で排除する」
とても、うれしくて。
「つまり、殺し合いに乗った連中は、私にとっても敵だ」
「なら、私と同じ――」
「違うな」
私よりもずっと。
「私と貴様の決定的な違いがなにか、わかるか?」
ずっと真っ直ぐに進んでいたから。
「状況に強いられたとはいえ、私は自ら選んだ」
もしもあの時の私がエヴァちゃんに殺されていたとしても。
もしもあの時のエヴァちゃんが私を殺していたとしても。
「だが、状況に強いられたとはいえ、貴様は結局流された」
エヴァちゃんは折れることなく、私よりも上手く、物事を良い方に進めていただろう。
この間違った世界で死んでいく人を減らしていただろう。
そう思えました。
私はそれでも動き続けました。
わたしは全てを許容しはじめていました。
エヴァちゃんは語りました。
悪の美学、自己満足のルールを。
私にそれは有りませんでした。一貫した通念など無かったんです。
身勝手でもなんでも、私は一人でも多くを助けたいだけだったから。
目的の為に手段を選ぶなんて発想自体がありませんでした。
だって非道とされる事は全て、人殺しに比べたら“大した事じゃない”んですから。
私はどんなルールを設けても自己満足なんて出来ないし、殺人を赦せなかったでしょう。
堕ちない為にルールが必要だったというのなら、
私にはこの全てが、最初からできない事だったのかもしれません。
「ましてや、人の命を奪いながら、さもそれを正しいことのように居直るなど、愚の骨頂も甚だしい」
「た、正しいことだなんて、思ってない!」
これは狂った世界のルールで。
この世界でだけ意味を成して、この世界以外の何処に行っても間違っている狂気なんだから。
でも。
「みんなのために殺すんだと、貴様は言った」
私は叩きのめされて敗北し。
0461創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:11:22ID:J05OHvDL0462創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:11:52ID:7jagqsnq0463創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:12:26ID:FWMRaO4i0464高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX.
2009/12/10(木) 21:12:34ID:rB1bb3hK言葉が、わたしを引き戻す。
結局はそれが全ての基点。
私はみんなが好きだった。
わたしはみんなが好きでした。
だけど私は自分を許せない。
だけどわたしは私を赦せない。
だから私は、自分の為に何もできない。自分の為と居直るなど持っての他です。
だからわたしは、私のために何もできない。
私は理性で考える。
わたしは心で想いを馳せる。
私は、私が愛しかった人達が大切で価値有る人だと考えるから。
わたしは、私にたくさんのものを与えてくれたみんなが愛しいから。
みんなの為に、身勝手でもみんなを護りたい。
自分の想いに正直に、みんなをまもりたい。
ただただ理性で考えるならば、私は護るべき人を護るだけ。
そこに美しいだの醜いだの善だの悪だの正しいだの間違ってるだの全ては意味が無い。
蛇蝎の如く憎まれて蔑まれてもみんなを護る。
悪魔でもいい。
ううん、悪魔にすらなれなくてもいい。
ただの機械、人形ですら構わない。
その為に必要だから殺すだけ。
純粋に心で想うなら、わたしはみんなを護りたい。
そこには理念も理屈も理論も理性さえも要らない。
失う恐れが上回るのなら、心のままに誰かを殺めるのかもしれない。
強すぎる想いとはそういうものだから。
断じて間違っていても突き進んでしまうものだから。
でも心から殺したくないと想うなら。
例えその先に破滅が待っていようと、立ち止まるだけでいい。
どっちにしても正しさなんて物は有りません。
ただ。
私は想う。
わたしは考える。
高町なのはという一個人はどちらで在りたかったのだろう、と。
渦を巻く思考は、それでも一つの点において理由と目的を共通させていました。
「――友達よ!」
あれだけ突き放しても。
もうぜったいに嫌われるだろうというくらいに否定しても。
それでも私を見捨ててくれない彼女の事が。
逃げてといっても逃げてくれない彼女のことが。
わたしは、アリサちゃんのことが大好きです。
0465創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:12:37ID:J05OHvDL0466創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:13:07ID:7jagqsnq0467高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX.
2009/12/10(木) 21:14:19ID:rB1bb3hKエヴァちゃんの言う事は正しかったと思います。
「失くしたものは取り戻せん。
奪ってしまったかけがえのないものに、代わりなどありはしない。
それを、やり直せるなどとほざくのは、命の価値を冒涜する行為に他ならん」
「それだけならまだしも、こいつは歪み果てた。矯正できんほどにな。
高町なのはは、もはや光の世界には戻れん。かといって、闇の世界で生きていける素養もない。
その上、楽に破滅できるほど心も弱くないという、最悪の三連コンボだ。
私としても、ここまで救われないヤツを見るのは初めてだよ」
「高町なのはに残されている道は、二つ。
際限なく災厄を撒き散らし、失った光を羨みながら闇の中を彷徨う惨めな人生か、
あるいは――安らかなる永遠の眠りか。
さて、小娘。貴様はどっちが慈悲だと思う?」
私はこの世界で災厄を振り撒き、災厄で一つでも多くの災厄を吹き散らし、その末に終わるつもりでした。
命は、とても大切なものだから。
それだけは理解したままだから。
それを冒涜した私こそ一番赦せない存在になってしまうんです。
違うと思うのは、今の私を立たせているのが強い心という所くらい。
折れた心を理性が引きずる、理性の狂人。
それが今の私だと思いますから。
それなのに、アリサちゃんは言います。
「……どっちも御免よ。あんたの言うことは極論だわ。
なのはのことも、手遅れだなんて思わない。
あんたはなのはを知らない。あたしたちのことを、なんにも知らない!
何年かかっても、一生かかっても、あたしが絶対更生させてみせる!
だから、あんたが退きなさい。ここは絶対に通さないんだから!」
「……なのは、さっきは殴ってごめんね。あたし、もう逃げないから。
なのはからだって、あたしは二度と逃げないから」
私は。
わたしはきっと。
どこまでも、無力でした。
0468創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:14:38ID:7jagqsnq0469創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:14:59ID:J05OHvDL0470高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX.
2009/12/10(木) 21:15:14ID:rB1bb3hK「りかのことは、残念だったんだよ……」
何時の間に現れたのかな。
インデックスちゃんが、リンクくんを連れて話しています。
エヴァちゃんに言葉を向けています。
「でも、過ぎたことを悔やんでも仕方ないんだよ。先に進まないと。
リンクだって、もう怒ってないんだよ。話がしたいんだよ」
古手梨花ちゃん。
学校で見た、あの少女。
あの少女がきっと、エヴァちゃんにとってのフェイトちゃんで、はやてちゃんだったんでしょう。
何があったのかは判らないけれど、それでも。
「……神社の隅に、梨花ちゃんを埋めた。できれば、一緒にお参りして欲しい」
リンクくんの言葉が。
「一緒に行こう、エヴァ。もう一度はじめからやり直すんだよ。
諦めないで、もう一度力を合わせて、一緒にここから脱出しよう?」
インデックスちゃんの言葉が。
エヴァちゃんだけでなく、私の胸にまで響くようでした。
「そこの小娘にも言ったことだ! 取り返しのつかないものを取り返そうなどと、不遜極まりないとな!」
「……エヴァ。それは、なのはのこと? それとも、エヴァのこと?」
「でも、違うんだよ、エヴァ。それはエヴァが間違ってる。
生きてれば、何度だってやり直せるんだよ?」
「確かに、取り返しのつかないことはあるよ。かけがえのないものはあるよ。
でも、だからって、全部なくなっちゃうわけじゃないんだよ?
なにもかも、ダメになっちゃうわけじゃないんだよ?
世界が終わってしまうわけじゃないんだよ?」
「取り返しのつかないものはあるけれど、なくしちゃったものは戻ってこないけど、
まだ、次があるんだよ? やり直せないことなんて、なにもないんだよ?
一人を不幸にしちゃったのなら、十人を幸せにしてあげるんだよ。
一つの命がなくなっちゃったのなら、百の命を育んであげるんだよ。
なにもかも捨てれば、それでいいってわけじゃないよ!
償えない罪なんて、絶対に、どこにもないんだから――!」
私には、答えを出せませんでした。
0471創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:15:30ID:7jagqsnq0472高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX.
2009/12/10(木) 21:16:09ID:rB1bb3hK罪深き我をも 赦したもう
闇に惑いて 躓く我の
盲いたまなこを 開きたる
主の御恵みは 畏れを識らしめ
且つ安らぎを もたらさん
あの時のわたしにはきっと、何の力もありませんでした。
もちろんデヴァインシューターを放ちエヴァちゃんを牽制する程度の事はできました。
戦力として若干の機能していたとは思います。
だけど、それだけです。
ああ、訪れし 御業の覚えよ
なんたる歓びの 朝なるか
幾多の悩み 苦しみを経て
我は来たらん 主の御前に
主の御恵みは 我を導き
約束された 故郷へと誘う
インデックスちゃんの歌う、ただの聖歌。
あの場においてあの歌は、如何な暴力やどんな魔法よりも強い力を持っていました。
私はそういう強さがあることを思い出していました。
いつでもそんな強さが役に立つわけじゃない。
ほんとうに、極稀で様々な条件が合致した一瞬だけ、とても強くなることができる。
そんな強さのことを。
時にはただただ純粋な力さえも上回る、とてもちっぽけな力。
純粋な、想いの力を。
主の御言葉は 我を清めて
望みを援け 支えたもう
生ある限り 主は我が身を
護る盾となり 糧ともならん
おお、我が肉も 心もいつか
務めを終えて 土に還れど
私はかつて想いや言葉だけでは届かない事を知って、力を求めました。
そうして友達とぶつかりあって、想いをぶつけて、届けました。
想いだけでは変えられない運命を変える為に、想いを貫くための力を求めました。
想いだけじゃ足りない時は必ず有ります。
けれどそういう時でさえ、全ての中心に有るものはいつも。
想いでした。
0473創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:16:17ID:J05OHvDL0474創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:16:31ID:7jagqsnq0475高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX.
2009/12/10(木) 21:17:21ID:rB1bb3hKとわの命を 与えられん
氷雪の如く いずれ世は失せ
太陽すらも 輝きなくさん
されど命を 与えし主は
とわに傍らを 離れまじ
「守護する盾、風を纏いて……鋼と化せ……すべてを阻む……祈りの壁、来たれ……」
私は。
わたしは。
それを、護りたかったんです。
意識はそこで途切れてしまって、エヴァちゃんがどんな決着を得たのかは判りませんでした。
でも、アリサちゃんの暖かな声と温もりを感じられた気がしました。
私はただその温もりの中で、安らいで。
そして。
考えました。
私がどうすべきかを。
0476創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:17:38ID:7jagqsnq0477創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:18:23ID:J05OHvDL0478高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX.
2009/12/10(木) 21:18:26ID:rB1bb3hK「うん、解ってる。それじゃあ私はいくね。服、ありがと」
結局のところ、“私”は止まれなかった。
ありとあらゆる理屈さえ。
私を全て理解した上で向けられた言葉さえ。
全ての理屈を撥ね退けて響き渡るあの荘厳な聖歌でさえも。
“私”、高町なのはを止める事はできなかった。
それはきっと、どうしようもない事です。
私の最大の武器は魔法でも、日常生活中さえも並列思考で積み重ねた訓練でもありません。
私の最大の武器は、意思です。
いえ、ただ単に全身全霊で歩き続ける力と言ってもいいと思います。
私の選択は、それしかないといういわば流される形で選んでしまった選択でした。
だから歪で、恐らく醜いものなのでしょう。
私は無理矢理受け容れざるを得なかったその道ですら、歩き続けていました。
他により良い道が見えなくて。
時間と共に増える圧倒的な死者の数は他の道を探す猶予さえ許してくれなくて。
エヴァちゃんの言った通り、私はもうどう足掻いても折れる事が出来ないのでしょう。
私がこれまで培ってきた不屈の意思は、無数の悲劇と七人の殺人により歪んでしまいました。
この意思がある限り、私は止まれないでしょう。
捻じ曲がってしまった私は、ただただ理性による判断を良しとするのでしょう。
理屈も、想いも、それがどれだけ強いものであっても、私を根幹から揺るがすには足りないのでしょう。
きっと、その前に何処かで命尽きてしまうのでしょう。
「……君はアリサ達から逃げるんだね?」
そう、逃げです。
アリサちゃんが追いかけ続けても、私が側に居るよりはマシという判断です。
私は逃げ続けます。逃げ続けて、追いつかれる前に死にます。
「……今までと変わらないよ。殺すんだ。このゲームに乗って人を殺しちゃった人たちを。
その人たちを殺さない限り、これからも死んで行く人が増え続ける」
正確にはこれから人を殺そうとしている人達を殺す事で、
少数を救おうともせずその人達以外の死者を減らそうと試みる行為です。
「それは違う……。こんなことになったのはジェダのせいだ。
もともとは殺し合いに乗らないような人だって、ジェダのせいで殺し合いに乗ったんだ。
……そんな人たちも殺しちゃうのか?」
「でもジェダに乗せられたとはいえ、殺さなくていいはずの人たちを殺すことに決めたのはその人だよね?
