再びK県に赴いた青年は、あのトンカツ屋に行ってみることにした。
しかし、探せども探せども店は見つからない。
おかしい…住所は合ってるし、近隣の風景はそのままだし。
まさかこの一年で潰れた…とか?いやあんなに旨い店なのに。
仕方がないので、住民に聞くことにした。するとあの老人が、

「ああ、あの店ね。あそこは11年前に火事で全焼してね。
 家族3人だったけど、皆焼け死んでしまって…」

そんな…青年があの店に入ったのは去年のことだ。
戸惑う青年をよそに、老人は続けた。

「毎年、火事で店が全焼した日、つまり家族の命日にだけ、
 その店が開店する…って話がある。入った客も何人かいるようだが…。
 あんた、去年入ったの?」 
       
        『来年も、またどうぞ』

帰り際の店主のあの変わった挨拶。
あれはつまり、来年の命日にもまた店に来いと、
そういうことだったのだろうか…。 
恐慌をきたしながらも青年は、家族の命日だけは確認した。
案の定、去年青年が店に入った、その日だった…。

……その話を青年から聞いた友人は、
「そんなバカなことあるかよ。お前ホントにトンカツ食ったの?」と。
青年は答えた。
「本当に食った!あんな旨いトンカツ初めてだったし、それに子供が
 奥の部屋で見てたテレビ番組、ルパン三世の曲だってことも憶えてる」

しかし青年は、しばらく考え込んでから呟いた。
「そう言えば、子供の首が無かった気がする…」