織田信秀・信長の家臣である佐久間大学允盛重は大剛者であったので、諸方の敵たちは彼を討とうと謀り、
ある国主が家来二人と議し、罪を作ってこの二名をその家より追い出し、彼らは盛重の元に来て彼に従った。
そしてしばらく日の過ぎた。

盛重は大酒であったのだが、陣中に在る時は全くこれを嗜まなかった。しかしある陣所に於いて、
大雪洪水大風あり、敵もこのような時は寄せて来ないであろうと、数抔を傾け、前後を忘れて伏した。
この時、件の両人が忍び入り、盛重を切った。彼らは枕を首と思って刺そうとし、また一人は刀を
取ったが、柄は盛重の手に有り、鞘だけを取って退いた。
盛重は目と鼻の間を、耳の脇まで切られたが、声を出さず立ち上がり一人を斬り伏せ、一人を負傷させた。

その後盛重は薬師を呼んで治療した。その傷が大方癒えた時、鏡を見てこう言った
「鼻筋が曲がっている、ちゃんと付け直せ。(ハナ筋マカルロクニ付ナヲスヘシ)」

これに薬師は「癒えたる傷をどうやって…」と、退こうとした。盛重は薬師を掴み留め、脇差にて
傷を突き離し「ちゃんと付けろ(ロクニ付)」と言ったという。