ならその人たちは殺さなくちゃいけない悪人だよ」
……悪人。
なんて広い言葉なんだろう。
この間違った世界に適応してしまった人も。
適応を拒んでいても、ただ逃れようと人を殺そうとしている人も。
一切の悪意無く行っている者も。
死者を減らそうと殺人を繰り返す私までもを含め。
その全てを悪人という言葉に一括る。
それらを殺す事で、一人でも死者を減らそうという試み。
「なら……ヴィータはどうなるんだ?」
0479創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:18:28ID:FWMRaO4i0480創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:18:39ID:7jagqsnq0481創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:19:09ID:FWMRaO4i0482創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:19:43ID:J05OHvDL0483高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX.
2009/12/10(木) 21:19:48ID:rB1bb3hKアリサちゃんを突き放す時でさえ、ヴィータちゃんを殺すとは言えなかった。
彼女は特別だから。
私はみんなを、大切な人達を護りたかったから。
つまり。
「……ヴィータちゃんも殺さなくちゃいけないよ。
贔屓なんてしちゃいけない。殺し合いに乗った人たちはみんな殺さなくちゃ」
彼女を殺すという宣言は、私の理性が大切な人達をも切り捨てた事を意味しています。
大切な親友さえも、他の人達と同列に見ている事を意味しています。
それはどこまでも合理的な判断で。
私は、いい加減に自分がイヤになりました。
私はもう、立ち止まりたかったんです。
歩き続ける自らの体を制止したかったんです。
……ちぐはぐですね。でも、本当にそうでした。
確かにあの幾つもの言葉と聖歌は私を止める事ができませんでした。
けれど私の想いを変えていました。
ただ私の理性が、自らの感情さえも踏み躙って歩き続けるだけで。
どれだけ悲鳴を上げて道を変えたいと思っても、私の理性がそれを許さないだけで。
私が、私であるという事。
言うならば高町なのはという自我。
それそのものが、私自身にとって最大の足かせと化していました。
その悲しさは、リンクくんの問答が引き出した答えで頂点に達して。
遂に思いました。
もう、“私”なんていらない。
0484創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:20:06ID:7jagqsnq0485創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:20:25ID:J05OHvDL0486高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX.
2009/12/10(木) 21:20:47ID:rB1bb3hK高町なのはは、全てのしがらみを捨てる事にしました。
一切の感情を踏み躙って進もうとする理性を。
どんな事があっても折れない不屈の意思を。
歳月を掛けて形成され僅か一日の無数の死で汚染された自我を。
義務感でも使命感でもない妄執じみた想いを。
想いが重過ぎて未来を縛るなら、そんな想いなんていらない。
全てのしがらみを背負った高町なのはを、捨てて。
思い出ですらないただの記憶だけを拾って。
そこにはただの“わたし”が遺りました。
アリサちゃん達に対する友情だけがそこに残っていました。
そして残ったただの“わたし”は、驚くほど素直にリンクくんの言葉を受け容れていました。
「……ヴィータは放送を聞くまで殺し合いをする気はなくなってたよ。
ヴィータが殺し合いに乗る気になったのは……はやてが死んだからだ」
それは最初から有った矛盾です。
アリサちゃんに聞いた時、予測はつきました。
ヴィータちゃんの引き金を引いたのは私です。
ううん、そもそも。
エヴァちゃんとの戦いになったのは私の醜い生き方が原因でした。
ひめちゃん……推定、イヴちゃんはもしかしたら止めることができたかもしれません。
白猫が襲ってきた理由は判りませんけど、私が原因だったのかもしれません。
「そう、そうなんだ。そうなんだよ。
私ははやてちゃんを殺した。だからはやてちゃんの分も、皆を守らないといけない。
そのために私は、たくさん殺すんだ!」
それでも走り続けて勢いがついた足は、思考は動き続けています。
だけど芯を失ったその言葉は最早矛盾に満ち満ちています。
殺して、殺して、たくさん殺して。
私の行為こそ幾つもの死を振り撒いてきたんです。
殺人者を殺そうとしていた私の行為からどれだけの成果が得られたかはわかりません。
私の理性はどうしようもない事故死だった、場面によっては被害を抑えられたと教えていました。
でも、もしかしたらその前提さえもが間違いで。
私が何もしていなかった方が、死ぬ人間の数は少なかったんじゃないか。
事故とかそういう物を抜きにしてすら、全ての判断が根底から間違っていたんじゃないか。
それをずっとずっとずっとずっと考え続けてきて。
何度も何度も厳密な計算だけでそれを否定し続けてきて。
それは残骸でした。
エヴァちゃんの悪と。
アリサちゃんの全てと。
インデックスちゃんの歌が。
高町なのはの想いを変えました。
変えられた想いが高町なのはを打ち砕きました。
0487創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:21:06ID:J05OHvDL0488創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:21:08ID:7jagqsnq0489高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX.
2009/12/10(木) 21:21:45ID:rB1bb3hK最後に残った残骸は。
「殺されたから殺して、殺したから殺されて……
そんなことばかり続けて、このゲームが終わるわけないよ。
殺された人にも、仲間がいる。ゲームに乗った人にも、仲間がいる。
なのはのやっていることは、このゲームに乗る人を増やす行為だ。」
「なんで、そう考えるんだ?
なんでそんなに辛そうにしてるんだ?
なんで何かに耐えるようにしている?
なんで……なにもかも自分ひとりで背負おうとするんだ?」
「一人で悩むから息詰まるんだ!
なのはは独りじゃない。
ここには友達がいる、仲間がいる。僕も君の仲間だ。
仲間で一緒に考えて、悩めば、きっと……いや、絶対答えが見つかる!」
「だけど! 私はたくさん人を殺した!
たくさん人を傷つけた!
そんな私が友達を作っていいはずがない!」
「それを決めるのは君じゃない! その友達だ!
僕は君を仲間だと決めた! 君が何と言おうと君について行く!
アリサもインデックスも、絶対そう言うはずだ!」
リンクくんが、吹き払ってくれました。
これまでに考えなかったわけじゃない。
そうかもしれないって、何度も思っていた答え。
でも自信が無くて信じられなかった答え。
そんなわけないと思ってしまった答え。
それを誰かに認めてもらえた時に。
眠っていた答えは、意味を為して回り始めていました。
(そっか。あの子と同じなんだ)
ひめちゃん。
あの子は殺人の理由を人に依存していたように思えます。
私はその逆に、誤った行為と知りながら殺人を受け容れていてしまって、
だけどそれを否定したくて。
非殺人の理由を、誰かに依存したかったんです。
アリサちゃんが。
インデックスちゃんが。
リンクくんが。
あ、それからアリサちゃんの持ってるルビーさんも。
みんなが、殺人をダメだと言い続けてくれるなら。
当然のように人を殺す事を受け容れてしまったわたしでも、それを否定して前に進める。
そう信じられたんです。
0490高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX.
2009/12/10(木) 21:23:02ID:rB1bb3hK死んでいった人たち、殺した人たちの事を知ろうと。
それが君の償いになるのだと。
自らの目的を全て失っていたわたしは、その目的を素直に受け容れました。
償い。
私が殺した人たちへの償い。
それは高町なのはであるために必要な事なのだと思います。
最初からずっと、人殺しはいけない事だと終始一貫してきて、
それでも人を殺し続けてきてしまった高町なのはなのだから。
わたしは、一つ一つそれを償っていかなければならないのでしょう。
わたしが私として生きる為に。
大量殺人鬼なんかじゃない、理性の狂人でもない。
アリサちゃん達の友達で仲間の高町なのはとして生きる為に。
私はリンクくんの腕の中で泣いて。
ベッドの中でも泣いて。
アリサちゃんの腕に縋って、泣いて。
泣いて。
泣いて。
泣いて。
泣いて。
泣いて。
泣いて。
それでも意識が眠りに就く前に少しだけ。
「ずっと。……ずっと友達だよ、アリサちゃん」
ほんのちょっぴりだけ、私らしく笑えた気がしました。
【A-3/工場仮眠室/2日目/黎明】
【高町なのは@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:睡眠中、魔力消費(大)、両手首に浅い傷、背中に軽度の凍傷(治療済み)
頬骨と肋骨一本にヒビ、泣いたことによる体力消耗
[装備]:なし
[道具]:なし
[服装]:シーツでできた服
[思考]:……。
第一行動方針:これまでに殺した人たちに謝る。
基本行動方針:自らの罪を償う。自身の想いに素直になる。
[備考]
深夜12時の臨時放送を、完全に聞き逃しました。
0491創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:24:05ID:J05OHvDL一度さるさん規制を受けましたが、支援のおかげで回復し投下を続行できました。
沢山の投下支援有難うございます。
0493創る名無しに見る名無し
2009/12/10(木) 21:32:19ID:7jagqsnq考えてみればはやて殺害やフェイト死亡は後押しであって起点じゃなかったんだな。
そこまで遡って改心するとは上手い。
そして振り返って改めて、すごく悲惨な1日だったんだなぁ。
GJ。
0494創る名無しに見る名無し
2009/12/11(金) 00:19:58ID:swjtj/JRすごく壮絶な1日だったなあw
生まれ変わったなのはの動向に期待します
なのはは何だかんだ言って、良い仲間に恵まれてると思う
工場組は汚れのない優しい奴ばっかだな
どっかの性悪とは大違いだw
0495創る名無しに見る名無し
2009/12/11(金) 02:26:28ID:Q65fjEnnなのはの話なのに内面と照らし合わせてリンクとかの株まで上がってるのがまたいいよね。
非殺人の理由を、誰かに依存したかったという言葉が実に良い総括だなと思いました。
0496創る名無しに見る名無し
2009/12/11(金) 16:38:19ID:ob47wbz1なのはの内面に踏み込んだ、うまい話だと思います。
これから今までの悪魔っぷりにどう折り合いをつけるのか楽しみです。
0497創る名無しに見る名無し
2009/12/14(月) 10:59:54ID:c6fL4BeWすげえうれしい! けど反動が来ないかとすげえこわい!
