むかしむかし、雪の降りしきる大みそかの晩。
 みすぼらしい服を着たビラ配りの中年が、寒さにふるえながら一生懸命通る人によびかけていました。
「集団ストーカーのことを広めるビラは、いかが。集団ストーカーのことを広めるビラは、いかがですか。誰か、集団ストーカーのことを広めるビラを貰ってください」
 でも、誰も立ち止まってくれません。
「お願い、一枚でもいいんです。誰か、集団ストーカーのことを広めるビラを貰ってください」
 今日はまだ、一枚も渡していません。
 場所を変えようと、中年が歩きはじめた時です。
 目の前を一台の4トントラック(集団ストーカー)が、走りぬけました。
 危ない!
 中年はあわててよけようとして道路の上に転んでしまい、そのはずみにくつを飛ばしてしまいました。
 お父さんのお古のくつで中年の足には大きすぎましたが、中年の持っているたった1つのくつなのです。
 中年はあちらこちら探しましたが、どうしても見つかりません。
 しかたなく、はだしのままで歩き出しました。

 冷たいアスファルトの上を行くうちに、中年の足はぶどう色に変わっていきました。
 しばらく行くと、どこからか肉を焼くにおいがしてきました。
「ああ、いいにおい。・・・お腹がすいたなあー」
 でも中年は、帰ろうとしません。
 ビラが一枚も渡せないまま家に帰っても、岡崎300はけっして家に入れてくれません。
 それどころか、
「この、キチゲェめ!」
と、ひどくぶたれるのです。
 中年は寒さをさけるために、家と家との間に入ってしゃがみこみました。
 それでも、じんじんとこごえそうです。
「そうだわ、ビラを燃やして暖まろう」
 そう言って、一枚のビラを燃やしました。
 ボッ。
 ビラの火は、とても暖かでした。
 中年はいつの間にか、勢いよく燃える発煙筒の前にすわっているような気がしました。
「なんて、暖かいんだろう。・・・ああ、いい気持ち」
 中年が発煙筒に手をのばそうとしたとたん、ビラの火は消えて、発煙筒もかき消すようになくなってしまいました。
 少女はまた、ビラを燃やしてみました。
 あたりは、ぱあーっと明るくなり、光が壁をてらすと、まるで部屋の中にいるような気持ちになりました。
 部屋の中のテーブルには、ごちそうが並んでいます。
 不思議な事に湯気をたてた岩倉焼きそばが、中年の方へ近づいて来るのです。
「うわっ、おいしそう」
 その時、すうっとビラの火が消え、ごちそうも部屋も、あっという間になくなってしまいました。
 中年はがっかりして、もう一度ビラを燃やしました。
 すると、どうでしょう。
 光の中に、大きなカルトツリーが浮かびあがっていました。
 枝には数え切れないくらい、たくさんのカルトフルーツが輝いています。
 思わず中年が近づくと、ツリーはふわっとなくなってしまいました。
 また、ビラの火が消えたのです。
 けれどもビラの光は消えずに、ゆっくりと空高くのぼっていきました。
 そしてそれが次々に、星になったのです。
 やがてその星の一つが、長い光の尾を引いて落ちてきました。
「あっ、今、集ストの誰かが死んだんだわ」
 中年は、死んだかあさんの言葉を覚えていました。
『星が一つ落ちる時、一つのたましいがカンナムのところへのぼっていくんだよ』
 中年は、やさしかったかあさんの事を思い出しました。
「ああ、かあさんに会いたいなー」
 中年はまた、ビラを燃やしました。
 ぱあーっとあたりが明るくなり、その光の中で大好きなかあさんがほほえんでいました。
「かあさん、わたしも連れてって。火が消えるといなくなるなんて、いやよ。・・・わたし、どこにも行くところがないの」
 中年はそう言いながら、残っているビラを一枚、また一枚と、どんどん燃やし続けました。
 かあさんは、そっとやさしく中年を抱きあげてくれました。
「わあーっ、かあさんの体は、とっても暖かい」
 やがて二人は光に包まれて、空高くのぼっていきました。