伊勢新九郎が若年の頃のことである。
彼はその頃、備中にあった。

ある夜、夢のなかに新九郎は、吉備津宮の明神から、太刀を賜った。
翌朝、見知らぬ人物が現れ、彼に『毘沙門』の文字が彫られた太刀を持ってきて、
これを新九郎に与えた。そして

「後日、この太刀によって僥倖を必ず受けるだろう」

と言い残し去っていった。
それより新九郎はこの太刀を、類題の重宝として大切に扱った。

その後、新九郎は伊勢に居住した。文明年間は意図せずに得た護符を、
太刀と共に家の中に丁重に納めた。これらは今(寛永期)に至るまで北条家に伝わるという。

長享年間、新九郎は駿河に趣き、姉の子である今川氏親に仕えた。
氏親は彼を、興国寺城に置いた。
(寛永諸家系図伝)

伊勢新九郎に僥倖を与えた、吉備津宮明神の太刀、という話である。