0498創る名無しに見る名無し
2009/12/18(金) 21:24:09ID:Dp3un9pm0499創る名無しに見る名無し
2009/12/18(金) 23:33:01ID:NVUEQci00500創る名無しに見る名無し
2009/12/18(金) 23:33:46ID:jQLELf9Y0501創る名無しに見る名無し
2009/12/25(金) 09:53:55ID:+wv4nIZ/0503創る名無しに見る名無し
2009/12/27(日) 19:04:08ID:JW5Hz8AC0504裸で私はこの世に来た(1/10) ◆enneaLXxK6
2009/12/27(日) 19:05:27ID:uQNEl1Bi吸血鬼らしからぬ眠りの夜を。
とはいえ別に珍しい事でもない。
レミリア・スカーレットは吸血鬼らしからぬ吸血鬼なのだから。
昼間っから花見をしていたら夜になっても花見をしていたなんて事はざらだし、
和食にも馴染んだし(納豆だって食べられます)、人を襲うよりティータイムの方が好きだ。
だから彼女はいつものように、吸血鬼らしくない眠りについている。
ミッドチルダ式インテリジェントデバイス、レイジングハートは閑かな夜を過ごしていた。
デバイスらしい夜を。
デバイスは基本的に寡黙なものだ。
レイジングハートは中でも飛び抜けて雄弁な部類に入るが、それでも人間にすれば無口な方だ。
現所有者、仮のマスターであるレミリアの眠りを妨げることも無く、静かにその眠りを護っていた。
その内に様々な思いを胸に秘めて。
レイジングハートはかつてレミリアの妹、フランドールと想いを交わした。
絆を結び、フランドールの欠落した心を満たし、前に進ませようとした。
その祈りは叶いかけていた。
だけど、叶わなかった。
レイジングハートはヴィクトリアに奪われ、フランドールはヴィクトリアに殺された。
フランドールがレイジングハートとの約束を守り、誰も傷つけない遊びを選び続けた為に。
レイジングハートはヴィクトリアの手に収まった。
相性は最悪だったと言えるだろう。
ヴィクトリアは悪人というわけでもなかったが、危険人物だった。
ジェダをやりこめ、出来ればジェダを倒した上で脱出したい。
その思いはレイジングハートとも共通する処だ。
むしろフランドールの方が危険で悪性と見なされる存在だった。
しかしそれでもフランドールは立ち止まり、別の道を選ぼうとしていた。
ヴィクトリアはそんな彼女に一切頓着せず、手を差し伸べたフランドールを刺し殺した。
奇妙な退行を起こしていた太った少年も、獣と同程度と見て殺そうとした。
その後もヴィクトリアの姿勢は変わらない。
彼女はただただ冷酷だった。
それは必要以上に残虐とか、極悪という意味ではない。
出来ればジェダを倒した上で脱出しようという目的は正しいものだ。
ただしその際に一切の手段を選ぼうとせず、どんな手段を選び実行したとしても一切心を痛めない。
それが彼女、ヴィクトリアという人物だった。
レイジングハートが彼女に反発したのは彼女が悪党だったからではない。
レイジングハートは道徳や倫理観を持ってはいるが、正義の味方というわけではない。
レイジングハートが好きになれなかった。
単にそれだけの事だ。
不屈の心と名づけられたデバイス、レイジングハートはデバイスらしからぬデバイスだった。
インテリジェントデバイスとはいえ言うならば戦闘のための補助人格であるにも関わらず、
まるで人間のように人を好きになり、嫌いになったのだ。
その感情故に採った行為はデバイスとしてあまりにもイレギュラーな選択だった。
半端な情報を与え、その情報により与えられた指示を杓子定規に取った生死に関わる嫌がらせ。
そんなものは本来種として許されない事だ。
場合によってはマスターに代わって判断し行動する事が要求されるユニゾンデバイスならともかく、
インテリジェントデバイスが自らを振るう使用者に悪意を向けるなど理論的に有り得ない。
そもユニゾンデバイスも、マスターの意に沿わぬ暴走を起こしうる事が原因で廃れたのだ。
論理的にも許されない。
それでもレイジングハートはそれを実行しようとし、する事ができた。
軽妙で辛辣な冗句を交わし、ほんの少しは分かり合い、
ヴィクトリアがヴィクトリアである事に理由が有った事を知り、
ヴィクトリアの人格形成にも何らかの事情が有ったことを理解して、
それでも尚、レイジングハートは友達を殺した彼女を許すことができなかったのだ。
人格が破綻していたにせよこの島に居る者達を救える可能性を持っていたのに、それでも。
0505裸で私はこの世に来た(2/10) ◆enneaLXxK6
2009/12/27(日) 19:06:19ID:uQNEl1Biこれはレイジングハートの復讐だった。
レイジングハートは自らの想いのままにヴィクトリアへと殺意を向けた。
そしてその殺意は、達成された。
呼び込んだレミリアの手によって。
レイジングハートとの約束を守ったフランドールはヴィクトリアに殺され。
レイジングハートが殺意を向けたヴィクトリアは結果として殺された。
レイジングハートはこの島において、自らの選択により二人の少女を死に追いやった。
本来、レイジングハートがレミリアを制止するなど筋違いなのだ。
レイジングハートにそんな権利はない。
二つの罪の十字架を背負ったレイジングハートには。
ただ、悲しかった。
レミリア・スカーレットがヴィクトリアを殺し自分を奪い去った事は、
ヴィクトリアがフランドール・スカーレットから自分を奪い彼女を殺した事と似ている。
レミリアが殺人を重ねる事が、フランドールの選択を否定する事に思えるのだ。
だから悔いてもいた。
フランドールはレイジングハートと共に非殺の道を歩み始めていたのに、
レイジングハートはフランの姉であるレミリアに人を殺させてしまった。
故に許せなかった。
レミリア・スカーレットの殺人を許容する事などありえなかった。
もちろん全てがレイジングハートの仕業ではない。
レミリアはヴィクトリアと遭遇する以前から危険な存在と化していた。
ヴィクトリア殺害においてレイジングハートが果たした影響は大きくないのかもしれない。
だがレイジングハートが自らの意思でヴィクトリアを危機に追いやった事と、
それが一因となってヴィクトリアがレミリアに殺された事は紛れも無い事実だ。
レイジングハートはヴィクトリア殺害に手を貸した。
レイジングハートは共犯者なのだ。
しかしレイジングハートが忠実にレミリアの周囲を警戒し続けているのはそれが理由でもなかった。
レミリアがフランドールの姉だからでも、彼女が殺される事を否定したいからでもなかった。
ただ単に、デバイスだからだ。
レイジングハートはデバイスとして使用者の意思を叶え続けている。
デバイスらしからぬデバイスの、デバイスらしい静かな夜を過ごし続ける。
やがて、レミリアが目を覚ました。
クシュンと愛らしい咳をして。
両足でベッドから立ち上がり、小さく身を震わせる。
ベタベタと蜜が体に絡んでいたものの、裸で寝転がっていたのだ。
人間なら体を壊すくらい当然の暴挙である。
確かめるように両手を握り、開いて感覚を確かめる。
0506創る名無しに見る名無し
2009/12/27(日) 19:06:48ID:JW5Hz8AC0507裸で私はこの世に来た(3/10) ◆enneaLXxK6
2009/12/27(日) 19:07:24ID:uQNEl1Bi特に魔力は十二分に回復している事を感じ取れる。
驚くべき事でもないだろう。
月夜の夜族は、この島において最高峰の再生力を誇っている。
何より魔力に限ればレイジングハートの主も一晩の睡眠で猛烈な回復をしてみせる。
「少し、しびれるわね」
それでもぽつりと呟き、レミリアは自らの不調を認識する。
一度は斬り飛ばされたのだ。
いくら吸血鬼の肉体、すぐ繋げた、満月の光を浴びた、ゆっくり休んだとはいえ、
体が完全に調子を取り戻すまでは遠い。
ゆっくりとベタつく足で歩み、シャワールームへと進んでいく。
レイジングハートは何かを言おうとして、やめた。
自分を置いて行ってそれっきりになってしまったフランドールを思い出して、
だけど同時に、口を出さない方が良いと思ったのだ。
果たしてレミリアはレイジングハートを気にせずにシャワーを浴びはじめた。
彼女にとってレイジングハートは恥じらう理由も無い程度の相手なのだろう。
いやまあ、それ以前に妹より無頓着なのかもしれないが。
服も着ないままに眠り込んでしまった程だし、
レイジングハートは知る由も無いが、魔力切れとはいえレックスとも裸で戦っている。
レミリアは妹が隠した裸を堂々と曝け出し、温かなシャワーを身に浴びた。
シャワーが温まりきるまでの僅かな時間だけ流れ水に硬直して、すぐにくたりと弛緩する。
穏やかな吐息が漏れた。
レイジングハートが見たその肌は決して綺麗な物とはいえなかった。
かつて受けたメガンテの傷は長い夜を掛けて再生し僅かな火傷跡が残るだけだったが、
新たに受けた両腕と右足の傷は無残な赤い線となって走っているし、
腹部に残る刺し傷の周囲の皮膚は無残にも攀じれている。
にもかかわらずその肢体は美しかった。
昼光色の明かりに煌めくルビーの瞳が柔らかな瞼に閉じられる。
熱いシャワーがべたつく蜜を溶かし、髪から蕩けて首筋を伝いうなじを経て、
鎖骨の窪みに池を作るもすぐに溢れて、肋の浮いた薄い胸をとろりと流れ落ちていく。
ふっくらとしたお腹を伝い小さなおへそに溜りこみ、直接当てられたシャワーがそれを弾き出す。
無毛の丘を流れ柔らかでけれどほっそりとした脚を伝い風呂場の床に流れ落ちて、
温かな湯のままに排水口へと消えていく。
てらてらと明かりを照り返す蜜に濡れた肌は、それ自体の艶と合わさって真珠のように輝いていた。
例えその肌に無数の傷跡が刻まれていてもその美しさは陰らない。
いや、むしろ醜と美を併せ持つ故に美しいのだろう。
無数の傷跡は彼女が戦う者である事を主張する。
傷ついても立ち上がり武器を振るう脚と腕である事を宣言する。
傷さえもが強さの証であると。
それだけでは、背伸びをする子供のようにささやかな物だったけれど。
ばさりと黒い羽が水滴を撥ねた。
コウモリ型の黒く艶やかな羽は、獣の爪の様な鋭さと手指のような繊細さを併せている。
か弱く見える幼い肢体と獰猛で悪魔的な黒翼のミスマッチは、
アンビバレンツで危うい衝撃を見るものに押し付ける。
魔的な力も有るとはいえ自重を支えるほどに強靭なそれをシャワーが叩く。
ざわざわと外に響く雨音に似た、けれど温かな音が羽を洗う。
吸血鬼はくすぐったそうに体を震わせて穏やかな湯浴みを甘受する。
やがて羽に絡んだ蜜も溶け落ちて。
「うー」
小さな唸りと共にふるりと体を震わせ、ピンと伸ばした羽は刃のように鋭く広がった。
ふるふると羽が震える。
しぱしぱと目を瞬かせる。
そのまましばらく動きを止める。
……どうやら、ちょっと目を開けて水が入ったらしい。
0508裸で私はこの世に来た(4/10) ◆enneaLXxK6
2009/12/27(日) 19:08:28ID:uQNEl1Biレミリアは息を吐くと、レイジングハートに命じた。
「警戒を強めておきなさい」
『Yes』
その一言で、ピリピリと緊張感が張り詰めはじめた。
レイジングハートはこれからレミリアがしようとしている事を予測し、理解していた。
その行為を助ける為には、周囲への警戒を最大限に高めなければならない。
何故なら今から始まる行為は、レミリアを完全な無防備な状態に陥れてしまうからだ。
この隙を突かれたならば例えレミリアであっても命取りになる。
レミリアはすぅと息を吸い、はぁと息を吐いた。
そしてどこかしら緊張した面持ちで、そっと、それの上に左手を載せた。
ゆっくりと圧力を掛けると、ポンプの力で細いパイプがねっとりとした粘液を吸い上げる。
吐き出された粘液を右手の手のひらで受け止める。
白く、光を照り返し淡やかな虹色に輝く何処かしら泉のように掌の上で揺らぐ。
手と手をすり合わせ軽くかき混ぜると粘液は見る間に泡立った。
レミリアはきゅっと固く、きつく目を閉じると。
泡立てた粘液を自らの頭の上に載せて、髪と掻き混ぜはじめた。
細やかな髪で粘液は更に泡立ち、白い泡が淡い色の髪を包んでいく。
しゃかしゃかと泡立てられた泡が髪に絡みついた蜜と埃を溶かし落としていく。
つまり、シャンプーで髪を洗い始めた。
しかしただ髪を洗うだけと侮ってはならない。
子供にはよくある事だが、もしも。
もし仮にだ。
髪を洗うこの泡が目に入ったらどうなるだろうか。
ただの湯でも数秒唸るほどだったのに、泡が目に入ったら。
しばらくとはいえ痛みに目を塞がれて、シャワーで洗い流しても湯がもうしばらく視界を塞ぐ。
痛みに慌てふためけば周囲の様子も知覚出来ない。
元よりシャワーは音を消し匂いを消し風を消し、空気が伝達する情報を遮ってしまう物なのだ。
加えてこの状況は裸である。
五感を封じられ守りも無い所を突かれれば、如何にレミリアといえど為す術もない。
そう、レミリアにとって目に泡が入る事態は睡眠時以上の無防備に曝される事を意味している。
更にシャワー自体も危険に満ちている。
きゅっと蛇口を捻ってお湯を水に変えられたなら、それだけでレミリアの体は縛られる。
冷たいシャワーは流れ水だからだめなのだ。
故にこそレミリアはレイジングハートに厳重警戒を命じて、満を持し髪を洗い始めたのである。
このような所にもレミリアの得た経験が垣間見えると言えるだろう。
レミリアの得た、力が。
