『シリウス』  オラフ・ステープルドン  (1944)

この作品のシリウスって、星の名前でもなく、怪盗の名前でもない。
犬の名前なのだ。人間によって知性化された犬、それがシリウス。
いわば犬版『アルジャーノンに花束を』と呼ぶべき、古典中の古典SF。

犬の視点から人間社会を風刺した風味もあり、ステープルドンの書きたかったことも
この辺りにあったのではないか、と思う。
日本でいうところの『我輩は猫である』みたいな香りも、少し感じたりする。

しかし、アルジャーノンは知性化されても人間であり続けたが、シリウスは違う。
人間並みの知性があっても絶対に人間には成れないし、かと言って犬にも戻れない。
人為的に作られた一代限りの謂わばミュータントなのである。
この設定から既に破滅の匂いが感じられ、それは結局現実のものとなる。悲劇だ。

犬を知性化するというネタだけで、破綻なく小説を一本まとめるのは大した力量だ。
やはり名作というのは、優れたSFである前に、優れた物語である必要があるのだな
と再認識させられた。

犬好きにはぜひ読んでほしいが、犬好きには最後がつらい小説でもあります・・・。