俺が大学生だったーー親元を離れてバイトをしつつ、新生活も軌道に乗り始めていたーー時の事だ。

その日もバイトから帰ってきた途端、疲れの波がどっと押し寄せてきて、風呂もそこそこにすぐ寝てしまった。
俺は一度寝てしまうと余程の事がない限り起こされないんだけど、今回は違っていた。
夢かうつつかは分からないけど一晩中「○○○! ○○○!」と何度も誰かに名前を呼ばれている感覚があって、午前5時前後だったかな…パッと飛び起きた。そして何気なく携帯の待ち受け画面を見たら何件も履歴が残っていた。
全て父からのものだった。

午前3時や4時など考えられない時間に掛けてきていたから、ただ事ではないと思い掛け返した。
電話が繋がるなり、第一声に「なんで出ないんだ!」と明らかに動揺を含んだ声で父が怒ってきた。
あんな時間に出られるわけないだろ…と起き抜けの頭の中で思いつつ事情を聞くと…それは母の危篤だった。
昨日の晩に突然倒れ、そのまま昏睡状態に陥ってしまったのだという。

自分まで動揺するわけにはいかないと思い、病院の名前だけ聞いて
大家さん(これくらいの時間にはもう起きていた)にも断りをいれ、簡単な身支度だけ整えて一路故郷へ。
移動中は無事意識を取り戻してくれることだけを考えていたんだけど、不意に別の事が脳裏をよぎった。
ひょっとしたら何度も呼ばれたのって母か父が…?

幸いにして、病院に着いてから数時間後、祈りが通じたのか母は無事意識を取り戻した。
そこでふと、今日の日付を思い出して俺は背筋が震えた。

母が倒れた日、祖母の命日だ…。

病気も同じだったし、ひょっとしたら呼ばれたんじゃないか……?

そういえばあの日もこんな風に雨が降っていたなと、思い出して書いてみた。