ドアは確かに開け放されていた。
あの下の階から聞こえる人の声はもう聞こえなくなっていた。
音が何もなく、耳がキーンとなりだした。
ドアのむこうに目をおそるおそるやる。
暗闇が広がっていた。何も見えない。
だが確かになにかの気配を感じる。
怖い。誰かを起こしたい。
体が固まってしまって自分のからだでないかのように全く動けない。
声をだそうとしたが、かすり声すらでない。
そうしているうちに暗闇の中にだんだんぼんやりと影が浮きあがってきた。
みるみるうちに影が人の形をなしていく。
心臓がバクバクなり、喉がからからになった。
それが部屋に入り込んできてこっちに近づいてきた。
そしてそれはおれの足元にまでやってきた。
おれは目をぎゅっとつむった。
するとそれはまるで本当の人間のようにギシギシはしごをのぼり
上のベッドに横たわった。
弟は眠れなかったので下の階でテレビを見ていたらしい。
おれの勘違いだった。