おぼこぶち(小母子淵、生子淵)

川の水深があるところを淵という。地元の人がその淵に名前を付けて、それが地名になったりする。鹿沼市の加園には「おぼこぶち」という地名があって、加園を流れる荒井川にある淵が由来。
荒井川は、いまでこそ整備されて浅い川になったけれど、昔は結構水深があった。爺さん連中曰く、魚は現在の荒井川とは比べ物にならないくらい居たらしい。
川にある無数の淵は、たびたび水難事故を起こす。よく大人たちは「カッパがでるよ」なんて言って子供を淵から遠ざけていた。
でもおぼこぶちにはカッパの話はない。代わりに悲しい話がある。
明治の初期、夏の水かさが増したおぼこぶちに、若い母親と赤ん坊が身を投げた。
母親は病気を患っており、親亡き後の子を思い心中したのだ。
しかし、その後、赤ん坊の亡骸は見つからなかった。
数日後、地元の人たちが改めて荒井川を捜索すると、
ちょうど赤ん坊の頭の大きさくらいの石を見つけた。
見るとちょうど骸骨のようなくぼみもある。
発見者はどうしてもその石を捨てられず、村の鎮守の神主と氏子達を集め相談し、神社に奉ることにした。
いまでもその石は加園の神社のどこかに安置されているという。氏子に頼んで探せなくもないが、実際にその石を見た人は少ない。
また、夏の夜、荒井川で赤ん坊の泣き声が聞こえることがあると、伝えられている。これは現在でも結構な数の体験談がある。
加園の生子淵地区にある生子淵観音には、安産のご利益があるという。
でも拝みにくるのはだいたい年金を貰ってる爺さん婆さんである。散歩のついでである。

この話はおそらく戦前に出来た創作だが、実際に川で命を落とす人もいるわけで、
「水には気をつけろよ、あと子供も大切にしろ」というお話。
あと石は実在するが、たとえ創作の話でも粗末に扱えるものではない。
大切に保管され、信仰の対象となる。