『白鹿亭綺譚』 アーサー・C・クラーク (1957)

ロンドンの裏通りにひっそりと佇むパブ「白鹿亭」。
どこを見てもごく普通のパブなのだが、水曜の夜だけは別の空間へと
変わる。その夜ここで語られるのは「完全なる消音機」「暴走した反重力」
「間違って本物の最終兵器を作ってしまった特撮マン」「知能化した白アリ」
等々・・・常連の酔客たちは「嘘だ」「いやあり得る」と喧々諤々の大論争。
SF者には正に夢の桃源郷!

という訳で、クラークのユーモラスな小ネタSF短編集である。
当時最新?の科学知識を元にでっち上げた、素敵すぎるトンデモ技術の
数々が楽しめる。ある意味マッドサイエンティストものとも言えるかも。
後書きによると、SFとユーモアの合体なんてムリだと言われたクラークが
「何を!だったら俺が実証してやらァ!」みたいなノリで書き上げたらしい。
・・・意外に負けず嫌いな御人なのかもしれない。

書かれた時代が時代なので、日常描写等に古臭さがあるのは否めないが、
それをものともしない魅力が全編に満ち溢れているのよコレが。
オチまで秀逸、ケチをつける隙のまったくない傑作『ビッグ・ゲーム・ハント』や、
意図せずに世界征服を狙ってしまうマッドな科学者の物語『隣の人は何する
人ぞ』あたりが個人的にお勧め。『反戦主義者』の馬鹿馬鹿しさも捨てがたい。

明らかに「こりゃおかしいだろ」ってネタもあるが、ニヤニヤ笑って楽しむのが
本書の正しい楽しみ方だろう。軽く洒落たSF法螺話が好きな人、必読の書だ。
こんな酒場どこかにないかナァ。私は下戸だけど、飲みに行っちゃうぞ(笑)。