レミリアはこの島で様々なものを得て、様々なものを失った。
その中でも最たる力は紛れも無く、慢心の大半を捨てた事だ。
レミリアの最大の弱点は吸血鬼の体質などではなく、その無謀と慢心である。
彼女の傲慢なまでの自信と誇りは紛れも無く確かな力に拠るものであり、
精神に比重が掛かる吸血鬼にとって、プライドと力の間には因果関係すら存在していたが、
それでもレミリアは自身の自信を制御しきれず、あちこちで隙を晒していた。
レミリアはそれを徐々に克服しつつあった。
レミリアは自分がどの程度の存在か理解した上で、今でも自らの最強を語る。
しかしそれはこの島に来るまでの物とは違い、強さと弱さを理解した上での宣言である。
ジェダに囚われた自らの弱さを。
妹に敵わず、妹を守れず、妹の為に挑まねばならない生死の法則が自らを凌駕する力である弱さを。
この島に来て無様にのたうち回った弱さを。
己の力の限界と吸血鬼としての弱点を全て理解した上で、最強を自称する。
それを行った時点で、レミリア・スカーレットは以前と比較にならない程の成長を始めていた。
自らの弱さを理解するという事は、自らの負ける理由を封じる事である。
まだ完全ではないが、レミリアは敗北の理由を克服しつつあった。
自身の力と相まって防御ごと敵を断ち切る聖剣ラグナロク〈神々の運命〉も、
バリアジャケットとシールドの防御力を与えるレイジングハート〈不屈の心〉も、
この飛躍に比すれば誤差に過ぎない。
これはレミリアにとってそれほどの飛躍だったのだ。
つまりこの場面について言うならば、シャンプーハットが欲しい。
あれは良い物だ。
0509裸で私はこの世に来た(5/10) ◆enneaLXxK6
2009/12/27(日) 19:09:16ID:uQNEl1Bi* * *
一切油断の無い緊迫した警戒体制と精神集中の結果、レミリアは何事も無く入浴を終えた。
進化したレミリアの前にシャンプーハットなんて物は必要無かったのである。
有った方がより安全だった事は違いないが。
ともあれ。
レミリアは五百年を生きながら幼い肢体を晒して、堂々と部屋で着衣を捜していた。
「まったく、咲夜が居れば着替くらいさっと用意してくれるのに」
この島にはいない、普段自らに仕える完璧なメイドの名を愚痴る。
普段レミリアの屋敷のほぼ全ての雑務は、彼女が拾った有能なメイドに行われているのだ。
レイジングハートはその発言を聞いて、もしかするとそれが原因なのだろうかと物思った。
フランドールには危険だからと召使いを近づける事すらあまりせず、
レミリアは召使い達にあれこれ自分の面倒を見させていた分、羞恥心が薄いのかもしれない。
当人に聞いても答えの返りそうにない憶測だった。
幸い、概ね丈の合う適当な下着と衣服は見つかった。
城では本来置いてある多くが強力な呪具だったせいか服一枚捜すに苦労したものだが、
この家から服を没収する程の理由は無かったのだろう。
赤い十字マークが描かれたシャツを頭から被り、もがもがと首を出す。
同時に開けておいた穴から黒い羽を出して背伸びをするみたいにピンと伸ばす。
それから白いショーツに脚を通して、ゆっくりと引き上げる。
少々困惑した様子で体を捻り、下着を摘んだ。
手を離すとゴムの弾力で緩やかに優しく腰を掴む。
フィット具合は良好だが。
『どうしました?』
「なんだか頼りない感じね」
レミリアが元居た土地ではふわふわと膨らむドロワーズが主流である。
こういった簡素なショーツは流行していない。
「まあいいわ。これは……ズボン、なのかしらね?」
首を傾げながら次の下衣を摘まみ上げる。
女物の服と一緒のタンスに入っていたのだから女性用には違いないが、
ズボンのような、しかし半ズボンよりも短い見慣れないボトムである。
いわゆるホットパンツと呼ばれるものだ。
好みを気にしなければスカートも見つからないではなかったが。
「面白そうだし、動きやすそうね」
実用性にちょっとした遊び心を交えて、脚を通す。
ほっそりとしなやかな脚が太股から露出した。
膝下までの黒いニーソックスを穿いても、膝から上は曝け出している。
しかしこうして明かりの元に現わにされたのを見ても、
幼い肉付きのぷにぷにとしたその脚が如何なる獣よりも強靭な脚力を秘めている事など
右足に穿たれた傷跡──彼女が戦う者である事から推察を重ねなければ分からないだろう。
未熟な脚線美を見せながら、レミリアは上着を掴みとる。
赤いその外衣には何故か見覚えが有るように思えた。
しばらく考え込んでからふと、思い出した様子で呟いた。
「ああ、思い出した。そういえば家の門番もこういう奴に任せてたんだ」
レミリアには縁も縁も無いし、この島に居る全体を見回しても主人の義妹程度の関係しか無い、
なんちゃって八極拳の使い手、有間都古のチャイナ服であった。
服だけで中の人が見当たらないのは、たまたま外出中だったとかそんな理由だろう。
しかしレミリアはその服を纏うことなくじっと見つめて考える。
レイジングハートは問いかけて。
『どうしました?』
「……うん。決めた」
レミリアは応えた。
0510創る名無しに見る名無し
2009/12/27(日) 19:10:01ID:JW5Hz8AC0511裸で私はこの世に来た(6/10) ◆enneaLXxK6
2009/12/27(日) 19:11:53ID:uQNEl1Bi「バリアジャケットって、二種類位ならデザイン作れるわね? 薄いの」
『Yes』
別のデザインを用意するという事は別の用途に準備するという事だ。
高町なのははより重装甲のセイクリッドモードを構築したし、
フェイト・テスタロッサは正しく軽装高機動のソニックフォームを構築した。
『ただし、軽装にすると機動力が上がり魔力消費も低下する反面、防御面が大幅に低下します』
「当然ね」
高速かつ小回りの効く、消耗の少ない戦い方ができるという事だ。
レミリアはレイジングハートの高町なのはではなく、その親友フェイトが使うバルディッシュに採用されたフォーム。
フェイトがソニックフォームと命名した、高機動戦闘用の軽装ジャケットと同じ発想をしていた。
『ですが重装甲大火力が私に積み重ねられた特性です。お勧めはできません』
「別に良いよ。私は元々おまえで遊ぶつもりなんて無いもの。おまえを使うだけ」
『…………』
「判っているんだろう? 私におまえの魔法は合わない。フランにもね」
『……………………それは』
レイジングハートに歯茎が有ったならば歯噛みしていただろう。
レイジングハートに拳が有ったなら固く握り締めていただろう。
レミリアは残酷なまでに明確な結論を告げていた。
高町なのはの戦闘スタイルを継承しても、スカーレット姉妹が強くなる事は無い。
「おまえとおまえのマスターの連携が優れているほど、噛み合わない時のおまえは邪魔になる」
レミリアは容赦なくそれを指摘した。
「役立たずなのよ、おまえは」
レイジングハートを責め立てた。
微かな負の感情すら滲ませて。
デバイスは例えるなら優れた拳銃のようなものだ。
弾丸〈魔力〉を秘めた者にとっては効果的な武器となるだろう。
使い手が早撃ちの達人であれば申し分ない。
だが、もしも。
使い手が鉄壁をも射抜く程に非現実的な、弓の達人であったならば?
もちろん弓の達人もそれなりに拳銃を使いこなす。
弓の達人には遠くの標的を見て、撃ち抜くセンスが有るのだから。
しかし優れた銃器は用途の中でも更に分野を絞り込む。
拳銃なら? 狙撃銃なら? 散弾銃なら? 短機関銃なら? 突撃銃なら?
物陰から静かに相手を射抜く達人は騒音を響かせる突撃銃を使いこなせるだろうか。
近接戦闘ですら的確な速射を行う弓の達人は入念な一射を放つ狙撃銃を使いこなせるだろうか。
量産品のただの弓と比べてどちらが射手の力となるだろうか。
増してや高町なのはがレイジングハートに積み立てた戦術は決して汎用的な戦術では無い。
高町なのはの特異性に併せて組み立てた、高町なのはによる高町なのはの為だけの戦術なのだ。
それを使いこなす為には、使い手とデバイスの人格的相性以上の物を必要とする。
もちろんインテリジェントデバイスの力を最大限引き出す為には息を合わせる必要も有るが、
互いに好感を抱くだけではまだ足りない。
むしろレイジングハートの敵意さえ受けていたヴィクトリアですらフランドール以上に使いこなしていた。
元来自らの魔法を持たないヴィクトリアは『人格面以外においては』極めて適性が良かったのだ。
何より。
高町なのはの戦術を会得したところで高町なのはを超えられない。
言ってしまえば単純な話だ。
高町なのはの戦術を踏襲しても、高町なのは以上に強くなる事は有り得ない。
高町なのはの強さに近づくだけだ。
前使用者の適性を超えられるわけが無い。
デバイスを武器として考えるなら元の魔法に“使われてはいけない”のだ。
0512裸で私はこの世に来た(7/10) ◆enneaLXxK6
2009/12/27(日) 19:12:53ID:uQNEl1Biヴィクトリア相手に止まらず、旅館では幾人もの強者達を圧倒したレミリアの力を。
あれは、この島におけるフランドール・スカーレットを超えるものではなかったか?
逆に言えばそれは。
この島におけるフランドールはレミリアほどの強さを誇っていただろうか?
それがレイジングハートに“使われた”結果だというならば、レミリアの言葉は明白だった。
一人格としてのレイジングハートはフランドールの友人足りえたかもしれない。
だがデバイスとしてのレイジングハートはフランドールの力になりえなかった。
「だから私はおまえを使う。そういう事」
レミリアは断言した。
それはレイジングハートに収録されている魔法を使わないという事ではない。
自らの戦術に役に立つ物だけ、役に立つ形で使うという宣言だった。
レイジングハートは静かに明滅して。
それから、尋ねた。
『フランドールの力になれるのはどのような魔法でしたか』
「………………」
レミリアは沈黙し。
黙り込み。
しばらくしてから。
「何も」
短く答えた。
レミリアは思い出す。
圧倒的でありながら、幻想的な奇怪さまでも兼ね備えた妹の力を。
威力も、密度も、レミリアの使えるどんな攻撃手段よりも上だった。
中には加減を間違った、スペルカードルールから外れる物として使用を禁止された物すら有る。
レミリアのそれを模倣した物さえも反射などの性質を得て強大化していた。
フランドールが自分にもっとも有利な戦い方をしようとするならば、
それは破滅的な攻撃で相手の反撃さえも呑み込み押し流す絶望の津波か、
あるいは嵐にすらならない必殺必中の破壊となる。
レミリアが勝るのは、同じ吸血鬼の身体能力ながら遥かに多い運動経験から来る高度な肉弾戦。
そして、ある程度の因果を見通し運命を操る程度の能力。
それをもってしても、レミリアにはフランドールを閉じ込めておく事しか出来なかった。
フランドールが本気で全てを破壊すれば容易く出てこれたであろう、地下の部屋に。
「あの破壊を超えるものなんて無いわ。遊びの弾幕さえ出鱈目な形で完成されていた。
更に強大化する事が有ってもそれは他の者に真似できないあの子だけの方向よ」
レミリアが、小さく歯噛みした。
レミリアが、静かに拳を握り締めた。
レミリアは、言った。
「あの子はどんな“力”も必要としなかった」
レイジングハートは、静かに明滅した。
レイジングハートは、呟いた。
『そうですか』
その言葉に。
二人分の一言にどれほどの想いが篭められていたのか。
それは二人以外に知る由もない事だ。
ただこの瞬間だけ、彼女たちの脳裏には一人の少女が共有されていた。
レミリアとレイジングハートは、お互いを嫌悪しながらも一人の少女を想った。
亡き妹、亡き友人の姿を。
しばらく、間が有った。
少しだけ。
ふぅと小さな吐息が静寂に染まる空気を揺らして。
0513創る名無しに見る名無し
2009/12/27(日) 19:14:03ID:JW5Hz8AC0514裸で私はこの世に来た(8/10) ◆enneaLXxK6
2009/12/27(日) 19:14:11ID:uQNEl1Bi『What?』
あまりに唐突な話題転換にレイジングハートの戸惑いが漏れた。
レミリアは明確に言い直す。
「バリアジャケットのデザインをし直すわ。私が戦う為にね。
前は魔法使いってイメージで作ったけど、動きやすい方がいいもの」
『戦いを止めるつもりはありませんか?』
「無いわ」
答えは簡潔。
今更自分から立ち止まることなんてありえない。
「私は自らの最強を証明する」
最強を証明する。
それはどこまでも純粋で、痛切な、祈りにも似た目的だ。
自ら口に出して認めようとはしないが、レミリアの言葉の端々には、
純粋な強さにおいて妹のフランドールに劣っていたと意識している様子が見て取れる。
ならば最強の証明とは妹を超えること。厳密に定義するならば、
フランドールのありとあらゆるものを破壊する程度の能力すら凌駕できる力が有るのだと、
レミリア自身が認められるようになる事こそ達成目標になる。
それはつまり、妹を恐れる必要など無かったのだと確かめる事にも繋がる。
地下に495年間閉じ込め続ける必要など、無かったのだと。
だがレミリアは何も言わない。
それが全てではなくとも理由の一端に有るという言ですら、口に出そうとはしない。
レイジングハートと言葉を交わしながらも、一番奥の部分を決して開きはせず、
敵意に満ちた信頼とも言うべき複雑な衝動だけを浴びせ続ける。
「これは私の戦いだよ。
私は私が動きやすい鎧を着て、私の使い方で爪と杖を振るうんだ。
