(続き)
「野生動物ってのは大概、すぐに包帯なんぞ毟り取って外してしまうんだがな。
 しかしアイツ、何を思ったのか包帯を外さなかったらしい。
 それから毎年、手当てした頃になるとお返しに来るんだ」

そう言って玄関を開け放つ。
扉のすぐ外に、さほど多くはないが、山の果物や茸が丁寧に置かれていた。

へえ、猿の恩返しか。
そう和やかな気持ちになったが、一点だけ引っ掛かる。
包帯ははっきりと見えたのに、その中身の猿の姿は何故見えなかったのか?

「随分と前のことだって言ったろ。
 まず、あの猿介は当の昔に死んでる筈だ。
 あの時分でかなり老けてたからな。
 お前が見たのは、真っ当なモノじゃないんだよ」

主はしばらく森の奥を見つめていた。

「もう成仏した方がアイツのためだと思うんだがなぁ」

寂しそうにそう言いながら。