北条勢三手の内の一つを率いた長尾輝景、昨日の雪辱を誓って川田城へと殺到する。
が、今日も川田城は空。
念のために大竹城や、周辺の山の中も捜索してみるが、伏兵がいる様子もなかった。

「昨日の勝利に満足して、今度こそ名胡桃城に引き上げたのでは?」
「それとも、他の攻め口に迎撃に出たのかも知れんな」
「それでは、我々が他部隊と合流すれば、挟み撃ちに出来ますな」
「だが……お前、道知ってる?」
「……知りません」
「まぁ、放っておいても二千対三百なんだ。問題なく勝てるだろ?」
昨日、その三百に負けた将の言葉とも思えないが、常識的な認識ではある。
長尾輝景はこの日も兵をまとめ、子持山の峠を引き返して行こうとした。


帰り道にやっぱり奇襲があった。
「今日もかよっ!?」
「今日もだよっ!!つか毎日毎日、引っかかってんじゃねーよ!!」
峠に差し掛かった辺り、無駄足で引き返す北条軍を、根津幸直率いる真田勢が襲撃
する。
往路を襲撃しなかったのは、峠を下ってくる北条軍に攻めかかるのは不利、まして
これから城攻めをしようという敵は戦意が高い。だから陣地に帰ろうと、峠を登っ
てくる時に襲撃した方が良いと考えたのだろう。
長尾勢が川田城であれこれとしている間、十分に準備を整えて待ち構えていた真田
勢は、森から矢を射かけ、斬りかかったと思えば、森の中にサッと引き上げ、別方
向から斬りかかり……地形を知り尽くしたゲリラ戦でこちらの兵数を悟られぬよう、
奮戦をする。

この日も遂に長尾勢は追い立てられ、氏照の待つ本陣へと逃げ帰る事になった。


が、しかし、そこで待っていたのは激怒の表情を浮かべた北条氏照。
「お前もか」
「……はい?」
この時点では長尾輝景は自分が真田勢三百と交戦したと思っている。
だから自分は叱られるだろうが、他の二隊は無傷で帰還したのだろう、と。
「長尾、多目、小幡……貴様等三人揃いも揃って、二千の兵を率いて百人の真田勢
に打ち負け、おめおめと尻尾を巻いて逃げ帰って来おって!!」
「ひゃ……百!?」
この日、根津幸直は驚愕の策を立てていた。
三方から迫りくる六千の北条勢に対し、真田勢三百も三つに分けたのだ。
(二千vs百)×3という状態である。

「……と、言う事は……」
他のルートで進軍していた多目周防守、小幡上総介もやはり、百人の真田勢に破れ、
本陣まで逃げ帰っていたのである。
この日、根津隊が討ち取ったのは八十四人。他の二部隊もそれぞれ二十人、三十五
人を討ち取って沼田城に首を送った。
矢沢頼綱はこの戦果に大喜びし、沼田城を包囲する北条軍の目の前に晒したのだと
言う。

北条氏直が率いる本隊も沼田城を中々攻め落とせず、氏照隊の敗戦を聞いた氏直は、
遂に沼田からの撤退を決断したという。


百人で二千人を撃退とか。しかもそれを三部隊で同時にやってのけるとか。
いやいやいやいや、バケモノにも程があるだろ!?