ロシアの光景も飽きてきた。ベンゼンは粗末なトラックに載せられ、はるかなでこぼこ路をひたすら進んでいた。
ベンゼンはコールバッハ将軍との酒の席において、将軍好みのロシアの金髪娘に手を出したのが問題となった。金髪はロシア語で意味不明なことをまくし立てていた。
「ベンゼン、君は何をしたのだ」
「この女が私をからかうもので、つい手を挙げてしまったのであります」
「君はドイツ軍人として反省せねばなるまい」
そしてベンゼンは軍法会議にかけられた。勿論無実を主張したが受け入れられはしなかった。彼は官位剥奪、懲罰部隊行きとなってしまったのだ。
「今でも、信じられない」
ベンゼンはそうつぶやいた。ロシアの小娘に手を挙げてほほを打つことぐらいのことで、ベンゼンはこうなってしまったのである。戦闘時には英雄的な彼も、所詮人の子であったのだ。
粗末な輸送車には、大勢のベンゼンの仲間達が声を荒げていた。政治犯、刑事犯、軍規違反。挙げればきりがない。
「くそったれ」
ベンゼンは自分を叱咤した。
やがてトラックは止まり、ベンゼン達は荷台から降ろされた。彼らの周りには広大な自然のみが、横たわっていた。
「いいか、貴様等はドイツ軍人の風上におけぬ、馬鹿ものだ。いいか。今日から貴様たちは、ここに配属された。貴様達の仕事はここの地雷撤去作業だ。ここには無数の赤軍の地雷が埋まっている。ただそれを貴様達は掘り出せばいいのだ」
少尉はつかつかとベンゼンの前に進み出た。
「貴様が元中尉のベンゼンか」
「俺は無実だ」
「ふん、もうお前は終わりだ」
ベンゼンは悔しさに拳を握り締めた。
「ここでは貴様も一兵卒に過ぎん。それも最前線任務を受け持ってもらう。士気は貴様に任せる。ただ一言いわせろ、脱走したら今度は命がないぞ」
ベンゼンは周りの連中を見て、声を挙げた。
「ここに集合せよ、ここの指揮は俺に任された。いいな。俺の言うことを絶対と思え、さもなくば、惨めな屍になるぞ」
トラックと少尉が消えたあと、彼らは手にスコップを持ちベンゼンのもとから離れていった。各自地雷を掘る任務についたのであった。

つづく