わかったな?」
『……Yes』
その意思によりレミリアは新たなバリアジャケットを構築した。
全身に纏われた衣服が再び弾ける。
衣服に隠れていた透けるように白い肌は、湯上りでほんのりと桃色に染まっている。
輝く光に包まれながら、レミリアはすぅと息を吸って。
くぅと息を吐いた。
瞬間、光が無数の糸となって幼い裸体に絡みつく。
ぷっくりとしたお腹から殆ど膨らみの無い胸部を伝い腋の下を肩をうなじを覆っていく。
腹部から下へ伝い下と横から腰を周り全体を掴みこむ。
それはもちろんバリアジャケットだ。
だが、纏われる衣服は先程身に付けていたものと変わらない。
シャツと、ショーツと、ホットパンツと、ニーソックスが装着される。
ただしそこでも止まらない。
見につけようとして、まだ纏っていなかったチャイナ服が再現される。
深紅のチャイナ服が上半身に纏われた。
加えて足首から下をローファーが包み込む。
輝く羽が、生える。
フライヤーフィン。
最初の頃、レミリアが使う必要を感じていなかった飛行用の魔法翼。
それがローファーと、背中。彼女自身の足首と翼の付け根から芽生えた。
機動力強化型バリアジャケット。
『Sonic Form Replica』
レミリアの求めに応じて、レイジングハートはそのフォームを生成した。
フェイト・テスタロッサが使ったソニックフォームを極簡易的に模倣したのだ。
0515裸で私はこの世に来た(9/10) ◆enneaLXxK6
2009/12/27(日) 19:15:54ID:uQNEl1Biレミリアがフィンを扱う時は、自らの動きの加速された形を想像すれば良い。
ローファーから生えたフィンは地上を蹴るように空を蹴る為の物。
背の翼の付け根から介添の様に生えたフィンは突撃の速度を加速する為の物。
レイジングハートは内心で複雑な感情を抱きながらも、
レミリアの求め通り、デバイスとして忠実にバリアジャケットを編み上げた。
しかし実を言えば、事前の注意通りこのバリアジャケットの性能は高くない。
模倣したといってもレイジングハートによる見様見真似でしかなく、
軽装高機動は本来のマスター高町なのはの戦術からも外れた、苦手分野であるからだ。
そも模倣先のソニックフォーム自体未完成で実戦投入されたフォームである。
このバリアジャケットは総合性能で言えば通常のバリアジャケットよりも劣っていた。
しかしレミリアは小さく笑い、レイジングハートの命名に付け足した。
「スカーレットよ。そう名付けなさい」
『All right. Scarlet Mode』
スカーレットモード。
それがレミリア・スカーレットの為のバリアジャケットの名前だった。
本来のバリアジャケットの力を〈1〉とするならば、このジャケットは〈0.5〉程度だろう。
だが、掛け算ではなく足し算だ。
新たな強さを作る物ではなく、レミリアの力をほんの少し強める物だ。
既に完成された戦闘スタイルを持つレミリアの邪魔をしない為に作られたモードだ。
このバリアジャケットは間違いなくレミリアを支えていた。
レミリアは一時的にフィンを仕舞った。
使わない時まで魔法を維持しておく理由は無いからだ。
レイジングハートも待機状態で首から下げられている。
この状態のデバイスでも、防御など簡単な魔法だけなら発動及び維持する事ができる。
もちろんデバイス自体を展開しているに越した事は無いが、
肉弾戦を好むレミリアの戦闘スタイルでは、常にデバイスを展開する必要は無かった。
レミリアはおめかしをした子供のようにくるりとターンして自らの姿を鑑みる。
深紅のチャイナ服はスカーレットというには少し落ち着いた色調だ。
袖は手首までの長袖で、裾は腰の少し下辺りまでを覆い、レミリアの体を入念に守っている。
もちろん背中の羽を邪魔したりはせず、背中には羽を通す為の穴が開いていた。
羽の間には僅かな地肌の露出までしているが、
バリアジャケットにおいて露出に直接の意味は無い。
実際にはフィールドのような物が全体を覆っているからだ。
よって、剥き出しの太ももからニーソックスまで幾分広めの絶対領域が露出している事も問題ない。
幼くもどこか引き締まった、か細くも力強い脚が床を踏みしめた。
「上々ね。動きやすいし、力の消費も少ないし、服も気に入ったわ」
『その分、防御効果は落ちます。ご注意ください』
「わかってるよ」
新しい服に上機嫌になりながらも痺れの残る左腕でランドセルを掴み上げる。
そしてやはり若干力の萎えた右腕で、そこから聖剣を引き抜いた。
神々の運命という銘を冠された聖剣、ラグナロク。
この島でレミリアが手にした武器の中でも、彼女のスタイルと最も合致した武器だと言えるだろう。
剣を握り締めると、まるで握り返すように剣が力を返してくる。
レミリアの戦闘準備はそれだけで整った。
その表情が引き締まり。
レイジングハートは、機械であるボディにぞくりとした寒気を錯覚した。
繰り返すが、それこそがレミリアがこの島で得た力の本質なのだ。
フランドールを失い、吸血鬼も死ぬ戦場で幾度も無様な失敗と生存を繰り返した結果、
少しずつ油断と慢心を捨てつつある事こそがレミリア最大の飛躍なのだ。
油断と慢心や、度の過ぎる遊び心こそがレミリアの弱点の大体殆どである。
伝説級の聖剣や吸血鬼としての弱点すら、精神的な弱点に比べれば単なる誤差に過ぎない。
それを削り落とすという事のどれだけ偉大なる事か。
つまり精神的な弱点がその位にとてつもなく巨大だったとゆー意味でもあるが。
0516創る名無しに見る名無し
2009/12/27(日) 19:16:09ID:JW5Hz8AC0517創る名無しに見る名無し
2009/12/27(日) 19:20:28ID:G/mDVIw70518創る名無しに見る名無し
2009/12/27(日) 19:21:40ID:G/mDVIw70519創る名無しに見る名無し
2009/12/27(日) 19:22:51ID:G/mDVIw70520裸で私はこの世に来た(10/10) ◆enneaLXxK6
2009/12/27(日) 19:23:11ID:uQNEl1Biレミリアは鼻息荒くずしずしと、それでも警戒を怠らない矛盾を内包した歩みで家の玄関まで歩み出た。
いつの間にか、雨音は止んでいた。
レミリアは自信満々で扉を蹴り開けて。
「………………」
そっと閉めた。
『……どうしましたか?』
「もう少ししてからにするわ。十分か三十分くらい」
この家の前の道路は若干傾斜していた。
止んだばかりの土砂降りは、地面に大量の水を残していた。
その大量の水は当然ながら道の端の排水口を勢い良く流れているわけで。
雨が止んでも流れきるにはしばらく時間がかかったりするのであって。
水たまりならどれだけあっても全然OKなのだけれど。
「別にバリアジャケットが有るから大丈夫だけど、今の私に油断は無いんだ」
『………………?』
「だから少ししてからと言ったのよ。判った?」
困惑したような明滅が返る。
吸血鬼は流れ水を渡れない。
自らの弱点を理解し克服しようとしているのだからこれも強さの内である。
バリアジャケットで大丈夫なら気にする必要は無いと思ってはいけない。
長年染み付いた習慣は中々抜けないものなのだ。
……だから恐いという意味ではないんだって。
決して。
『しかし日の出までの時間はあまり有りませんが』
「日中になったら、その内に相手の方からやってくるんじゃないか?」
レイジングハートはまた少し困惑する。
どういう意味なのか?
『あなたは多くの敵を作りました。集団で包囲される危険もあります』
「望むところよ。纏めて掛かってくれば一回で済むし、私の最強を証明するには良い舞台だ」
『………………』
レイジングハートはしばらく思考回路を回転させ、結論に至った。
レミリアの望みが最強を証明する事だというならば、相手が強くなるのは望むところなのだ。
それを叩き潰してこそ最強を名乗れる。
そしてふと、気づいた。
『レミリア』
「なに?」
レイジングハートは僅かな戦慄さえ覚えながら、尋ねた。
“派手に戦いながら殺害数がさほど多くない様子なのは、それが目的で加減していたのか”と。
その問に、レミリアは沈黙した。
言葉の無い、答え。
沈黙の中でレイジングハートは確信する。
ある種の場面において、沈黙は肯定を意味する。
レミリアが自ら話そうとしないのはつまりそういう──
「そ、その通りよっ」
『………………』
少し遅れて、無茶苦茶焦った声で答えが返った。
それはもう、小学校で先生に難しい問題を当てられた生徒が自棄になって適当答えたら
たまたまそれが正解で先生とクラスメイトからの感嘆の視線に色々耐え切れ無くなったみたいな感じで。
「全ての運命は私の手の内に有るのよ。何もかもね」
『………………』
ついでに「え、この位出来て当然でしょ」とか「前からこのくらいは楽勝さ」な感じのおまけが付いた。
まああれだ。
多分、そう。
結果オーライって事なのだろう。
0521創る名無しに見る名無し
2009/12/27(日) 19:24:15ID:G/mDVIw70522創る名無しに見る名無し
2009/12/27(日) 19:25:00ID:G/mDVIw70523裸で私はこの世に来た ◆enneaLXxK6
2009/12/27(日) 19:26:51ID:uQNEl1Bi【レミリア・スカーレット@東方Project】
[状態]:腹部に小さな刺し傷、左腕痺れ、右腕握力低下、右足痺れ有り。
[装備]:ラグナロク@FINAL FANTASY4
レイジングハート・エクセリオン(待機フォルム)@魔法少女リリカルなのは(カートリッジ残数4発)
[服装]:バリアジャケット(赤いチャイナ服、ニーソックス、ローファー。太ももは露出)
[思考]:出撃はちょっとだけしてから。もうちょっとだけ。
第一行動方針:基本的に出会った奴は全て叩きのめす。
第二行動方針:日中は自分から行くより敵を呼び込んで待ち受けたい。ただし気分と状況による。
基本行動方針:島の全て(含むジェダ)を叩きのめし最強を証明する。
[備考]:レイジングハートは、ヴィクトリアの持ち物や情報をほとんど把握していません。
(特に、アイテムリストの存在を知らないため、自分をどうやって使ったのかが大きな謎になっています)
ヴィクトリアは死亡したと思っています。レミリアに対しては嫌悪や罪悪感諸々が入り交じっているようです。
グラーフアイゼンはレミリアに対して複雑な感情を持っています。レミリアはアイゼンを無くしました。
【スカーレットモード】
フェイト・テスタロッサのソニックフォームを簡易的に模倣したジャケットのモード。
要するに防御力を落とし、魔力消費も抑えめで機動性を少し上げたモードである。
模倣したといってもレイジングハートによる見様見真似の急づくりであり、
普段のレイジングハートの戦術からは外れる為、本来のソニックフォームとは比べるべくもない。
模倣先のソニックフォーム自体未完成で実戦投入されたフォームであるため、
総合力で言えば通常のバリアジャケットよりも大きく劣る。
既に完成された戦闘スタイルを持つレミリアの邪魔をしない為のモードである。
0524創る名無しに見る名無し
2009/12/27(日) 19:27:30ID:G/mDVIw70526創る名無しに見る名無し
2009/12/27(日) 19:58:58ID:JW5Hz8ACレミリアが慢心を捨てての大躍進、期待大だね
シャワーは確か藤木がシャワーしたんじゃなかったっけ
0527創る名無しに見る名無し
2009/12/27(日) 20:57:02ID:VP28rUTVレミリアはまた強くなったな、他の参加者涙目w
そして藤木以来の(?)シャワーシーンですね^^
ごちそうさまでした
これからのレミリアの動向が気になる
北東街には人がたくさんいるからなあ
ヴィータ達も来てるんだっけ?
0528創る名無しに見る名無し
2009/12/27(日) 22:18:41ID:2OiEASpNなんだかんだで雨のうちは全く動きのなかったレミリアw
今回の話で、レイジングハートの問いかけに肯定しちゃったし、
必要に迫られない限りは叩きのめして相手が強くなるのを促す形になっちゃうなぁw
なんかエヴァと似たスタンス? そういえばエヴァも吸血鬼かw
北東にはヴィータ達とシャナが来る予定だよな。
あとシャワー、タバサがやってたよw
0529創る名無しに見る名無し
2009/12/29(火) 14:22:58ID:ceUhxmRv生き残りの中でトップクラスの実力持つマーダーだし、レミリアの今後が楽しみだな
0530創る名無しに見る名無し
2010/01/06(水) 18:43:16ID:tzI0huju0531創る名無しに見る名無し
2010/01/12(火) 12:43:59ID:SceDURVN0532創る名無しに見る名無し
2010/01/17(日) 22:02:56ID:Oww3z6/D0533創る名無しに見る名無し
2010/01/21(木) 22:46:41ID:SbmwUZph0534創る名無しに見る名無し
2010/01/26(火) 22:09:41ID:XKs0qlD+0535創る名無しに見る名無し
2010/01/29(金) 15:46:48ID:icftB/y70536創る名無しに見る名無し
2010/02/04(木) 21:18:00ID:D6p6OO970537創る名無しに見る名無し
2010/02/04(木) 22:37:04ID:YR/bS6Fg最近出てきた書き手さんだ!
