大坂冬の陣頃の十一月五日、甲山の辺りで数万の蛙が集まり
南北に別れて争うこと半時ばかりと耳にした徳川家康は

「蛙軍は珍しいことではないが、蛙は寒空には土中で蟄居している
ものなのに身体を動かして戦っているとは奇異なことだ」と言った。

また、新家村に生えている芦は片葉と聞いた家康が芦を刈り寄せて
見てみると確かに片葉であった。

松平忠継が「この辺りの芦は芦ではなく荻ですな」と言うと、家康は
「お前は『難波の芦は伊勢の浜荻』というのを知らないのか」と言った。

――『徳川実紀(東武雑録、明良洪範)』