徳川家康は家臣に重い役目を申し付けるとき、必ず先にその下で働く者たちの
意見を聞き、その人々が支持する者をその役職につけるようにした、という。

勿論これには理由がある。

「人の上に居る人間は惣じて、人の善し悪しが見えにくくなっているものなのだ。
何故ならどんな人間であっても、上の者の考えに合わせそれに迎合し、上の人間に
気に入ってもらおうとしてしまう。これは人情というものなのだ。

そのためその者の本心は非常に見えにくく、どんな賢明な君主であっても、
上からの視点ではその善悪を判断しずらくなってしまうのだ。

よって実際に下で働く者たちの意見を聞くことで、上からの視点では見えないものを
補うことができるし、また下の者たちも、自分たちの意見が汲み上げられた上役ということで、
その下知にもよく従うようになるのである。」

家康の人材の使い方の一端についてのおはなし。