ありがとう!
0538創る名無しに見る名無し
2010/02/05(金) 18:17:42ID:ScV/aVt3ギスギスしそうなパートだw
0540彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas
2010/02/06(土) 19:29:22ID:xdu0gmtaシャナに似た声の、ヴィクトリアという少女の声が、困惑の名を告げた。
それは正に困惑の名だ。
ヴィクトリアは死んだはずだった。レミリア・スカーレットに殺された。
太刀川ミミは死んだはずだった。ヴィクトリアと同じ場所で死んでいた。
トリエラの名と電話番号を知るのはヴィクトリア以外に考えられなかった。
だからトリエラは当然の疑問を抱く。
「どういう事?」
何から聞けば良いか判らないほど無数の疑問を一言に集約して問いかける。
「私の情報が確かなら、その声も名前も、死んでいるはずなんだけど」
この言葉には逆に向こうの方から若干の動揺が伝わってきた。
その答えを予期していなかったらしい。
トリエラはその事に少しだけ安堵する。
まだ、手玉に取られてはいない。
『何処からそんな情報を手に入れたのかしら?』
「こっちの質問が先よ。得体の知れない相手に情報は売れないわ」
トリエラは幾つかの可能性を考える。
例えば一度は捨てた、シャナという少女がこの街に居る可能性。
だがやはり幾つか不自然な解釈が必要になる。違和感が残る。
『あなたがどんな理由で私を死人だと考えたのか判らなければ、誤解の解きようが無いでしょう?』
「死体を見たモノが居る、と言えばどう?」
『そんな筈は…………っ』
自称太刀川ミミは少し考えて言葉に詰まる。
何か心当たりが有るのか。
少し逡巡する気配の後で、返答があった。
『いえ、そういう事。あなた、デバイスを手に入れたのね』
「………………」
正解だ。
トリエラはレミリアがQ-Beeとの死闘で落としたグラーフアイゼンを入手し、
それによりレミリアのこれまでの行動を主とする膨大な情報を手に入れた。
そこに辿りつけるという事は、アイゼンからもたらされた情報が間違いの無い物であるという事だ。
ヴィクトリアは殺され、太刀川ミミも死んでいた。
アイゼンが視たこの目撃情報は真実なのだ。
にも関わらず、アイゼンがそれを視た事を知っている誰かが居る。
アイゼンがそれを目撃した時その場に居たのはレミリアと二つのデバイスと、死者達だけなのに。
この受話器の向こうには誰が居る?
『二つ、聞かせて。そこにレミリア・スカーレットが居るの?』
「いいえ。今のところ、彼女は暴虐の化身以外の何者でも無いわ」
『そう。それじゃあなたはどちらのデバイスを手に入れたの? 鉄槌か、それとも……』
トリエラは話を断ち切る。
「そこまで話す義理はまだ無い。そうでしょ?」
受話器の向こうに居るのはレミリアではない。
レミリアがヴィクトリアから奪ったというレイジングハートを持つわけでもない。
残るのはそこに転がっていた二人の死者だけ。
ならば答えは必然だ。
「あなたがその声と名前のどちらかである事は認めるわ。信じがたい事だけれど」
死者が電話の向こうに立っている。
有り得ない事実がそこに在る。
0541創る名無しに見る名無し
2010/02/06(土) 19:29:51ID:xrir2BIp0542彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas
2010/02/06(土) 19:30:45ID:xdu0gmtaデバイス、それも出来ればミッドチルダ式の物がいいわ。
もしもレイジングハートか、バルディッシュを所有していたなら譲って欲しいの』
「無茶な条件ね。それがどれだけ大きな価値を持つか判っているはずよ。
仮に私がそれを持っていたとしても首を縦に振ると思う?」
話しながらも、トリエラは概ねの予測を付けた。
電話の相手は恐らく、声の通りヴィクトリアだ。
何故太刀川ミミを名乗っているのか、どうして生きているのかは判らない。
グラーフアイゼンから伝え聞いた情報によるなら到底生きていたとは思えないのに。
その辺りの謎を抱えながらも、ひとまずは理解する。
ヴィクトリアは生き残り、太刀川ミミを名乗り、トリエラに電話を掛けてきている。
どういうわけか、デバイスを求めて。
『私がデバイスを持ってあなたに協力するという条件ならどう?』
「その選択は、デバイスが私の手に有るより貴方の手に有った方が遥かに有用だ、
というのが前提条件になるわね」
『その通りよ。これはあなたにとってもこれ以上無い程に有益な選択肢よ』
「戦力になるというなら問題外よ。何かを隠してる相手に武器を与えるなんて危険すぎる」
『ええ、だから良い事を教えてあげるわ』
電話の向こうの“太刀川ミミ”は言った。
『この声も名前も、朝の放送でその名を呼ばれるでしょうってね』
トリエラは息を呑む。
それは、どういう事なのか。
それは、電話の相手が死んでいるという事なのか。
本物の死者と話しているという事なのか。
その答えは。
『ジェーン・ドゥなのよ、私は』
淡々と静かで、意味深で、凄烈なものだった。
ジェーン・ドゥ。
それは身元不明人を指す言葉だ。
死んだはずの“太刀川ミミ”たるヴィクトリアは自らを身元不明人だと主張したのだ。
放送でその名を呼ばれたならば、それは現実となる。
死んだはずの、もういないはずの誰か。
ジェダでさえその存在を把握できない身元不明人。
『私を繋ぐ鎖はもう無いわ』
「まさか……!!」
トリエラは喘ぐ。
まさか、つまり、それは、もしかして。
激しく動揺するトリエラに、“太刀川ミミ”は応えた。
『私はデバイスを使う事で、あなたにも嵌っているソレから逃れる事に成功したのよ』
参加者の命を捉える首輪から逃れたのだと。
受話器越しに、希望が宣告された。
0543創る名無しに見る名無し
2010/02/06(土) 19:32:47ID:xrir2BIp0544彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas
2010/02/06(土) 19:38:34ID:xdu0gmta「そんなの……信じられない」
甘い答えへの疑惑がついて出る。
アイゼンやバルディッシュとは十分に情報を交換した。
少なくとも彼らが認識している範囲では、首輪を解除できる魔法など存在しないはずなのだ。
一体どうやって首輪を外したのか。
『応用的な使い方が必要になるのよ。
私は無数の手がかりを揃えて、そこまで辿り着いたわ。
一応は成功したけど、まだ不安な部分も諸所に有るから補填する為の物を探しているのよ。
まず最低限デバイスが必要になるわ。
それから各地にご褒美で支給された追加支給品の情報も欲しい。
そしてなにより、戦力と、研究を手伝える者と、この島を探索する為の人員。
これらを揃えられたなら、希望が見えてくるわ』
トリエラは、思い悩んだ。
“太刀川ミミ”の提案は確かに興味深い。
少なくとも彼女は、広く浅い情報を手にしたトリエラとは対極的な情報を入手しているらしい。
追加支給品の内訳など、トリエラでは何を意味するのか判らない情報も求めている。
何より首輪を解除したというのが本当ならその価値は絶大だ。
“太刀川ミミ”の出した条件も価値に見合ったものだといえる。
タバサを説得し、所持しているバルディッシュを貸し与えるのも選択肢の一つかもしれない。
「問題は信用よ」
だけどトリエラは、彼女を信用できないでいた。
受話器の向こうに居るのは死んだハズの何者かだ。
まず一に得体が知れない。
二つ目に仲間として信用できるかが判らない。
“太刀川ミミ”……いや、ヴィクトリアは情報提供者として有力な相手だ。
これまで彼女から提供された情報も決定的な嘘が有ったわけではない、はずだ。
彼女の正体について以外は。
「正体を隠している……隠せる相手を信じるのは危険な事じゃないかしら?」
『ええ、そうね。でもあなたなら分かっているんでしょう? 私の事情くらい』
「………………」
確かに彼女が素性を隠す必要性も明白では有ったけれど。
彼女は首輪を外したのだ。
ジェダに気取られぬ為には、存在を少しでも偽装するべきだろう。
その上、彼女はレミリア・スカーレットを敵に回していた。
すぐそこを彷徨いているかもしれない、恐らく最大の脅威をだ。
レミリアは無差別に襲いかかるようだから素性を隠しても完璧ではないが、
他の獲物と並んだ時に後回しにされうるだけでも価値は有る。
「そういえばあなた、顔もその名前の物になってるの?」
『ええ、そうよ』
隠し続ける危険を理解しているからだろう、あっさりと答える。
しかし隠さずともそれは脅威に違いない。
もし敵対すれば情報戦において不利に立たされうる。
トリエラの顔で悪事を重ねられればそれだけで大事になる。
そこまで考えて、思わず苦笑いを零した。
(私の分の心配は意味無いか)
わざわざ悪評をばらまかれるまでもなく、トリエラは三人も殺している。
むしろトリエラに変装しようものならご愁傷様と言わざるを得ない。
ただ、彼女がやはりシャナであり姿を変えていた可能性も首をもたげてきた。
重ねて言うに違和感は残るのだ、その可能性は低いと考えはしたが、完全に否定も出来ないでいた。
トリエラは彼女を信じきれない。
信用出来る材料が少ない。
0545彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas
2010/02/06(土) 19:39:42ID:xdu0gmta『それにしても信用ね。どうすればあなたに信用してもらえるのかしら?
こんな島で信用できる相手ってどんな子かしら?
何をしたとしても、私を信じる事なんて出来るのかしら?
参考までに聞いてみたいわね』
“太刀川ミミ”の方から、挑発的な響きすら含んだ言葉が来た。
トリエラは答えようとして、言葉につまる。
確かにこの島で誰かを信用するというのは並大抵の苦労ではない。
トリエラもは明確な答えを出せる自信がなかった。
トリエラは優れた知性を持っている。
判断力もある。
公社の義体達の中では纏め役になれるぐらい社会性も高い。
濃密ではあれ実質上数年分の人生経験しか無いにも関わらず、それを感じさせない程に。
それでもある種の経験が、少し足りない。
繋がりの薄い相手と絆を結ぶにはどうすれば良い?
背中を預けあえる相手を作るには?
人と人と想いを通わせるには?
銃を手に肩を並べるのではなく、互いの手を握り合うには?
……できるはずだ。
けれど言葉に惑う。
人間的な行為が出来ると、そう断言する事に自信が持てない。
『分かりきった事じゃない』
受話器の向こうから聞こえてくるのはどこかしら愉悦の混じった言葉だ。
なにがという問いに、“太刀川ミミ”は楽しげに答えた。
『あなたも私も、利害の一致でしか動けない人種だろうって事よ』
まるで嘲りのように響く聲が。
違う、と否定する。
トリエラは自分がそこまで冷血になれるとは思えないし、なろうとも思わない。
それを“太刀川ミミ”は追い立てる。
『あなたが“そうしかなれない”のか“それしか知らない”のかは判らないわ。
でも私は、あなたが利害関係で動く人間だと思ってる。
少なくとも無垢な子供なんかじゃない。そうでしょう?』
「それは……」
『隠さなくても良いじゃない。私はそれを見込んで、あなたに頼み込んでいるんだから』
トリエラは確かに自分を無垢だなんて思えない。
だけど利害で動くというにも違和感を覚えた。
そもそもトリエラに利害なんて言葉は程遠い。
公社で義体として戦うのは当然の事だったし、そこには利とか害なんて計算は有り得ない。
ならば情で戦ってきたと言えるのだろうか?
この島に来る前まで遡っても?
言えるはずだ。
例えば担当官のヒルシャー……兄妹〈フラテッロ〉という呼び名の通り家族のような彼の為なら
自ら身を危険に晒しすらするだろう。
例えそれが。
(何処までが本当の想いで何処からが条件付け〈ツクリモノ〉なのか判らない感情でも)
『自分達の都合で子供すら人でなしにする人間の醜さを知っているのなら尚更ね』
「────!!」
思考が灼熱した。
ヴィクトリアの言葉に怒りが吹き上がり、そして。
それだけだった。
あからさまな怒りをぶつけながらも、トリエラはそれを抑え込む。
息を整えて、静かに、言った。
「黙って」
0546彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas
2010/02/06(土) 19:40:52ID:xdu0gmta『少し踏み込みすぎたわね。謝るわ』
あっさりと謝りながらも、電話の声には悪びれない余裕が有る。
どれだけ嫌悪しようとも自分を無視する事は出来無いという余裕が。
もしも首輪を解除する事が出来るなら、その切り札はあまりにも圧倒的だ。
無視なんて出来るわけがない。
『でも一つだけ、正直に話しておくわ。
私はあなたの冷静さを信じながらも、あなたの判断力を疑っているのよ』
「私が感情に任せてあなたとの交渉を打ち切るって事?」
『あなたは基本的に冷静なようだから、それは無いと信じているわ。
今も貴重な存在からの電話を切ったりはしなかったでしょう?
