2004年7月2日毎日新聞 

史実に反する“復元” 文化庁が指針で歯止め

お城「再建」にルールを−−。文化庁は今月中にも、歴史的建造物などを復元する際の指針となる「史跡等整備の手引き」を発表する。
各地の名所・旧跡では、観光の目玉作りを狙った城などの“復元”がバブル経済のころから盛んだが、
中には史実にない天守閣を造ってしまうようなケースもあり、
こうした動きに歯止めをかけるのが手引き作成の目的。史跡復元に関する公式見解を国が示すのは初めて。
国指定の史跡は文化財保護法に基づく規制があり、勝手な改変や修復は許されない。同庁記念物課によると、手引きは同法を補完するもので、
指定史跡以外についても(1)遺構の保存(2)歴史的信頼性の確保(3)景観など環境への配慮(4)運用計画の事前策定−−の4原則を規定。
強制力はないが、特に城郭の復元で大きな効果が期待できるという。
木下藤吉郎(後の豊臣秀吉)が築城した「一夜城」として知られる墨俣城(岐阜県)や、10世紀の平将門の乱の舞台となった豊田城(茨城県)などには、
実際にはなかったはずの天守閣が建てられた。高度成長やバブル期など経済が右肩上がりの時期に多く、
ある専門家は「自治体首長が殿様になりたかっただけでは」と辛らつに批評する。
逆に、仙台市の仙台城では史実に反する櫓復元計画が国史跡指定直前の昨年5月、頓挫した。
地元商工会議所などが推進していたが、文化庁に「史跡指定を目指すなら、好ましくない」と通知されたため、市が断念した。
現在、史跡指定を受けていない城郭には金沢城、佐賀城、高松城などがある。
甲信越地方のある自治体の文化財担当者は「近年は史実重視の機運は高いが、景気が上向けば観光優先になる恐れもある」と指摘。
東北地方の別の担当者は「多額の予算を持つ建設や商工部局の力は大きい。文化庁の指針は心強い」と歓迎している。【高橋昌紀】