「なんてことだ…」

ロシア極東軍司令官、アレクセイ・イワノフはテレビの映像に釘付けとなり、
そのまま言葉を失った。

それは日本のテレビ局がニュースで流していたものだった。
若者に人気の高いアーティスト、t.A.T.u.がとある空港で日本人の複数の暴
漢に卵を投げつけられ、蹂躙されているというものだった。

「これはいかん…」
イワノフは直感した。
t.A.T.u.は中央政府でも扱いに困る連中だ。
赤の広場でゲリラ撮影をしでかして当局に逮捕されたことがある。
イワノフのような年長者は国内治安の悪化を憂いたが、若い兵士は当局の対
応こそが間違っていると口を揃えていったものだ。
そう、t.A.T.u.は若い兵士に人気が高い。
有志が「慰問に来れないものか」とレコード会社に手紙を出したこともある
と伝え聞いたこともある。ブロマイドが多く出回り、家族の写真ではなくて
二人の写真を携帯する者もいる。
そのt.A.T.u.が黄色いサルどもに蹂躙されたのだ。

そのときだ。
窓がビリビリと震えだした。
ふと気になり、窓の外に目を向けると2機のスホーイ27が滑走路を離陸してい
くシーンが映った。胸に不吉な予感が過ぎる。