昨日(5月25日)、AKB48が岩手県内で握手会開催中にメンバーの川栄李奈(19)、入山杏奈(18)、そして
男性スタッフがノコギリのような刃物で襲撃された。アイドル史上稀に見る衝撃的な殺人未遂事件の
ニュースを見た瞬間、私自身のナウでヤングな頃の苦い経験を思い出さずにはいられなかった。

私はミュージシャンとして駆け出しの頃、定期的に路上ライブを開催していた。元来不器用なタイプ
なのだが、社交的なスキルを身につけることができたのはそこで出会った人々との交流のおかげだ。
酔っ払いやチンピラに絡まれることは珍しくはなかったが、その都度臨機応変にうまくいなしていた。
そう、あの事件が起きるまでは…。

あれは4月の週末の出来事。その日も私の歌を聴きに彼女は電車に乗りやってきた。その年の春に
芸大に入ったばかりの18歳。将来有望な芸術家であった。いつものように私の横に座り、幸せそうに
聴き入ってくれるのがとてもありがたかった。

○○のジョン・ローン(ラスト・エンペラー主役)こと私と一色紗英似のフレッシュアイな芸大美少女。
立ち止まらずにチラ見するだけの大衆からも美男美女の理想的なカップルに思われていただろう。
ゆえに嫉妬もあったのか。

ウイスキーを瓶ごと飲みながら男は私の目の前に立ち止まった。座った目でしばらく私をにらみつけて
いたが、よくいる酔っ払いだなという感じであった。ちょっと暴れたところで周りにファンや音楽仲間も
いるしすぐに押さえつけられる。構わずに歌い続けていた一瞬の出来事だった。

突然目線を横の彼女に向け、全力で瓶を投げつけた男。瓶は彼女の右手に命中、血だらけになった。
すぐにファンや仲間と締め上げ、警察を呼び、男はしょっぴ引かれたが、彼女は右手を何針も縫うことに
なった。創作活動に支障が出た。私の油断が招いた事件だ。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「音楽で世界を救う」なんて安っぽい言葉がある。私もその言葉に酔っていたのだろう。態度の悪い観客が
いても笑顔で歌い続ければ改心してくれるだろうという甘い考えだった。すぐそばにいる一人の女の子を、
そして暴漢の邪悪な心も救えなかったのになんてバカげた言葉なのだろう。


通常は路上ライブの危険性に比べれば握手会のほうが安全だ。それでも悲惨な事件は起こってしまった。
今回のAKB48殺人未遂事件で負傷しながらもメンバーを守りきれなかった男性スタッフは悔しい思いで
いっぱいだろう。ASKAではないが、勇気だ愛だと騒ぎ立てても被災地に何度訪問しようとも現実は重い。
川栄、入山、他のAKBメンバーだけでなく、この男性スタッフに対しても十分すぎるほど心のケアをしてほしい。

(文・花粉症)