2018年10月13日 13時56分

 二十代で統合失調症と診断され、十年近く引きこもり生活を送った千葉の男性が、十四年前からほぼ毎夏、カナダ北極圏などでカヌーの一人旅を続けている。
多様な価値観の中で自分らしく生きる喜びを知ったからだ。「人生は皆同じじゃない。型にはめずに生きて」。会員制交流サイト(SNS)で日々の思いを発信する。 (太田理英子)

 この男性は、千葉市稲毛区の福祉施設職員海谷(うみたに)一郎さん(46)。幼い頃から集団行動や物事の優先順位を決めることが苦手だった。大学受験では二度失敗。
三度目の受験前に重圧で精神的に不安定な状態に陥り、合格後に統合失調症と診断された。一年で退学し、引きこもりになった。

 三十歳の頃、ようやく症状が和らぎ、引きこもり生活を脱する。リハビリの一環で始めた市内の倉庫でのアルバイト先では、出入り業者の女性に初恋もした。だが、振られた。

 「誰も自分を知らない場所に行きたい」。世界の川を下ったカヌーイストで作家の野田知佑さんに憧れを抱いていた海谷さんは二〇〇四年、市内のカヌーショップでカヌーを購入し、店員の指導でこぎ方を習得。
その年の夏、家族の反対を押し切り、カナダ北西部のユーコン準州へ渡った。

 大河ユーコン川の上流は流れが速く、難なくこぎ進めることができた。川沿いの村では住民が食べ物などを分けてくれた。
「世の中は敵意に満ちてるわけじゃないんだ」。米国アラスカ州までの千五百キロを一カ月間でこぎ切った。

 翌年にも再び渡航し、三カ月でユーコン川下流千八百キロの旅を達成。その後も一〜二年おきにカナダ北極圏などをカヌーで行く。

 旅先では、先住民の村で芸術活動をするドイツ人や、ボランティア活動でカナダに住み着いた日本人とも交流を深めた。
異なる慣習、故郷や国にとらわれない生き方に刺激を受けた。海谷さん自身も自分らしく生きる自信が湧いた。

 今では、市内の障害者福祉施設で働く傍ら、高齢者施設で傾聴ボランティアとして活動する。認知症患者の隣で相手の目を見つめ、じっと話を聞いて寄り添う。
「人と関わるのが怖かった引きこもり時代から百八十度変わったけど、苦しい経験があったから今があるのかな」と振り返る。

 来年はカナダ北部のハドソン湾一周を目指し、また旅に出る。自身のフェイスブックやツイッターでその様子を伝えるつもりだ。
「小さなきっかけで人は変われると伝えたい。劣等感や孤立感にあえぐ人の勇気のかけらになれたら」
(東京新聞)


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