知り合いの話。

彼はかつて漢方薬の買い付けの為、中国の奥地に入り込んでいたことがあるという。
その時に何度か不思議なことを見聞きしたらしい。

「とある山奥の村でですね、一風変わった注意を受けたことがあります。
 ここの山奥に分け入るのならば、煙草を絶対に持っていけと。
 私が『煙草はやりません』と言ってみても、吸う人も吸わない人も関係ないから、
 常に身に付けておくようにと、そう言われまして」

「日本でも似たようなことを言われたことを思い出しまして、こう聞いたんです。
 『蛇除けですか?』って。やはりそうでした。
 お国が違うというのに面白いですねぇ、と思いましたよ」

ここで彼は少し苦笑して、こう続けた。
「しかしこの蛇というのが、日本とえらく違いましてね
 人の顔を持つ大蛇だというのです。
 体型はかなりずんぐりむっくりらしく、動きはそんなに速くないらしいのですが。
 驚くことにこの蛇、丸呑みした人間の頭部を、自分の頭として複製するのだそうで。
 つまりこの蛇の顔は、最後にこいつに呑み込まれた人間の物なのだそうです。
 『人面の蛇』だの『顔盗みの蛇』のような呼ばれ方をしていました、はい」

「この蛇は、取り込んだ人の知性で物を考えることが出来るようで、常に頭の良い
 人間を餌食にしようと探しているのだそうで。
 蛇というよりも妖怪ですが、そういう類いにも向上心というか、進化したいとか
 上に昇りたいという欲求があるのかもしれませんね。
 この話を聞かされて興味深く思いましたですよ」