三州の大融和尚が病人を見舞いに訪れると、
「ただ今、亡くなりました」
と家の者が答えた。
和尚は、
「すぐに亡くなる状態ではなかったと思うが、養生に問題があったのではなかろうか。
残念なことです」
と言葉をかけた。
すると障子越しに会話を聞いていた医者が怒り心頭の様子で飛び出して、
「養生に問題があり亡くなったとの言葉確かに聞きましたぞ。
たしかにわたしなどは下手な医者ですからそうなのかもしれません。
ところで、出家には法力があると聞いておりますが、
ひとつ和尚の法力でこの死人を甦らせてみせてください。
法力の効果があらわれないのであれば、仏法などは役に立たぬものでしょう」
と仏法をあざけるように言った。
和尚は迷惑な言い分だと思ったが、仏法を謗られては我が身一人のことではすまぬと思い、
「それでは祈って生き返らせて御覧に入れよう。
準備をするので、しばらくお待ちを」
と言い残して寺へ帰り、また戻り来て、死人の横で坐禅を組んだ。
しばらくすると、死人が息を吹き返すようになり、生き返った。
その後、半年ほど生きたそうである。
この話は湛然和尚が直にお聞きになったことで、間違いない。
さて、その死人を生き返らせる法力について大融和尚は、
「死人を生き返らせるなどは我々の宗派では行わないことなので、
祈り方に儀式になにも知らなかったのだが、
ただ一心に仏法のためにと、寺へ帰り、供養として納められた短刀を研ぎ上げ、
それを懷に入れて、もしこの世に法力などというものがあるならば、
いまここで、ただちによみがえられよと、ひたすら念じたのだ。
もし生き返らなければ、腹をかき破って死人とともに旅立ってしまおうと覚悟を決めたまでよ」
と語ったそうである 【葉隠】

理不尽、非合理と評されることのある葉隠ですが、この話は本当に登場人物全員むちゃくちゃ(笑)