そうですね、ステージに出て、人が多いとか少ないとか、あるいは
近くにいらっしゃる、遠くにいらっしゃるというのは、ずいぶん感じが
違うんですが、演奏に入りますといっしょですね。

──聴衆というののは、いなくなっちゃうんですか?

いえ、そんなことはもちろんありません。いつも聴いていらっしゃる
人のことを感じて演奏してます。でも、いったん演奏に入ると、一回一回の
音楽を大切にしているものですから。そういう意味では、練習でも、レコーディング
でも、コンサートでも、音楽に立ちむかう真剣な姿勢がおんなじということなんです。
ですけども、ぼくは以前から習慣みたいなものがあって、聴衆の方がものすごく
たくさんいたり、音楽に特に関心の高い方を前にしたりするとものすごい興奮を
覚えるんです。それではりきり過ぎて、練習中には考えられないような響きを
だしたり、はめをはずしたりすることがあるんです。ぼくは人前にでると
あがっちゃってどうしようもなくなるんですが、それでもやっぱり聴衆は
一人でも多いほうがいいんです。