私が疑うのは、あなたが誤断と誤解で周囲を巻き添えにしないかって事よ』
“太刀川ミミ”の指摘は明け透けなまでに痛烈だった。
『声が似ていたそうだけれど、私を別の誰かと思い込んで迷走する。
金糸雀についても何か錯綜が有ったみたいね?
他にも少なくとも一件、誤殺じみた事が有ったと聞いているわ』
「ぐ…………っ」
言い返しようが無い。
状況のせいも有ったとはいえ、トリエラは錯綜の果てに人を殺してきた。
あろう事かその全てがほぼ過ちであったと判明している。
『信用できるかと聞くけれど、あなたの方こそ信頼に値するのかしら?
私には疑わしく思える程よ』
誰がトリエラを信じられるのだろう。
誤った標的ばかり捉えてきた銃口を。
『それとね。実を言えば、私の方からなら少しは信用させる要素が有るのよ』
「…………それは、何?」
思わず聞き返した。
会話の主導権を掴まれていた。
『ひまわりを保護しているわ』
「っ!!」
息を呑んだ。
リルルに保護されて逃亡した筈の赤ん坊が、どうしてそこに?
「待って。それじゃリルルもそこにいるの?」
小さな、溜息が聞こえた。
嫌な予感が膨れ上がり、
『生憎ね。彼女は、壊されていたわ』
身構える暇も無くはじけた。
また、死んだ。
また、殺された。
ほんの数時間前まで一緒に居た仲間が、何者かに殺されていた。
『人間で例えるなら体内を無数の蛇が食い荒らした様な、無茶苦茶な有様だったわ。
生前の彼女の願いに従ってICチップを取り出したから、ますます見せられる物じゃないわね』
“太刀川ミミ”から。
ヴィクトリアから仲間の死を知らされるのは、二度目だった。
残酷な言葉は更なる有益な情報を残していく。
『詳しい話を知りたいなら、リルルからひまわりを託されたあの子に聞けば良いわ。
ククリやリルルからはあなたの名を良い人と聞き、自らの目ではあなたの姿が人を殺す所を目撃して、
あなたが善人なのか悪人なのか混乱してしまっている可哀想なイエローにね』
「っ!!」
0547彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas
2010/02/06(土) 19:42:13ID:xdu0gmtaイエローはそれを見取って、ひまわりを託された。
明らかな致命傷を生き延びたヴィクトリアこと“太刀川ミミ”はその二人を保護した。
そして受話器の向こうに立っている。
全てを疑うのは容易いけれど。
『さあどうするのかしら、トリエラ。
苦労してあなたを信じようとしている私を信じてくれないの?』
悪辣で、辛辣な言葉でも、間違った事は言っていないように思えた。
「……あなたの言葉、ひとまずは信じるわ」
トリエラは肯定を返した。
一つだけ、付け加えて。
* * *
まずは互いの同行者について、互いに与えすぎないよう警戒しながら情報を交換した。
“太刀川ミミ”にとって太刀川ミミを知るタバサがトリエラと同行しているのは難事だったが、
起きている太刀川ミミを見たのはほんの数十秒に過ぎない。
直接会っても疑惑が確信に至る事は無いだろうと判断し、逆に取引を持ちかけた。
『私が生きていた者として会えば、改心したその子にとって救いになるでしょうね』
トリエラはこれを黙殺する。
弱気な演技を取り払った“太刀川ミミ”ことヴィクトリアは何処かしら不安を抱かせた。
不安定な状態にあるタバサの心を逆に傷つけないか心配したのだ。
トリエラか、せいぜい小太郎を連れる程度の密会で済ませられないかと思案する。
『だけどタバサはミッドチルダ式のデバイスを所持しているんでしょう?
私に合わせずどう説得するつもりかしら』
「グラーフアイゼンではできないの?」
『その分の差で失敗しても良いならね』
「タバサから武器を取り上げればその分の差で殺される危険が有るわね。似た様な物よ」
『へえ、そう』
“太刀川ミミ”は一旦引き下がる。
そして次の情報を要求してきた。
『ご褒美で支給された追加支給品について、情報は有るかしら』
「その前にどうしてそれを捜すのか教えて欲しいわね」
『ご褒美が急遽追加されたイレギュラーだからよ。追加支給品もその可能性が有るわ』
トリエラは与えて良い情報だと判断する。
少し情報を整理すると、幾つか心当たりの有る情報が有った。
「既に死亡した、イリヤスフィールへの追加支給品なら情報が有るわ」
『っ!! ……聞かせてもらえるかしら?』
大して期待もしていなかったのか、トリエラが想像した以上の驚きが返ってくる。
トリエラは答える。
「浄玻璃の鏡と爆弾岩。もう一つ有ったかもしれないけどそれは不明ね」
『効果は?』
「鏡は、三回まで制限の掛けられた、鏡に映った者のこの島に来てからの経緯が映し出される物よ。
言わは強力な自爆に特化した、擬似生命体のようなものらしいわ。既に消費されたみたい。
言われてみればどちらも強力で、イレギュラーな物に思えてくるかな」
『……ええ、そうね。残った鏡の方の見た目を教えてくれる?』
「手鏡状ね。形は……」
心当たりが有るのか、“太刀川ミミ”はふむふむと頷きながら聞いていた。
「私の方からも聞いていい? あなたどうやって生き残ったの?」
『気になるかしら?』
「まあね。グラーフアイゼンが見たあなたの状態はとても生き残れる物だとは思えない」
0548彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas
2010/02/06(土) 19:44:54ID:xdu0gmtaそうとしか言えないわ。
人間ではない耐久力を持っている事は事実よ』
そう言い切られてしまっては踏み込みようが無い。
どうしてそんな肉体を持っているかなど意味の無い問い掛けだ。
トリエラが、己の素性を語っても仕方がないように。
「……まあいいわ。それじゃもう一つ」
『何かしら?』
トリエラは少し息を整えてから、切り込んだ。
「あなたと同じ場所で首を爆破されていた死体は、あなたの解除法による物じゃないの?」
フッと小さく息を吐く音がして。
それからすぐに。
『ええ、そうよ。残念ながら失敗したけれどね』
あっさりと返事があった。
「あんた……っ」
『仕方が無いでしょう? 殆ど手探りの危うい研究なんだから失敗はつきものよ。
それに彼女は自分が何の役にも立てず振り回されている事に苦悩していたわ。
何せ夕方の放送時点で仲間がみんな死んでいたんだから、哀れね。
だから危険度が高い事を知りながらまだ不完全な解除実験に自ら志願して、死んだのよ。
そのデータを積み重ねたおかげで私は成功した。
彼女の名を讃えてあげて、トリエラ。
“太刀川ミミ”という名をね』
「利用、したんじゃないの?」
『否定はしないわ。彼女の貴い犠牲のおかげで私は成功した。
この時点で何を言おうと、利用したとしか取れないでしょうね』
彼女の言葉が真実かは判らない。
やはりそれ以上の追求は出来なかった。
トリエラは胡散臭いと感じて、それだけだ。
ククリとリルル、それに太刀川ミミ、彼女の口から語られる死者はあまりに多い。
だけどククリとリルルはただの偶然や、物陰から情報を集めている結果と見る事もできる。
どちらにせよ、彼女はトリエラの知る限りこの世界からの脱出に最も近い人物だった。
『次は私からよ。
戦力と、研究を手伝える者と、この島を探索する為の人員。
これらを集められるアテは無いかしら?』
トリエラはまた少し思案し、結論を出す。
その有力な札が有る事自体は教えて、取引を有利に進めた方が良い。
「……情報なら、有るわ。
私達の元にはまだ生存している参加者の情報が、八割方集まっている」
『八割っ!?』
やはりこれは想像以上だったらしい。
受話器越しに本気で驚いた様子が伝わってくる。
「でもその情報を全て教えるほどお人好しにはなれないし、
仲間に相談もせずあなたにそこまでする気にはなれないわ」
『待って。魔法に詳しい者の数だけでも教えてくれないかしら』
「そうね……十人かそれに足りない位だと思うわ。その内の二〜三人かは危険人物だけど」
『実質七人前後……二割程度、ね』
思案の気配が有る。
トリエラは攻め込んだ。
「解除法についてもう少し情報を公開してくれるなら、
こちらからも情報を公開して良いんだけど」
『………………』
トリエラは初めてこちらから有利な条件を提示出来た感触を得る。
“太刀川ミミ”はしかし、事実上の拒否を返してきた。
『保留しておくわ。
詳細を教えてあなた達が尻尾を掴まれたら、こっちまで危ないもの』
0549創る名無しに見る名無し
2010/02/06(土) 19:45:03ID:xrir2BIp0550彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas
2010/02/06(土) 19:46:52ID:xdu0gmtaだが当然の慎重さでもあった。
トリエラも“太刀川ミミ”も、切り札までは切らずに様子をみている。
相手がどの程度の信用と信頼に値するかどうかを見定めようとしている。
“太刀川ミミ”は脱出に近づいているけれど、だからこそ危ういのだ。
彼女自身も、彼女を取り巻く環境も、一つ間違えば全てが失われる。
悪辣な少女はそれでも、希望の中心に立っていた。
『それにこの内容は電話で……口頭で話すにも不安が有るのよ。
デバイスも試したいし、会って話したい所ね。
イエローとひまわりにも会うんでしょう?
こっちはあなたから電話が有って会うことにした、と言っておくわ』
「場所は?」
『三丁目のパン屋の前。時刻は?』
タバサに隠した密談の形を取る以上、団体行動を始める朝では不味い。
トリエラは即行動を選んだ。
「雨の内なら吸血鬼も動かないそうよ。今すぐ会いましょう」
了承が返り、それで通話は終わった。
トリエラは通話を終えた携帯電話をポケットに仕舞い込む。
胸元に下がるアイゼンを確認し、銃を確認し、それから服装を鑑みる。
外には冷たい雨が降り続けている。
アイゼンの騎士甲冑で防寒防水をと考えたが、それでは帰りが不味い。
“太刀川ミミ”にアイゼンを渡した場合──流石に軽く渡すつもりは無いが、
相応の見返りが有っても渡した場合に、帰りが困る。
家のどこかで傘か雨合羽でも見繕う必要があるだろう。
それから言った。
「ま、そういうわけね。留守番を頼むわよ、小太郎」
いつの間にか、犬上小太郎が洗面所の入り口に立っていた。
「いつから聞いてた?」
「ひとまずは信じるとか言った辺りからやな」
つまり具体的な情報交換を初めた辺りだ。
ほんの少しだが、勝手にタバサと小太郎の事を話していた事について怒っている様子は無い。
少なくともその程度の信頼は有る。
「電話の相手、何者なんや? “太刀川ミミ”って言ってた気もするけど、それって」
「ええ、死んだはずの人間よ。ただしその正体は、ヴィクトリアね」
小太郎がぴくりと眉をしかめる。
彼が見たヴィクトリアは旅館で共にレミリアと戦い、
ククリの死体が転がる場所で金糸雀を殺し(後で金糸雀がククリを殺したようだと判明する)、
追いかけるが見失い、グラーフアイゼン曰くレミリアに殺害されたと聞いた人物である。
「どういう事や? あいつが生きとったっていうんか?」
「信じ難いけど、そうみたいね。しかもこいつを外したそうよ」
そう言うとトリエラは首をコツコツ叩いてみせた。
音が硬質なのは、そこに首輪が有るからだ。
ルールに違反した参加者を爆殺するための、ジェダに付けられた首輪が。
驚く小太郎に言う。
「タバサにはまだ内緒よ。
太刀川ミミ、だけど中身は別物だなんて彼女には会わせたくないもの」
「だから一人で会いに行くっていうんか?」
「今のところそのつもりよ。
私は向こうの連れに会うべきだと思うし、ひまわりの安否も心配だし、
小太郎が残ってくれるならタバサについても安心だしね。
ほんとは小太郎にも睡眠を取って、気だの魔力だのを回復して欲しいくらい」
0551彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas
2010/02/06(土) 19:49:21ID:xdu0gmta小太郎は吉永双葉を治療する為に多量の存在の力、彼の場合は気を消耗した。
時間の経過により徐々に回復しているし、全快とまで行かずとも睡眠は大きな助けになる。
タバサの方の魔力回復は尚更睡眠が重要だ。
十分な睡眠を取れば全快まで回復するというし、精神的疲労を考えても起こすべきではない。
それに気が格闘の補助的な小太郎と違って、タバサは魔法が決定打で白兵戦が補助らしい。
タバサの魔力の重要性は考えるまでもなかった。
とはいえ小太郎がトリエラの単独行動を心配するのも当然の事だ。
トリエラは眠った所で意味が薄いだけで、決して怪我や消耗が無いわけではない。
むしろトリエラは常人なら死んでもおかしくないほど無数の傷を負っているのだ。
義体の頑強さで動き続けてはいたが、三人の中で誰よりも深い傷と消耗を受けていた。
「ほんまに信じられるんか、そいつ?」
「一応、これまでの話に決定的な嘘は見えないわね。それも彼女自身に対する物を除けばだけど」
「明確な嘘は、あんまりなかったかもしれへんけど」
小太郎には不安と不満がある。
彼はヴィクトリアに大して良い印象がまるで無い。
金糸雀殺害は金糸雀がククリを殺したからだというが、イメージとしては最悪のままだ。
あと理屈では言えないがなんとなく、胡散臭いのだ。
「ただの勘違いやろうけど、俺はネギの仇討ちをしようとしてたわけやないで?」
小太郎はネギの仇を捜していた。
ヴィクトリアはそれを、ネギの仇討ちをするつもりだと証言している。
とはいえこの島で仇を捜す聞いたら普通は仇討ちを連想する、むしろ当然の補完だ。
ヴィクトリアは、少なくとも分かる範囲では決定的な嘘を吐いていない。
「明確な嘘は無くても誇張やバレていない嘘が無い証明にはならない、でしょう?
