遊就館ね、出征兵士の家族にあてた遺書は心打たれるものがあったな
文面から伝わる彼らの優しさと人柄、歳もまだ15、16の奴もいる、なのに立派で真摯で純粋な彼らの手紙に心打たれて
そのコーナーの前でつっ立ったまま泣いてしまったことがある。
立ったまま声を出さないよう歯をくいしばって手紙を読んだ、時が時、世が世ならその手紙の彼らと出会っていたかもしれないなと思ったと同時に
酒の一杯でもおごってやりたい気持ちになった、いやたらふく飲ませてやりたい気持ちに・・・

なんでもない平日の昼間に行った、ほとんど来館者は居なかったので人目もはばからず遺書の前で泣いていたら
開襟シャツにスラックス姿のじいさんがいつの間にか俺の左後ろにいて、「ありがとう、ありがとう」と言いながら俺の肩を叩いた
俺は振り返って、これを見て泣けなきゃ男じゃないっす!と照れ笑いまじりに言った、そのじいさんの胸には七宝焼きの小さなバッヂが三つついていた
桜のマークのバッヂとよくわからない物が二つ、多分従軍経験者なんだろう

俺はまた来ますとじいさんに一礼し廊下を歩きだした、花嫁人形の角を曲がるときに今いた場所を振り向いたら
さっきのじいさんが俺に礼をしていた、俺が歩いているときも頭を下げていたのだろうか?