人気マンガ雑誌の編集長さんに、これまで関わってきた作品や編集者の仕事、新人作家について考えていることなどをお伺いする企画「編集長の部屋」より、『ジャンプSQ. 』編集長・矢作康介さんへのインタビュー第1回(全3回)を特別掲載!

「良く聞く」というのとはちょっと違う話ですが、岸本先生との話で記憶に残っているエピソードがあります。

マンガ作りではしばしば、作中のシーンやセリフを読者に強く印象付けておく必要があります。
物語の終盤などで回収して読者の心を動かす、キーになるシーンやセリフ、いわゆる「前フリ」ですね。
ある時期、週刊連載19ページの中で、その「前フリ」を数週間に渡って何度か入れることで、なかなか話が進まない事がありました。

私はしびれを切らして、ある週の打合せで「今週はこれを入れずに、もっと話を進めた方が良いのでは?」と指摘しました。

その際、岸本先生はしっかり話を聞きつつ、「確かに、話を先に進めるのも大事です。
でも、読者は普段の生活の中で、例えば食事をしたりしながら、僕らが思っているよりかなり適当にマンガを読んでいたりする。
僕はどうしても読者に覚えておいて欲しい所は、自分が読者に伝えた、と考える3倍以上は描いておかないと心配なんです。」と言われました。

読者によってマンガがどう読まれるか、ということに深く心を砕いている姿に感銘を受けました。

 
岸本は傀儡ではない
人の話をよく聞く