言われなくとも判ってるわよ、そのくらい」
明確に嘘と分かる嘘は今回の偽名が最初だ。だけど、
「私が初めて聞いたあいつの言葉、言ったっけ?
蜂蜜みたいに甘い声で、『あ、あなた……誰、ですか? 何でここに来たんですか?』よ」
ヴィクトリアは自分を偽れる人物だ。
もしも彼女が殺人鬼だったとしても驚きはしない。
「イエローの方とも話さなきゃいけないし、信用出来なければひまわりを引き取らなきゃいけない。
ほんと厄介な仕事よ。
タバサが万全ならあなたも連れて行きたいわね」
「朝まで待ってみんなで会えば良いやないか」
「言ったでしょ。“太刀川ミミ”にはタバサを会わせたくないの」
トリエラは緊張した面持ちで、寝る前に解いていた髪を留め始めた。
気を引き締めるようにツーテールに纏めていく。
「安心して、油断するつもりは無いから。
多分あいつの方も、そんな薄い関係なんて望んでいない。
嘘も真実も本気で来るわ」
そこには、脱出の希望に会いに行くなんて安心感は欠片も無かった。
0552創る名無しに見る名無し
2010/02/06(土) 19:49:22ID:xrir2BIp0553創る名無しに見る名無し
2010/02/06(土) 20:18:38ID:7uFfW7sb0554創る名無しに見る名無し
2010/02/06(土) 20:29:15ID:npVSMCGB0555創る名無しに見る名無し
2010/02/06(土) 20:58:06ID:FNx/ih4M* * *
“太刀川ミミ”ことヴィクトリアは通話を終えて、一息を吐いた。
確かな満足感が付いてくる。
(上出来ね)
トリエラとの通話は、彼女に多大な成果を与えてくれた。
ヴィクトリアの目的は大雑把に分けて二つ有った。
一つは言うまでもなくトリエラから情報を得る事だ。
彼女がデバイスを入手したらしい事は幸運だった。
性格は大変一致しなかったものの少しは使い慣れてきたレイジングハートが無いのは残念だが、
レミリアが所持していた筈のグラーフアイゼンに加えて、
レイジングハートと同じミッドチルダ式のバルディッシュまで有るとは嬉しい誤算だ。
(念話はその世界では基本的な魔法らしいし、多分ベルカ式でも何とかなるだろうけど、
どうにかならなかった時にミッドチルダ式を試せうるのは僥倖ね。
それにグラーフアイゼンから得られる情報も有益かもしれないわ)
グラーフアイゼンはレミリアが使っていたデバイスだ。
ならばアイゼンの中にはレミリアの情報も詰まっているだろう。
ヴィクトリアにとって目下最大の脅威の一つであるレミリアへの対策を練れるかもしれない。
そう容易く渡してくれるとは思えないが、取引材料は幾つも有った。
例えば、トリエラの集団にデバイスが複数有るのならデバイス用のカートリッジも有用なはずだ。
更に追加支給品に関する情報も衝撃的だった。
爆弾岩も少し気になるが、既に爆発してしまったという事で無視する。
それよりも、浄玻璃の鏡とやらだ。
あれは、イエローの荷物の中の鏡に違いない。
もしもその使用回数がまだ残っているならば。
もしもその効果に対する対策が完璧ではないならば。
浄玻璃の鏡にQ-Beeを映してみればどうなるだろう?
(Q-Beeがご褒美を支給しに島を飛び回っているのだって開始時に決められたイレギュラー。
それならば恐らく、映る筈よ)
Q-Beeがこの島に来てからの情報を映し出せるなら、
何処から来て何処に戻っているのかまでは判明するだろう。
即ちジェダの居城への道筋が出来る。
Q-Beeとジェダとの会話からそれ以上の情報が露呈する可能性も高い。
正に切り札と言っても差し支えない代物だ。
(しかもイリヤスフィールの追加支給品とはね。
数奇にも程があるわ、一体どういう因果なのやら)
ホムンクルスという情報から、参加者名簿の中で個人的に興味を抱いていた少女。
夕方の放送で死が告げられてから、もう関係する事は無いだろうと思っていた。
そのイリヤスフィールの遺物が、今になって重要な価値を持ち始めている。
運命というものを感じずにはいられなかった。
0558彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas
2010/02/06(土) 21:58:23ID:xdu0gmta問題は、首輪の無い“太刀川ミミ”ことヴィクトリアがQ-Beeと逢う危険だが、
これはイエローに使わせるなり手が有る。
出来れば見た内容をしっかり記憶出来る者に使わせたい所だった。
加えて二つ目の目的。
それはトリエラを仲間に引き込む事だ。
問題こそ多いが、ヴィクトリアはトリエラの存在を買っていた。
危険人物と見れば即座に撃ち殺す冷酷さと、足手まといを抱え込む善人さは有益だ。
突きつけた通り判断力には不安が有るのだが。
(そこまで贅沢は言えないわ)
子供が多いこの島で冷たい判断が出来るだけでも御の字だ。
加えて、極々断片的ながら参加者名簿の表記を思い出した事も一因となった。
そこには公社の義体だとか、条件付けと呼ばれる洗脳がどうこう書かれていた気がする。
彼女も誰かに体を弄られ利用された身なのかもしれないと思うと、少しだけ親近感が湧いた。
……その親近感が傷の舐め合いに過ぎない事は判っていたけれど、それでも。
(ま、こっちは振られたみたいね)
カマを掛けてみた反応は思った以上だった。
しかしその後に彼女がヴィクトリアを信じると言った時、トリエラは付け加えたのだ。
『一つだけ訂正しておくわ。私は自分の境遇を不幸だなんて感じなかった』
銃を握り人を撃ち続ける行く末の短い生き方を定められても、小さな幸せがあった。
私はあなたとは違うのだ。
それがトリエラの返答だった。
(別に良いわ。それとこれとは別だもの)
一抹の寂しさを覚えた事こそ逆に驚きだった。
どちらにせよヴィクトリアがトリエラを有益な人物だと見た事に変わりはない。
彼女は「汚い事を許容出来る仲間」になりうる。
だから反応を見るために若干露悪的に接しさえしたのだ。
イエローに汚れ仕事は求められないし、ただの善人にも無理だろう。
だけど綺麗事だけでジェダの手から逃れる事など出来はしない。
誰か汚れ仕事を担う者が必要だった。
汚れ仕事をヴィクトリアだけが担うには無理が有るし、何より危険は避けたかった。
身も蓋もなく言えば、危険な事は誰か他の者に押し付けたいのだ。
ヴィクトリアが仲間を集める最終目的はあくまで自分のためだ。
その線を引いた上でなら仲間と恩恵を共にするし、助けもするだろう。
でもその線から出る事は決して無い。
恥も迷いもなくその線を守り続ける。
その違いはきっと、トリエラが得られてヴィクトリアが得られなかった物が生み出した。
故にヴィクトリアは仲間を利用する。
それが本当の仲間等ではないと判っていても、自分のため以外の目的なんて有りえない。
ヴィクトリアは所詮、人を食い物にして生きるモノなのだから。
(さて、まずはイエローよ)
トリエラを仲間にしようと思うなら、イエローの疑念を解いてやらねばならない。
トリエラには貸しを作る事にもなる。
逆にトリエラからヴィクトリアの事を暴露される心配はさほど無い。
イエローがヴィクトリアにとって用無しになる事は彼女にとっても望ましくない筈だからだ。
ヴィクトリアとしても本音建前共に、そんな事を望んではいなかった。
ヴィクトリアは窓から遠目に覗く事が出来る三丁目のパン屋に目をやってから、
イエローとひまわりが眠る部屋に戻って、告げた。
「起きて、イエロー。トリエラを名乗る人物から電話が有ったわ」
0559彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas
2010/02/06(土) 21:59:31ID:xdu0gmta【トリエラ@GUNSLINGER GIRL】
[状態]:頭部殴打に伴う頭痛。胴体に重度の打撲傷複数、全身に軽度の火傷、かなりの疲労。
右肩に激しい抉り傷(骨格の一部が覗き、腕が高く上がらない)。
[装備]:拳銃(SIG P230)@GUNSLINGER GIRL(残弾数8/8)
ベンズナイフ(中期型)@HUNTER×HUNTER、トマ手作りのナイフホルダー、防弾チョッキ
[道具]:基本支給品(パン1個、水少量消費)、ネギの首輪、血塗れの拡声器、北東市街の詳細な地図
US M1918 “BAR”@BLACK LAGOON(残弾数0/20)、9mmブローニング弾×23
インデックスの0円ケータイ@とある魔術の禁書目録、コチョコチョ手袋(片方)@ドラえもん
グラーフアイゼン(ハンマーフォルム)@魔法少女リリカルなのはA's(ダメージ有り、カートリッジ0)
回復アイテムセット@FF4(乙女のキッス×1、金の針×1、うちでの小槌×1、十字架×1、ダイエットフード×1、山彦草×1)
[服装]:普段通りの男装+防弾チョッキ
[思考]:最大限に警戒しつつ、確かめに行く。
第一行動方針:“太刀川ミミ(ヴィクトリア)”と接触、交渉する。
第二行動方針:朝になったら作戦(※)に従い、シャナを捜索する。タバサに携帯電話の説明も。
第三行動方針:トマとその仲間たちに微かな期待。トマと再会できた場合、首輪と人形の腕を検分してもらう
基本行動方針:好戦的な参加者は積極的に倒しつつ、最後まで生き延びる(具体的な脱出の策があれば乗る?)
[備考]:携帯電話には、『温泉宿』の他に島内の主要施設の番号がある程度登録されているようです。
トリエラが警察署地下で見た武器の詳細は不明。
※トリエラの作戦
まずシェルターまで全員で行動し、洞窟にも寄りつつシェルターに向かう。
シェルター到着後に解散し、小太郎とタバサは城へ、トリエラは廃墟へ行く。
それ以降は小太郎達は定期的にトリエラの携帯電話に連絡をする。
【犬上小太郎@魔法先生ネギま!】
[状態]:やや疲労、気が少々、背中と左足に怪我(瞬動術は使えないがそれなりに動ける)
[装備]:手裏剣セット×7枚@忍たま乱太郎
[道具]:基本支給品×4(一人分の水、パン1個消費)、工具セット、包帯、指輪型魔法発動体@新SWリプレイNEXT
さくらの杖@カードキャプターさくら、目覚まし時計@せんせいのお時間、生乾きの服
レミリアの日傘@東方Project、真紅の腕、金糸雀の腕、戦輪×5@忍たま乱太郎
[思考]:トリエラが心配。
第一行動方針:休息しながら、眠るタバサと家で待機?
第二行動方針:朝になったらトリエラの案に従い行動する。
第三行動方針:レックスと再会した後、シャナ一行あるいは梨花一行との合流を図る
第四行動方針:双葉に頼まれた梨々、小狼に頼まれた桜を探す。見つけたら保護する。
基本行動方針:信頼できる仲間を増やし、ゲーム脱出(必ずしも行動を共にする必要はない)。
[備考]:紫穂に疑いを抱いていますが確信はしていません。
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