178話 手を伸ばしても手を伸ばしても

お前が存在しているとこの世の理が狂うのだ

父が縁を連れ戻すため使いをやっても既におらず、消息を経ち影も形も無くなった。計らずしも私の願いは叶った。
10年余り平穏な日々が続き妻を娶り子も恵まれた。

しかし野営中のところを鬼に襲われ、縁が鬼の首を切り望まぬ邂逅を果たした。
剣の術は極められており、到着の遅れにより私の配下が死んだことを詫る非の打ちどころのない人格者になっていた。

私も剣技を極めるため家族を捨て鬼狩りの道に入った。縁は誰にでも剣技、呼吸を教えるが同じようにできないのでそれぞれに合わせた呼吸法を教え派生が生まれた
痣者も増え私にも縁そっくりの痣が出た
しかし結局私は月の呼吸と名付けたただの派生しか使えない
その内痣者が死に始め、私には未来が時間が残されていないと思い始める

「ならば鬼になれば良いではないか」

私が欲していた道は拓かれた

年老いて事切れた縁を前にして
寿命で勝ち逃げした、憎い憎いと一閃し切るその時袋に入った笛も切ってしまう
笛を目にした時思い出したのは、笛を持ち微笑む縁だった。真ん中の目から流れる涙

唯一無二の太陽のようにお前の周辺にいる人間は皆お前に焦がれて手を伸ばしもがき苦しむ以外道はない

ああ何も手に入れることができなかった

私は一体何の為に生まれてきたのだ教えくれ縁壱

上壱の体は消え笛と服が残った