鏡の通路の一面に、まぎれるようにガラスケース。
その中に、真っ白な大理石の坊さんの像があった。
大仏みたいに右手を前に、左手を上に向けてまっすぐに立って、
目は薄く笑ったような半眼で、口は歯を見せて笑ってる。
その目からも口からも鼻からも、真っ赤な血が出てた。
真っ白な大理石に恐ろしいくらい真っ赤な血のり。
首まで血がたれたその坊さんの、菩薩のような微動だにしない笑顔。
そんなものがガラス一枚隔てて存在するという異常事態。
真っ暗なミラーハウスの中で、鏡の反射とその坊さんだけが
白く浮かんで見えた。
今思えば2メートルもないんだろうその大きさも、子供の自分には
むちゃくちゃ大きく感じられた。

恐怖で声も出なかった。
とにかく走って走って逃げまくった。
驚くべきことに、あれだけ迷った道筋を、一度も迷うことなく
自分は入り口から飛び出した。
とにかく速かった。推定速度50メートル8秒台は堅かった。

先に出ていた姉は何も見ていないと言うし、
どんなに怖かったか身振り手振り訴えても親は腹を抱えて
ゲラゲラ笑うだけだった。
あれから何度もこの話を友達にもしてみたが、その遊園地に
行ったことのある友達誰一人として、そんなものを
見た事はないと言う。

あれ以来、あのミラーハウスに行くことは絶対になくなった。
時が流れてあの遊園地にいくことすら稀になった。

でも、今でもあの坊さんの顔をはっきり思い出せる。
夢や偽の記憶にしてはリアルすぎる。
第一あの頃、自分は目や口から血が出るなんて知らなかった。