このスレでもすでに何度も言及されている、エドモンド・ハミルトンの
「フェッセンデンの宇宙」は、今なお色あせない古典の香気を放つ文句なしの傑作。

第二次大戦前夜の1937年に「ウィアード・テールズ」誌上に発表されたという
背景事情を反映してか、あるいは、文明社会の行く末を案ずる作者の透徹した
批評精神によるものか、作品の基調となるトーンはいささか暗め。

内容については、あまり詳しく紹介するとネタが割れてしまうので控え目にするが、
まぁ一種のマッド・サイエンティストもので、人類飼育テーマのヴァリエーション
とみられなくもない。

本作品にかぎらず、SF史に残る先駆的な着想を提出したという点で、ハミルトンは
ウェルズやステープルドンに比肩されてよい独創の才の持ち主である。

現在、中村融編訳『フェッセンデンの宇宙』(河出書房新社、奇想コレクション)で、
従来の改訂再録版からではない初出誌からの翻訳が読める。
また、創元推理文庫からすでに刊行されている全二巻の中短編傑作集もおすすめ。