それから数日後の夜中、また父が息をしていない。
母は、何度も父の名を呼びながら揺り起こしたが反応がなかった。
父は救急車で病院に運ばれた。母からの連絡でわたしと妹も病院に駆けつけた。
命に別状はないが、意識が戻るのにもう少し時間がかかるとのこと。

病室で父の意識が戻るのを待つ間に、先日の花の夢のことを母から聞いた。
妹は、父の無事が確認できたことの安心感からか、冗談半分に、
「それって臨死体験で、花畑をみちゃったんじゃない?」と母に話すと、
「お父さんはそういう話に興味がないから、違うと思うよ。」と返された。

父は数日で退院した。病院に運ばれたのが早かったために障害も残らなかった。
退院祝いに父と母、私と妹の4人で食事会を開いた。
そこで父はこんな話をはじめた。

「最近さ、自分のイビキがうるさいなあ、って思いながら寝てるんだよ。
しばらくするとすごく静かになって、なぜか一人で花畑に立ってる夢を見るんだよ。
病院に運ばれた日も、やっぱり花畑に立ってた。で、そこにばあさんが現れてさ。
一輪の大きなバラの花を指差して、『綺麗に咲いてるでしょう。香りをかいでごらん。』
って言ったんだ。その花の香りを吸い込んだとたんに、息ができるようになったんだよ。
妙な夢だろー。」

翌日、実家の仏前には、祖母が生前好きだったお菓子と、
父が大切に育てていた庭の花が備えられていた。