2021.1.24 07:00


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暴走し歩行者をはねたタクシーを調べる警察官。運転手はくも膜下出血で意識を失ったとみられる=4日午後、東京都渋谷区(宮崎瑞穂撮影、一部画像処理をしています)


 タクシーなどの職業運転手の体調が運転中に急変し、事故を起こすケースが後を絶たない。今年に入っても東京都渋谷区で、くも膜下出血を起こしたとみられる70代の男性運転手のタクシーが暴走し6人が死傷した。運転手の高齢化が進む中、事業者の責任は増しており、国はハード・ソフト両面で対策を急いでいる。(吉沢智美)

意識もうろうと

 渋谷区笹塚の国道20号で1月4日、タクシーが歩行者を次々とはね、中央分離帯にぶつかりながら100メートル以上暴走する事故が発生した。警視庁によると、タクシーは信号を無視して横断歩道に突っ込んだとみられ、はねられた女性(49)が死亡。子供を含む5人が重軽傷を負った。

 ドライブレコーダーの記録などから、タクシーは事故直前に蛇行運転などを繰り返し、男性運転手(73)が意識もうろうとなっていたことが判明。くも膜下出血を起こして意識を失っていた可能性がある。

 警視庁は男性の回復を待って事情を聴く方針だが、捜査関係者によると、男性にくも膜下出血に直接つながる持病は確認されず、業務開始前にも明確な発病の兆候はなかったという。

事業者に重い責任

 今回のような運転手の体調急変に伴う事故で、被害者への補償はどうなるのか。交通事故に詳しい加茂隆康弁護士は「病気の発症を予見できたかどうかが焦点となる」と説明する。

 加茂氏によると、事前の健康診断などで正常な運転ができなくなるような疾病を発症する可能性を認識していたのに運転した場合、運転手の過失が問われるが、健康診断などで問題がなかった場合、「刑事責任の観点から本人の過失を問うのは難しい」という。

 民事の観点からも、発症を予見できなかった場合は運転手本人に損害賠償を請求するのは困難。ただ、タクシーやトラックなどの事業者が人身事故を起こせば、雇用する事業者(運行供用者)に賠償が課される可能性がある。

 通常、事業者は一般的な保険会社に加入しようとすると保険料が高額になるため、複数の会社などが集まり「共済協同組合」を設立し、交通事故の賠償対応に当たる。免責されるには、運転手と車の保有者が運行に関して注意を怠らなかった▽被害者や第三者に過失があった▽自動車に欠陥がなかった−などの要件を満たす必要があるが、加茂氏は「証明は至難の業。会社側の責任は免れないだろう」と指摘する。

 事業者に課せられるのは被害者への補償にとどまらない。仮に運転手の点呼や健康診断などを行っていなければ、事業停止などの行政処分が下される可能性もある。

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