その日は風が全然吹かない日でひどく蒸し暑かった。
夕飯の材料が足りなかったからちょっと早いけど外に食べに行ったんだ。
丁度毎週水曜日は割引Dayだったしな。
その途中の十字路で青いちゃんちゃんこみたいな服を着て
上が尖った帽子(座布団を折って帽子にしたような)をかぶっている男の子に会ったんだ。
6,7歳くらいの背丈だった。
夏なのに暑そうだな……なんて特に気にもせずそいつのすぐ前を通り過ぎた。
自転車に取り付けたバックミラーを覗いてみてももうそこには誰もおらず
代わりにずっと付きまとっている女の幻覚だけしか視えなかった。
真っ暗だったから余計にハッキリ視えた。もう怖がることにも飽きて余計に吹き出す汗を拭きながら
ライトを点けて近所の人気飲食店に行った。人もほとんどいなくてラッキー。
閉店ギリギリってやっぱいいな。割引してくれなくて文句言ったら怒られたけどさ。

「そいつ、どんな顔してたの?」
次の日、電話で友達にそう訊かれた。変に焦っているようで安心させるために
「いつもの幻覚だって。顔なんて見えなかったし。帰りにもいたから」
というと、不機嫌な口調で言い返されてしまった。
「昨日のことくらい覚えとけよ」
話の流れで深夜にそいつの家に遊びに行くことになった。
 しばらく一緒に話していて、時刻は丑三つ時を迎える。
「やばー。そろそろ帰った方がいいかも」
「えー、白けるなあ」「これ以上ここにいたら危ないし」
主に帰り道が。怖いよバカ。
「あー、そっか。それに弟に悪いか。こんな遅くまで」
友人は一人で勝手に納得していたが正直眠かったから放置して帰った。
 途中、ふとあの青いちゃんちゃんこを羽織った少年の姿が浮かんできて
急激に怖くなってきた。ついつい神経が過敏になって何でもないものに人が視えるようになってた。
そういう時ってやっぱり自分の記憶にあるモノを見せるんだよな。
またあの子供がいたんだけどさ、やっぱ顔も見えなかったからきっと幻覚だったんだわ。