東条英機の遺言


 開戦の時のことを思い起こすと実に断腸の思いがある。
今回の処刑は個人的には慰められるところがあるけれども、
国内的の自分の責任は、死をもって償えるものではない。
しかし国際的な犯罪としては、どこまでも無罪を主張する。
力の前に屈した。自分としては、国内的な責任を負うて、
満足して刑場に行く。ただ同僚に責任を及ぼしたこと、
下級者にまで刑の及びたることは、実に残念である。

 天皇陛下および国民に対しては、深くおわびする。元来、
日本の軍隊は、陛下の仁慈の御志により行動すべきものであ
ったが、一部あやまちを生じ、世界の誤解を受けたるは遺憾
である。日本の軍に従事し、倒れた人および遺家族に対して
は、実に相済まぬと思っている。
 
 今回の判決の是非に関しては、もとより歴史の批判に待つ、
もしこれが永久の平和のためということであったら、もう少し
大きな態度で事に臨まなければならぬのではないか。この裁判
は、結局は政治裁判に終わった。勝者の裁判たる性質を脱却せ
ね。
 
 天皇陛下の御地位および陛下の御存在は、動かすべからざる
ものである。天皇陛下の形式については、あえて言わぬ。存在
そのものが必要なのである。それにつきかれこれ言葉をさしは
さむ者があるが、これらは空気や地面のありがたさを知らねと
同様のものである。