知り合いの話。

彼は若い頃、欧州での一人旅を好んでしていたそうだ。
ある日、山を行くジプシーの一家と出会い、馬車に同乗させてもらったのだという。
荷馬車は一家の者が寝泊まりしているだけあって大きくゆったりとしていて、
午後の一時を楽しく会話しながら過ごした。

一家の祖母は昔ながらの占いをよくするらしく、車座になって一緒に夕食を取った後、
彼の未来を占ってもらうことになった。

老婆は、何か大きな動物の骨らしき物を手でこねくり回しながら、難しい顔になって
重々しくこう述べた。

「あんたはこれから……美味い酒を飲んで、一晩中楽しく唄って踊るだろうよ」

そう言ってニヘラと笑う。
一家の者も声を合わせて笑い、宴会が始まった。

実に楽しく愉快な酒盛りだったらしい。
彼も日本の歌を幾つも披露し、やんやの喝采を受けたそうだ。

翌朝に目が覚めると、周りには誰の姿も見えなかった。
焚き火を起こした跡はあるが、自分の荷物以外には何も残されていない。