黒色火薬の燃焼残留物量の推定

硝石(KNO3)40〜80%、硫黄(S)3〜30%、炭素(C)10〜40%の範囲内での割合で混合すれば、一応黒色火薬として成り立ち燃焼するが、現在の鉄砲発射薬としての黒色火薬は、硝石75%、硫黄10%、炭素15%が標準的な混合比率とされている。
黒色火薬が燃焼(酸化)すると、N,O,S ,C成分はガス化(N2 ,CO2 ,SO2など)して空中に放出されるが、Kと未燃焼の、S ,C成分はガス化せずに残留する。
標準的な黒色火薬の硝石混合比率75%では、K量は29%『75%×[39÷(39+14+16×3)]=29%』含まれ、この重量割合がガス化しない。
このK量に未燃焼の、S ,C成分が燃えカスとなるが、ガス化した硫黄酸化物量の発生量は少なく、多くの硫黄は燃えカスとなる。(標準的な黒色火薬では、重量の40%以上がガス化しないと推定される)
火縄銃内で発生する燃えカスは、発射の際に銃口と火穴から一部放出するが完全な排出は困難であり、次々と薬室や銃身内にこびり付くので、連続的な発射のために清掃は必須である。
燃えカスのこびり付く量は、火薬の粒形、コーテング、混合比率、薬室構造、火穴の位置、口径などの条件で大きく異なる。
三種の混合比率を変えて燃えカスの少ない火薬は作成できるが、威力のある火薬とは別であり、戦国時代の戦闘中では、薬室までの清掃は必須であった。 >>572 >>310
大砲用の黒色火薬の場合は、砲身の破裂を防ぐために硝石比率を低くして爆発力を抑えているので相対的に硫黄、炭素成分が多くなって燃えカスが増え、また、酸素成分が減るため不完全燃焼となりやすく、炭素成分は多量の黒煙(爆煙)となった。

長篠の戦いで使った3000挺の三段撃ち戦法や輪番による連続射撃が中国明軍に伝播したとして、1638年に明朝で刊行された畢懋康『軍器図説』の鉄砲の一斉射撃戦術図「輪流操作図」を紹介している書籍がある。
この図には、中国銃の特徴である銃床が短く長銃身の火縄銃(長槍?)が描かれているが、中国銃に特有な銃架(又杖?)が描かれていなく、物理的に支えるのが不可能な図が描かれており、連続射撃の伝播の根拠に図だけで判断するのは危険である。
また、燃えカスの事を考慮に入れずに連射が可能であるとしてことや、いまだに火縄銃3000挺の三段撃ちが史実のように思われて、単純に玉数を掛けて総発射弾数量を算出している物もあって定説を覆すにはなかなか難しいものがある。