28日に奥穂から降りてくる途中で雪崩にあった。登りのトレース通ってたら『トレース壊すな』って怒られたんで、北寄りに移動して下降した。
ザイデングラードの方から女性の叫び声が聞こえたので「何かなー」と思って辺りを見回したら涸沢岳から雪の塊が降ってくるのが見えた。
あっという間に飲み込まれて仰向け横向きの状態で滑落していった。思っていたより雪崩のスピードは遅かった30km出てないくらいじゃないかな。
怖かったけど、以外にパニックにならずにどうしようか考えられた。まず両手を口の前に持ってきてエアポケットを作り、顔が雪の上に出たので滑落停止姿勢を取ろうとした。
でも雪に囲まれて体をひっくり返すことができない。うつ伏せになれない。仕方ないからそのままの姿勢でピッケルを雪に突き刺して減速を試みた。
ピックが雪刺さってる感触はあるんだけどまったく速度が落ちない。ブレードの方を刺してみたけど同じ。
急斜面で何百キロもの雪が上からぐいぐい押して来るのでピッケルの摩擦程度じゃ歯が立たない。もう自分にできることは何もない。
下を見たら、岩も他の登山者もいなかったんで、このまま滑っていくしかないと思った。幸い傾斜が緩やかな所で止まれて、ケガも失くしたものもなかった。
近くのテントの人は擦り傷を負ったり、ピッケル、アイゼン、眼鏡なんかをなくしてた。
これから登りに行く人はくれぐれも気を付けてね。