阿部豊後守忠秋が名物の茶壷を手に入れ、これに見合った箱など作らせるため、細工職人を呼んだ。

ところが、職人が懸命に木材を組んでいるスキに、一緒について来た職人の子供が茶壷で遊び出しており、
そのうち壷の口に突っ込んだ手が抜けなくなってしまい、オマケに忠秋の近習たちに見つかった。

「殿様の大事な壷に、なにをしておる!?早く抜かんか!」
「それが、どうしても抜けないんで!」
「ならば止むを得ぬ。その子の手を切り落とすか。」
「そんな!お、お願いします、どうかお助けくだせぇっ!」

父親と近習の剣幕に、とうとう子供は泣き出してしまい、泣き声を聞きつけて忠秋もやって来てしまった。
騒ぎの原因を聞いた忠秋は、
「なにをいつまでも愚かな事をしておる。早う、こうせぬか。」

と言って脇差に手を伸ばすと、その柄頭を茶壷に叩きつけた。壷は打ち砕かれ、子供の手は抜けた。
すぐさま職人は忠秋の前に土下座し、感謝した。

「大切な壷を割ってまで倅を救っていただき、まことに有難うごぜぇます。この罪は、あっしが受けます!
どうかどうか、倅だけはお助けを・・・」

「何の罪だ?」土下座したままの職人を横目に、訳が分からない、という顔をして忠秋は去った。


職人は、泣いた。