実家の犬(2/2)

実家に帰ると、そいつは玄関に寝かされていた。おしめ姿が妙に笑えた。
電話では聞かされていたけど、まさに余命幾許もないって感じだ。
腐ったような舌を投げ出して、薄目を開けてこっちを見上げてやがる。
おれは上がり框に座ると、つま先でそいつの前脚を小突いた。

「おしめ替えてやろうか?」

むっとしたんだろうな。そいつは目やにだらけの目を見開くと小さく唸った。
靴を脱ごうとしたときだ。死にぞこないとは思えない勢いで飛びかかってきやがった。
ふいを突かれたおれはただ身をすくませた。いやはや大した爺さまだよ。

気がつくとそいつは下駄箱の方にすっとんで、苦しそうにのたうっていた。
年寄りの冷や水ってやつか。が、どうも様子がおかしい。口になにか咥えているようだ。
ネズミ? いや違う。魚のようにも見えるが野菜のようにも思えた。なんだあれは!

おびただしい血が流れ出した。次の瞬間、得体の知れないなにかは掻き消えてしまった。
そいつは息をぜーぜー切らしながらしばらくおれを見ていたが、そのまま息を引き取った。
血の跡は吐血ということにした。得体の知れないなにかのことは家族には伏せたままだ。