知り合いの話。

山菜狩りに行った折、山菜が群生している一角を見つけた。
どの山菜も一つ残らず、鮮やかな赤色に染まっていた。
気持ち悪く思ったので一本も採らずその場を後にした。

後で近所の老爺に話したところ、この山に棲んでいたという物の怪を教えてくれた。
その物の怪は『赤菜婆』と呼ばれており、名前の通り老婆の姿をしている。
この老婆が現れた畑の作物は、数日の内に真っ赤に変色してしまうのだそうだ。
最も変化するのは色だけで、味などが変わることはなかったらしいが。
米がやられた場合、これを年貢として納められなくなったので、
米農家には大層嫌われ、また恐れられていたのだとか。

「そっか、赤菜の婆さん、まだ現役なのかぁ」
感心した様子で、老爺はそう言っていたそうだ。