【東京大空襲/ガラスのうさぎ】
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0229この子の名無しのお祝いに
2006/03/11(土) 02:24:23ID:Hm9KouK5題名に反して、ドラマの最大の焦点は、やっと生き残った姉妹にも戦争の前後の考え方の大変化により、混乱し引き裂かれるという精神的な問題である。
21世紀の今この映画を見ると、20年ころと70年代の2つの時代を感じる、60年前の考え方は主人公達の素直な台詞でわかるが、映画の対象をそのままべたに映す感覚は70年代を感じさせる。
映画は有名な児童文学を原作にしているが、映画の魅力はやはり原作者の実体験にあるように思われる。監督はその力量故か製作条件の厳しさ故か、ドラマチックな演出をせず原作の筋書きそのままに映画が製作されているように想像する。
そこでは、死を平気で口にする1番目の兄と母の悲しいすれ違い、母たちの死体を見つける事ができない間に母たちの死が決まってしまう割り切れなさ、戦後の田舎の家でいとこの娘は友人であると同時にひどい仕打ちに加勢する敵でもあること、
戦後に主人公が田舎で辛い目にあるが実はその多くの責任は最も頼りにしている兄にあることなど、わかりやすい映画の雰囲気とは裏腹にかなり割り切れない、矛盾した要素をはらんでいる。
作家が創作する小説では普通は感動を盛り上げるために、整え揃えてしまう諸要素が、ここでは割り切れない状態のままそのまますぎていき、そのまま生のままで語られ観客を戸惑わせると同時に感動させる。
この映画の観客は多感な小学生が多かったようだが、彼らが強く記憶に残したのもこういう事実のもつ凄みの為ではないだろうか。
無感動を自認しシニカルな観客にとっては今井正の「戦争と青春」と同じく、演出不足で低予算のメッセージばかり目立つ映画に過ぎないかもしれない。
それは空襲というもっとも訴えるべきクライマックスに向かい全体を統一した物語にできなかった点で抗弁できないだろう。しかし多少とも主人公に共感できれば、前記したようにそれが逆にこの映画の強みとして発揮されるように思う。
おそらく予算のため、東京大空襲という惨劇はここでも記録映像のみで示され、結局地獄絵図はほとんど描かれなかった。原爆やホロコースト程ではないにせよ、惨劇の表象不可能性は解決されないままだ。
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