議論は少なくとも、フォード自動車創業者のヘンリー・フォードが1914年に組立工場の作業員に1日5ドルを支払ったときまでさかのぼる。
 1日5ドルといえばライバル社の2倍以上の金額だったが、フォードは慈善のために高い給料を払ったわけではなかった。
 有能なスタッフを採用し、高い給料を支払えば、8時間の勤務時間中、まじめに働かせることができる。サボれば職を失うと、工場の作業員たちは分かっているからだ。
 フォードが高い給料を支払ったのは、生産性を高めることが目的だった。
 いわゆる「効率賃金」と呼ばれる考え方だ。
 給料と仕事ぶりの関連についてもっと精緻に分析したのが、01年にノーベル経済学賞を受賞した経済学者のジョージ・アカロフだ。
 給料を増やすと、勤労者は「お返し」に一生懸命働くと、アカロフは82年の論文で指摘した。
 会社と社員がお返しをし合う「贈り物交換」の関係が成り立つというのだ。

 逆に、給料を減らすと勤労者は「仕返し」のために仕事の手を抜く。
 その弊害が相当に大きいと見なされれば、大勢の社員のやる気を萎えさせるよりは一部の社員に解雇を言い渡すほうが得策だと、企業が考えるのも納得がいく。